Remember me, Sempai!!!!!

蛇腹木ユリカ

文字の大きさ
1 / 5

とろんと州イズ、カナダ

しおりを挟む
アイス買いに行ってくるねー、と言って陽気に揺れながら出て行った二人を見送って、リカコはエアコンのきいたワンルームの室内へ戻った。

腰に手を当ててぐるりとあたりを見まわす。

部屋の中は酒盛りのあとがそのままに、テーブルの上にはわずかに残ったおつまみやお菓子、入っているのだかいないのだか分からないビールやチューハイの缶がずらりと並び、床の上には高低さまざまな空き缶タワーが建築中。
中には倒壊しているものもあった。

リカコはキッチンからゴミ袋を拝借すると、床の上の缶を黙々と袋の中へと放りはじめた。
一つ二つ缶を放るごとに、そろそろタクミが戻ってくるのではと、手をとめて廊下の気配をうかがってみる。

こないと分かると、大きく息をついてみる。
はたまたテーブルの上の飲みさしの缶を一気にあおってみる。
とにかく、何かしていないと落ち着かなかった。

空き缶タワーの解体がいくらか進んだところで、タクミがトイレから戻ってきた。
リカコは缶を捨てる手をとめた。

「せんぱい、おかえりなさ~い」
「ただいまー。おしっこいっぱいでたわー」
「長かったですもんね~」
「でた分また飲めるぞ~」

っていうかリカコ何してんの、とタクミが胡坐をかきながら聞いてくるので、リカコは空き缶の詰まった袋を掲げて、ボランティアですえっへん、と胸を張った。

「ええ、いいよ明日オレがやっとくから。そんなことより飲もうぜ~!」
「せんぱ~い、そんなに飲んで大丈夫なんですか~?」

「大丈ー夫だいじょうぶ。自分ちだと酔いつぶれて路上で倒れる心配しなくていいからサイコー!」
「それはそうですけど~」

リカコはタクミに近づくと、肩に手をおいて顔をのぞきこんだ。
顔を傾けた拍子に、耳にかけていた黒髪がさらりと外れて頬にかかる。

「もうだいぶ酔ってますよね? 目がとろんとしてますよ」
「と」
「と?」
「とろんと州イズ、カナダ~!」

タクミはテーブルの上にのっていた黒ラベルをつかんでひと息に飲んだ。

「ぬるい! 暑い! エアコンの温度下げたくない?」
「あたしはいまのでとっても涼しくなったので大丈夫かな~」

リカコは買っておいたペットボトルの緑茶を空いたグラスに注いで、タクミに手渡した。

「お茶飲んだらほっとしますよ」
「ありがとう、心配してくれるなんて、リカコは優しいなあ」
「……やっぱりせんぱい、そーとー酔ってらっしゃる」

タクミは、人を評価する言葉をかんたんに口にする人間ではない。

本人はしょっちゅうサークル仲間からサボリ癖があってだらしがないとか、口調がバカっぽいとか、あいつはイイやつどまりだとか散々言われているが、タクミが他人に対して優しいとか可愛いとか、おっちょこちょいだとか言うところを、リカコは見たことがなかった。

シラフの時には、という条件付きだけれども。

「リカコちゃんはお酒もういいの? 飲み足りた~?」
「ええ~はい~! あたしは二人がコンビニから戻ってきたら帰ろうかなって思ってます」

「そかー。じゃ送れるくらいにはオレも酔い醒まさないとな!」
「何言ってんですかせんぱ~い! 送るも何も、あたしの家は上の階じゃないですかぁ~」

必要ないですってー! と言いながら、リカコはタクミの肩をぱしぱし叩いた。

ここは学生マンションだ。
だから多少のどんちゃん騒ぎはお互い様ということで大目に見てもらえる。

そうでなかったら、今頃横からも上からも下からも苦情が入り、リカコたちはマンションから叩き出されているだろう。

タクミは天井を見上げ目をすがめた。
そうすればリカコの部屋が透けて見えるとでもいうように。
ちなみに、彼女の部屋はタクミの真上にあるわけではない。

「あれ~? そうだったっけ? てかそんなに近いなら帰らなくていいじゃん、ここ住んじゃえよ」
「いーえ、だめですよ~」

「えーなんでーオレリカコと一緒に住みたい~」
「……もう、この酔っ払いめ~」

リカコは頬をふくらませて、怒ったような表情でタクミの眉間を人差し指でつついた。
つつかれたタクミは何が嬉しいのか、破顔しながらテーブルに両肘を乗せる。

「いやでもまじ。リカコ可愛いし気が利くし。実のところ、超好みです」
「……」

リカコもテーブルの上に肘をついた。
続きをうながすように、やんわりと微笑を浮かべる。

「ほらリカコって世話焼きじゃん。友だちや後輩のみならず、見知らぬ学生でも困ってるとみるや平気で話しかけに行くし。その行動力はソンケーに値します。授業サボってると絶対ラインくれるのも嬉しい。毎回サボりたくなる」

「単位落としちゃいますよ」

「黄緑色が好きだからコンソメスープのキャベツが好物なところとか意味分からんくて好きだし、たまに持ってくるおにぎりかじってるとことか可愛いし、あ、梅干し食べるときすげー顔しかめるの好き。初めて会った時は髪の毛長くて美人きたって思ったけど、ショートになった今もキュートだし、くしゃみがおやじっぽいし、不機嫌な時にがしがし頭かくのも分かりやすくていいと思う」

「な、なんかもうそれ、好みってより、まんま好きなポイントじゃないですか~」

リカコは頬杖をついて目を細めた。
手のひらに支えられて顎はやや上向き、ゆるゆると半開きに笑う口から白い八重歯がのぞく。
更にその奥に、熟れた果実のように赤い舌がちらりと見えた。
潤んだ瞳は満月に照らされた湖面のようにキラキラと輝いている。

タクミは相好を崩してその湖面に飛び込んだ。

「うん。オレリカコのこと好きだよ」
「あたしも、せんぱいのこと好きですよ」
「ほんと? 両想い? やった! ちゅーしよちゅー」

タクミが目をつぶって唇を突き出す。
リカコは笑ったままその顔を眺めていた。
瞳の湖面は凪いだまま、タクミのタコ顔を映している。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...