宇宙戦鬼バキュラビビーの情愛

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番外編:ハラダレミーの友愛

日曜日のハーモニーホール

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日曜日。

昼下がりの太陽がまぶしいなか、私はおとなしめの服を着て市立ハーモニーホールの前にいた。

「チケットが無駄になるのが嫌なだけだから」

誰に何を聞かれたわけでもないのに、ポロリと口からこぼれてしまった。

今日がくるまで、ナカザトが店に来ることはなかった。

リザ・フェルディナンドのチケットは、私が預かったまま。

今日が終わると紙くずになってしまう……と思うと、落ち着かなかった。

貧乏症だからなぁ。

転売しようかとも思ったけど、人のものを勝手に転売するほど腐った人間じゃないつもりだ。

しかたなく、チケット2枚とも持って、ピアノリサイタルの会場までやってきてしまったのだ。

一音は誘わなかった。

今日は誘うべきじやないだろうな、という直感があった。

「お、やっばり来たな」

からかうような声が聞こえ、私は振り向く。

グレーのジャケットを着たナカザトがそこにいた。

少しフォーマルに決めているようだけど、なんだか、似合っていない。

「これを、お忘れだったようなので」

チケットの封筒を突き出しながら、私は言う。

「忘れたんじゃねえよ。置いていったんだ」

「でしょうね」

ため息をつきながら、チケットを持つ腕を下げる。

「ほう、分かってたか」

「そんな気がしてましたけど、お客様の貴重品を無駄にするわけにはいきませんから」

「話が早くて助かるな。ほらコレ持っとけ」

ナカザトは小さな紙袋を押し付けてきた。

この柄は、高級菓子店のダイハチの紙袋だ。

「いっとくが、お前にやるプレゼントじゃないからな」

えー、ちがうの。

「恥をかかないためのお守りだと思って持っとけ」

それだけ言ってホールのほうへ歩いていくナカザト。

私に渡したものとは別の、もっと大ぶりの紙袋を左手にさげていた。

「チケット、忘れてますよ!」

私は慌てて追いかけた。

建物に入ってすぐ、ロビーの入り口にはスタッフがいて、来客のチケットをもぎっていた。

もぎるだけで何も渡していない。

パンフレットとか、くれないのかな?

とか思っていると、ナカザトはスタッフを素通りしながら、

「俺のぶんも一緒に頼むわ」

と言ってさっさと入ろうとする。

私は急いで2枚のチケットを封筒から取り出した。

スタッフが、即座に私たちの姿とチケットの枚数を確認し、2枚同時に半券をもぎ取る。

「ごゆっくりどうぞ」

スタッフはそう言うが、ナカザトがずんずん先に行くので、私はちっともゆっくりできない。

ナカザトはまっすぐホールのほうに行かず、ロビーの端にあるテーブルへの向かっていく。

テーブルについているスタッフに紙袋を渡すと、ナカザトは慣れたように、紙に何かを書き始めた。

戸惑っている私に、何かを書き終わったナカザトは、

「プレゼント受付だよ。やったことないか?」

とか言ってくる。

「え? もしかしてリザ・フェルナンドに? プレゼントとか、あげていいものなんですか?」

「はるばるドイツから来てくれてるのに、何もないのは失礼だろ?」

えー。

ここ、有料の、しかも高額のコンサートですよ?

その上にさらにプレゼントあげるんですかー?

まあ私はチケット代すら払ってないけどさー。

てことは、このダイハチの紙袋は……。

見よう見まねで、紙袋をスタッフに渡してみる。

スタッフが、

「こちらにお名前と住所をお願いします」

と、丁寧にテーブルに置かれた紙を案内してくれる。

その一方で、番号の書かれた小さなシールを、紙袋に貼っている。

なるほどね。

こうやってどのプレゼントが誰からのもらったか管理しているわけね。

私は名前と住所を書くと、

「ありがとうございます」

というスタッフの言葉に見送られて、プレゼント受付を後にした。

ロビーをうろうろする品のよさそうな来客をかき分けて、ホールの指定席に座った時には、すっかり疲れてしまっていた。

「こういうところは慣れないか?」

隣に座っているナカザトが声をかけてくる。

「すいませんね。育ちがよろしくないもので」

「なら、その変に丁寧なしゃべりかたもやめたらどうだ? おまえの素じゃないだろ」

「お客様相手なんだから敬語にもなります」

「ここは店じゃないだろ。今の俺は客じゃない」

「はいはい、わかったわかった。普通にしゃべる。これでいい?」

「そうそう、そっちのほうが、ずっといい」

ナカザトはニヤリと笑った。
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