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第1章 邂逅
第1話 プロローグ
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~プロローグ~
「関係ない奴は退場願おうか」
そう言われると同時に強烈なパンチを浴びて、吹き飛ばされる。派手に飛ばされて後ろの男に支えられる。
殴ったのも支えたのは全身黒づくめの男たちだった。周りを数人に取り囲まれていて、逃げるところはない。
その外側を大勢の野次馬が取り囲んでいるが、助けに入るつもりの酔狂な奴など勿論いない。
詰んでいるのは明らかだった。
「フィン! フィン!! しっかりして!!」
揃いの黒いスーツの女に拘束された少女が、俺に向かって叫んでいる。
こんな時でも彼女の美貌は人目を惹いた。
(……ちっ! やっぱり厄介事じゃねぇか、カリーナの野郎…)
心の中で悪態をつきながら、それでも少女には大丈夫だという風にジェスチャーを返す。
ふらふらしながら立ち会ったところに、男が距離を詰めてくる。
「いいか? 二度とお嬢様には近づくな!」
今度はボディに重いのを一発貰い崩れ落ちる。
「フィン! ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで!!」
(全くだ、俺は普通に暮らしていただけだぜ…)
とは言え少女の泣き顔を見るのは辛い。
黒づくめの連中が殺す気であれば銃で一発なのだから、命まで取る気は無いのだろう。
大切なお嬢様についた虫に、ちょっとヤキを入れに来ただけだ。結果的に死んでも気にはしないだろうが…
(…クソッタレ!)
そんな事で何故俺が殴られなきゃいけないんだ!!
お嬢様には文句の一つも言ってやりたいとも思うが、そんなつもりにもなれなかった。
詰まるところ、俺もあの生活を楽しいと思っていたのだと気が付く。
ならせめて目の前の男に一発返そうとする。……が、無駄なあがきだった。
「忠告はしたぜ!」
全力で放ったこっちのパンチはあっさり避けられ、カウンターの右フックを受けて崩れ落ちる。男は立ち上がれない俺の姿を見て満足したのだろう。
「引き上げるぞ」
合図をすると共に少女が再び叫ぶ。が、女が少女に耳打ちをすると、引きつった顔になり押し黙った。そのまま連れ去られるお嬢様は何度もこちら見て涙を流していた。
…そして俺は野次馬に見守られながら意識を手放した。
◇◇◇◇◇
敵機に見つからない様に迷彩色に塗られた機体は、見方機と言え判別しづらい。
敵に発見されるのを避け、分厚い雲の下の雨模様の空を、編隊を組んで基地に帰投中だった。
出撃時の機体数からは半減し、激しい戦闘の為に機体もパイロットも限界だった。フロントで唸る単発のエンジンはバラついた回転をしているが、運よくまだ動いている。
数機は進路維持もままならずよろよろしている。恐らく数機は基地まで戻れず脱落するだろうとぼんやりした頭で考える。
コクピットから見下ろす地上は灰色に燻る世界だ。まったくくそったれな話だ…
戦争は激しさを増すばかりで、出撃回数は増えていた。それなのに物資の不足から整備の質は低下し、機体もパイロットも碌に補充されなかった。
そんな中で最大規模の侵攻戦が計画され全兵力が投入されたのだ。しかし結果は壮大な消耗戦となり、疲れ切った体に鞭を撃ちながらの帰路となった。
それでも今日も何とか生き残れそうだ……
そう思った時だった。俺はふとそれが夢で過去の出来事だったと思い至った。どうやら余りの天気の良さにコクピットで転寝をしていたらしい。
今は抜けるような青空の下、白い翼は漂うように空を翔けている。双発のエンジン音も聞きなれたものだ。
戦闘機に乗っていたのは思い出したくもない過去の悪夢だと自分に言い聞かせる。
大きく息を吐いてから周りを見渡す。頭上の真っ青な大空と、足元の真っ青な大海原で、青に溶け込んでしまいそうだ。
ところどころに白い雲があるが視界を邪魔するものは無い。絶好の飛行日和だろうに、何故あの時の悪夢なのか…
高度一万フィート、速度二百ノットで巡行しているとは思えない静けさを感じる現実に安堵した。
ここには争いも命のやり取りもない。
北オリアンティカ海の上を、北方大陸にあるアルティネロ王国のカラビアを目指し北上している最中だった。
この世界はオリアンティカ海を挟んで南北の大きな大陸がある。
大陸と大陸のちょうど中間に奇跡のようにサルティーナ諸島が散在していた。
大小合わせれば数百余りの島からなるサルティーナ諸島はサンゴ礁が発達しており、その海の色から碧海の宝石と呼ばれる美しい場所だった。
オリアンティカ海の激しい潮流と、発達したサンゴ礁により大型船が近寄れないことから、この機体のような水上機が主な交通手段になっている。
サルティーナ諸島はどちらの大国からもかなり距離があり交通の便も悪い。
そのため独立領としてほぼ自給自足の生活を送っているのだが、気候とその素晴らしい景色のおかげで貴族を中心に観光とバカンスの地としても人気だった。
双発のエンジンが奏でる音と風切り音を耳に心地よく感じながら、俺はゆったりと水平線の先を眺める。
サルティーナ諸島を飛び立ってから四時間、もう少しすれば北方大陸が見えてくるだろう。
今日の空は良いなあ。この季節は何時もいいが今日は特別だと感じる。
昨夜なじみの工房から依頼したいことがあるから北方大陸まで来いと無線で連絡があったのだ。丁度機体のメンテナンスの時期が近かったので、作業を兼ねて引き受け、出発してきたのは正解だった。
夢見は良くなかったが、根拠なくこれから向かう商談は上手くいく予感がする。
そう思ううちに予定通り陸地が見えてきた。地形を判断すると予想より少し東に流されていたようだが、この程度なら問題ない。少し方向を修正して高度を下げ始める。
今日の晴れた空の様に、気分は最高になってきた。
「関係ない奴は退場願おうか」
そう言われると同時に強烈なパンチを浴びて、吹き飛ばされる。派手に飛ばされて後ろの男に支えられる。
殴ったのも支えたのは全身黒づくめの男たちだった。周りを数人に取り囲まれていて、逃げるところはない。
その外側を大勢の野次馬が取り囲んでいるが、助けに入るつもりの酔狂な奴など勿論いない。
詰んでいるのは明らかだった。
「フィン! フィン!! しっかりして!!」
揃いの黒いスーツの女に拘束された少女が、俺に向かって叫んでいる。
こんな時でも彼女の美貌は人目を惹いた。
(……ちっ! やっぱり厄介事じゃねぇか、カリーナの野郎…)
心の中で悪態をつきながら、それでも少女には大丈夫だという風にジェスチャーを返す。
ふらふらしながら立ち会ったところに、男が距離を詰めてくる。
「いいか? 二度とお嬢様には近づくな!」
今度はボディに重いのを一発貰い崩れ落ちる。
「フィン! ごめんなさい、ごめんなさい、私のせいで!!」
(全くだ、俺は普通に暮らしていただけだぜ…)
とは言え少女の泣き顔を見るのは辛い。
黒づくめの連中が殺す気であれば銃で一発なのだから、命まで取る気は無いのだろう。
大切なお嬢様についた虫に、ちょっとヤキを入れに来ただけだ。結果的に死んでも気にはしないだろうが…
(…クソッタレ!)
そんな事で何故俺が殴られなきゃいけないんだ!!
お嬢様には文句の一つも言ってやりたいとも思うが、そんなつもりにもなれなかった。
詰まるところ、俺もあの生活を楽しいと思っていたのだと気が付く。
ならせめて目の前の男に一発返そうとする。……が、無駄なあがきだった。
「忠告はしたぜ!」
全力で放ったこっちのパンチはあっさり避けられ、カウンターの右フックを受けて崩れ落ちる。男は立ち上がれない俺の姿を見て満足したのだろう。
「引き上げるぞ」
合図をすると共に少女が再び叫ぶ。が、女が少女に耳打ちをすると、引きつった顔になり押し黙った。そのまま連れ去られるお嬢様は何度もこちら見て涙を流していた。
…そして俺は野次馬に見守られながら意識を手放した。
◇◇◇◇◇
敵機に見つからない様に迷彩色に塗られた機体は、見方機と言え判別しづらい。
敵に発見されるのを避け、分厚い雲の下の雨模様の空を、編隊を組んで基地に帰投中だった。
出撃時の機体数からは半減し、激しい戦闘の為に機体もパイロットも限界だった。フロントで唸る単発のエンジンはバラついた回転をしているが、運よくまだ動いている。
数機は進路維持もままならずよろよろしている。恐らく数機は基地まで戻れず脱落するだろうとぼんやりした頭で考える。
コクピットから見下ろす地上は灰色に燻る世界だ。まったくくそったれな話だ…
戦争は激しさを増すばかりで、出撃回数は増えていた。それなのに物資の不足から整備の質は低下し、機体もパイロットも碌に補充されなかった。
そんな中で最大規模の侵攻戦が計画され全兵力が投入されたのだ。しかし結果は壮大な消耗戦となり、疲れ切った体に鞭を撃ちながらの帰路となった。
それでも今日も何とか生き残れそうだ……
そう思った時だった。俺はふとそれが夢で過去の出来事だったと思い至った。どうやら余りの天気の良さにコクピットで転寝をしていたらしい。
今は抜けるような青空の下、白い翼は漂うように空を翔けている。双発のエンジン音も聞きなれたものだ。
戦闘機に乗っていたのは思い出したくもない過去の悪夢だと自分に言い聞かせる。
大きく息を吐いてから周りを見渡す。頭上の真っ青な大空と、足元の真っ青な大海原で、青に溶け込んでしまいそうだ。
ところどころに白い雲があるが視界を邪魔するものは無い。絶好の飛行日和だろうに、何故あの時の悪夢なのか…
高度一万フィート、速度二百ノットで巡行しているとは思えない静けさを感じる現実に安堵した。
ここには争いも命のやり取りもない。
北オリアンティカ海の上を、北方大陸にあるアルティネロ王国のカラビアを目指し北上している最中だった。
この世界はオリアンティカ海を挟んで南北の大きな大陸がある。
大陸と大陸のちょうど中間に奇跡のようにサルティーナ諸島が散在していた。
大小合わせれば数百余りの島からなるサルティーナ諸島はサンゴ礁が発達しており、その海の色から碧海の宝石と呼ばれる美しい場所だった。
オリアンティカ海の激しい潮流と、発達したサンゴ礁により大型船が近寄れないことから、この機体のような水上機が主な交通手段になっている。
サルティーナ諸島はどちらの大国からもかなり距離があり交通の便も悪い。
そのため独立領としてほぼ自給自足の生活を送っているのだが、気候とその素晴らしい景色のおかげで貴族を中心に観光とバカンスの地としても人気だった。
双発のエンジンが奏でる音と風切り音を耳に心地よく感じながら、俺はゆったりと水平線の先を眺める。
サルティーナ諸島を飛び立ってから四時間、もう少しすれば北方大陸が見えてくるだろう。
今日の空は良いなあ。この季節は何時もいいが今日は特別だと感じる。
昨夜なじみの工房から依頼したいことがあるから北方大陸まで来いと無線で連絡があったのだ。丁度機体のメンテナンスの時期が近かったので、作業を兼ねて引き受け、出発してきたのは正解だった。
夢見は良くなかったが、根拠なくこれから向かう商談は上手くいく予感がする。
そう思ううちに予定通り陸地が見えてきた。地形を判断すると予想より少し東に流されていたようだが、この程度なら問題ない。少し方向を修正して高度を下げ始める。
今日の晴れた空の様に、気分は最高になってきた。
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