アマドーラ帝国の雫

空うさぎ

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離宮のフェスティバル2

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ルシア離宮は、都心部の南側に位置した小高い丘にそびえ立ち、別名【ボウスワン城】と呼ばれる白亜の城である。
 ラルムは幼い頃に一度だけ訪れた記憶がある。

 パッサージュのルノーを出ると直ぐに、レオの黒い馬に乗せられ、あっという間に離宮まで来てしまった。
 離宮に着くと、レオは慣れた様子でエントランスの正面に馬を寄せた。まだ晩餐会までは時間が早いのか、到着している馬車は見当たらない。


「お早い無事のお帰りで、何よりでございます」

 私が馬上からレオの手を借りて、下に降り立つと同時に、執事らしき紳士が、レオに頭を下げて言った。レオは、特にかしこまる様子もなく、まるでそれが当然であるかのように、軽く頷いた。

「馬(シンシア)を頼む」

 素っ気ない一言であったが、絶対的に人を従わせることに慣れているレオの口調に思わず、彼を見上げてしまう。


「承知いたしました。ところで、そちらのレディはゲストフロアにご案内いたしましょうか?」


「いや、いい…私が案内する」


 ただ呆然と彼を見上げていた私と彼の視線が交差する。
 馴れない場所と、状況がいまひとつ飲み込めないことから、私はきっと不安気な表情をしていたに違いない。


「ラルム…大丈夫か?」

 レオが気遣うように自分の手を私に差し出す。
 私は彼の手を取ると、軽く頷いた。
 ―彼は本当に…ただの帝都の騎士なのだろうか…?
 私の中で疑問が沸き上がる。


 レオは私の手を自分の肘に添わせると、言葉を続けた。

「―そのように、不安そうな表情かおをしなくても大丈夫だ。君は私に付いてくればいい…」


「…は、い」
 私はぎこちない返事を返す。
  ―今は、レオを…信じよう。


【ボウスワン城】はその名にふさわしい堅牢で華麗な造りの美しい城だ。そして…ルシア中の女性が憧れと羨望の眼差しを向ける贅沢な空間。

 一般公開されているエリアを通過して、王族のプライベート区域であるロイヤルエリアに立ち入る寸前に、私は不意に立ち止まった。

 ―アルカサンドラ王家…。
 マテリアス家を貴族社会から除籍にした絶対的権力の象徴。
 ―レオは帝都の騎士だから、アルカサンドラ王家については詳しいのかもしれない。
 でも…先程からのレオの立ち振舞いを見ていると、王族と何らかの繋がりがあるのではないか…私の中で疑問が膨らむ。
 この広い城内に一切、迷う事もなく、まして一般の立ち入り禁止のエリアでさえも、少しの躊躇いもなく通過して、今はロイヤルエリアの前に立つ…彼はいったい何者なの?

「ラルム、どうした?」

 レオが私に視線を向けたのがわかった。


「―レオ、貴方は本当に帝都の騎士?まさか…アルカサンドラ王家と何か繋がりがあるのではない?」

 私は前方へと続くロイヤルエリアを見つめたまま、レオに視線を合わせる事なく言葉を返す。

 ―もし、レオがアルカサンドラ王家と関係がある騎士だと分かったら…私はどうしたらいいのだろう。
 そこまで深く考える余裕もなく、問いかけた言葉の返答を待つ。一気に全身の緊張感が高まる。




「―何度も王族の警護に来ているからな…別にアルカサンドラと関係があるわけではない」

 ―本当に? 
 手先が震える程に高まっていた私の緊張感は、徐々に解きほぐされていく。

「良かった…レオが王族の関係者だったら、私…」

 そこまで言って…私は口を閉ざした。
 ―これ以上は言えない…と思った。
 マテリアス家の事に他者を巻き込むわけにはいかないのだから。

 レオは何も言わずに…肘に添えた私の手の上に、もう片方の自分の手を重ねると《ポンポン》…軽いタッチを繰り返した。

「…ごめんなさい」

 まだレオの顔を見上げることはできない。
 でも…不思議な安堵感に包まれるのを感じた。

           
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