圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

エロマンガ教へようこそ

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 翌日、いつも通り四人で朝飯を食べ、オレと由々式は、平日と同じ時間帯に部屋を出て学校へ向かった。

 校内は休日だと言うのに、三年の教室がある二階は、人通りが多かった。

「三年の教室って初めてだ」

「そうなんか? ワシは一年の教室より長い事こっちに居るがのぅ」

 随分と頼もしい事を言ってくれる由々式にジロリと疑いの目を向ける。特に絡まれる訳ではないが、すれ違う三年がくれる一瞥には、思わず体が硬くなってしまう。

「まあ三年の教室とは言え、ただの空き教室じゃ。中に居るのは殆ど一年じゃから、そう緊張せんでもいいべ。あぁ、でもな、さすがに補習やっとる教室に突撃すんのは止めとけ。邪魔にしかならんからの。大人しく、ワシらの部屋で終わるのを待つべ」

「お前らの邪魔にはならないのか?」

 正に我が物顔で他学年の廊下を歩く由々式を信じる事にして、一つ気になる事を尋ねた。

「変な気は遣わんでいいべ、別に邪魔にはならんからな。今まで夷川を呼ばんかったのは、春日野がへばり付いとるか、裏番にへばり付いとったからだべ」

 客観的に見たら、オレはスバルと同じ事を先輩にしてるんだな。由々式の何気ない言葉に軽傷を負い、赤くなった顔を隠す為に下を向いて歩いていると「ここじゃ」と由々式が足を止めた。

 補習をやっているらしい教室は、四つほど教室を挟んだ先のようだ。

 結構な人数が集まっている気配を感じながら、目的の空き教室へと視線を向けると『関係者以外 立ち入り禁止』と達筆な文字の張り紙が目に入った。

『勝手に入ったらお仕置きよ!』

 そして張り紙の横には、色んな所がギリギリな紐のような水着の爆乳女が、谷間に警棒をぶっさしてウインクしていた。

「勝手に持って帰ったらいかんよ?」

 扉に貼られたポスターをワザとらしく隠し、由々式が振り返ったので「んなもん、いらねぇよ」と肩パンする。

「この子はもう貰い手がついとるからのー。どうしても欲しかったら、次の抽選にエントリーしてくれ。来月の新作はバニーガールじゃよ」

 由々式は腹立たしい事にヒョイとオレの攻撃を避け、何故か扉横の机に置かれた無駄に物々しい錠前の付いたブリキの箱を指さす。一緒に置かれた用紙を手に取ると『月間ポスタープレゼント抽選申し込み用紙』と記載され、学年と名前を記入する欄があった。

 こんなもん誰が欲しがるんだと、ブリキの箱を持ち上げ振ってみたら、中からガサガサと大量の紙を窺わせる音が聞こえた。圏ガクの健全なだか不健全なんだか分からない現状を目の当たりにしてしまい、箱をそっと元の場所に戻す。

 男同士で掘り合う生徒会と比べたら、マンガの女に熱を上げる方が健全だよな……そう納得しかけたのだが、自分が完全に不健全寄りなのを思い出し、保身の為つい用紙に名前を書いて箱に入れてしまった。

「お主も好きじゃのう~。なら中は宝の山じゃよ、ほれ早く入るベ。我らが神を紹介するべ」

 甚だ不本意だが、生徒会と同一視されないだけマシかと、先輩に心の中で詫びながら(別に本気で裸の女の絵が欲しかった訳ではないのだ。保身の為であって浮気にはカウントされないはず!)由々式たちの作業場へ足を踏み入れた。

 生徒会室と毛色は違うが、そこもまるで別世界だった。部屋の奥には、文明と切り離された圏ガクではお目にかかる事のないパソコンが一台と言わず二台もあり、何に使うのか分からない機械がいくつも見える。

 一番に目がいったのはパソコンだったが、目の前にあるのは別のモノだった。夏休みに悪戦苦闘した第二図書室を思わせる本の山が、入り口のすぐ横にある壁に設置された本棚から溢れて積まれている。

 オレの中に眠る破壊神の存在を思い出し、足は自然と前に進む事を拒んだのだが「邪魔じゃのう」と言って由々式が豪快に蹴り崩して道を作ってくれた。

「神殿、今日は土産を持って来たべ。夷川、こっちじゃ」

 雑多な室内を躊躇なく進む由々式の背中を追うと、周囲の乱雑さが嘘のような整然とした空間に出た。

 広々とした机に描きやすいようにだろうか、傾斜の付いた台のような物が置いてある。他に机の上にある物と言えば、長さの揃ったピンと尖った鉛筆が几帳面に五本並べられ、真新しい消しゴムも添えてあった。

「夷川、こちらが圏ガクに唯一の癒やしを与えて下さる神、呉須百千殿じゃ」

 ゴスモモチと紹介された神は、黙って椅子から立ち上がり深々と頭を下げた。「よろしく」とオレが短く挨拶すると、呉須はゆっくり顔を上げ、濁りのないドングリのような目をオレに向けて、一言も発せず右手を差し出して来た。

 なんで握手? と一瞬は迷ったが、今まで会った事のないタイプだったので、オレも黙って手を差し出した。

 呉須はまじまじと物珍しそうに人の手を眺めた後、握手というには異常なほど慎重に握り返してきた。もちろん、一連の動作中も無言を突き通し、オレは怪訝な顔をせざるを得なかった。

 身長がかなり低く、小太りなせいか、呉須の手は小さく無駄に柔らかかった。汗ばんでる訳ではないので、触れている事に対する気持ちの悪さはなかったが、手を上から下、右から左に舐めるように見られるのは、あまりに得体が知れなく気持ちの悪さしかない。

「えと……呉須、だったよな。こいつ何してんだ?」

 手を撫で回し始めた呉須は、オレの方を一切見ないので、隣に立つ由々式に助けを求めた。普通の奴に同じ事をやられたら、問答無用で蹴り飛ばすが、目の前の奴は見た目からちょっと異様で、扱い方に迷ってしまったのだ。

 オレが名前を口にしたせいか、呉須はスッと顔を上げ、また黙ってオレの目を見つめてくる。はっきり言って恐い。

「こいつは自覚がないからのう。モデルの話はまだしてないんじゃ。恥ずかしがって来なくなるかもしれんと思うてな。だから、神殿が気になさる必要はねぇべ。夷川も怒ってないじゃろ」

 由々式が話している間も、呉須はまばたきすらせずジッとオレを見ている。怒るって何がだ。訳の分からない事を言いやがる由々式を問い詰めたかったが、まずは手を離して欲しくて「ああ」と同意し、少し強引に手を回収する。

「で、夷川。まさか断るとは思わんが、一応は聞いておくベ。神殿の頼みを聞いてくれるんかの?」

「は? 頼みってなんだよ」

「今日一日、モデルになって欲しいって、神殿が言っとたじゃろ。なーに緊張しとるんじゃ」

 寝ぼけているのかと言いたげな由々式が、ポンとオレの背中を叩いてきた。

「だから、なんの話だよ。つーか、オレはコイツと初対面だからな。何も聞いてねぇって」

 目の前の呉須を指さして文句を言う。なんか中途半端なゆるキャラが人に化けたとか、そんな冗談みたいな姿をした男は、表情一つ変えずジッとオレを見上げている。

「何言っとるんじゃ、こうやって何度も頼んでおるではないか。夷川の周囲に劣等感を強制的に植え付ける百害あって一利無しな顔が役に立つんだべ。快く引き受けると言ってやらんか」

「いやいや、コイツさっきから一言も喋ってねぇからな! てか、ケンカ売ってんのかテメェ」

 オレと由々式の噛み合わない会話を聞き、呉須はポンと手を打ち、そこらに無造作に置かれたスケッチブックを机に広げ、鉛筆を持つやスラスラと何か描き始めた。

『ごめんね おしゃべり苦手なの』

 そこに描き出されたのは、片方の紐がずれ落ち右側の乳と乳首が露わになったポスターの女が、語尾にハートマークを付けながら謝罪していた。ご丁寧に警棒は引き抜かれ、その先をあざとく額に当てながら。

 しれっと魔法のように女の裸を出しやがった。

 普通ならば「ふざけてんのか!」と机の一つもひっくり返すだろうが、オレは思わず呉須の右手の動きから目が離せなくなってしまう。

 呉須はオレの方を一瞥し、スケッチブックを無情にも捲り、新しいページを開いた。

 まさか、ページを新たにする度に全部脱いでいくのでは……! そんな期待が、あっと言う間にオレの頭の大部分を占め、ゴクリと喉を鳴らして、鉛筆が走り出すのを今か今かと待つ。

 何か悩むように呉須は数秒、微動だにしなかったが、またもスラスラと、今度は少し荒々しいタッチで鉛筆を動かし始めた。

「ほうほう、さすが神殿じゃ。夷川の毒気を魅力に昇華させておる。ワシもマンガの中でなら、その顔も好きになれそうじゃ」

 呉須が次に描いたのは、両乳を放り出した爆乳女ではなく、生意気そうな顔をした男だった。心底残念に思いながらも、それを顔に出すのは嫌だったので、平静を装い鉛筆が止まるまで見守る。

「これ、オレなのか?」

 鉛筆を置いた呉須が、また黙ったままジッと見つめてくる。

「神殿は新作の主人公のデザインを考え中でな、そのモデルを夷川にやって欲しいと仰せなんじゃよ」

 光栄に思えと由々式は鼻高々に言うが、オレは黙って呉須を見つめ返し、テレパシーを試みたが無理だったので「嫌だ」と短く断った。

「な、なんでじゃ! このデザインじゃあ納得出来んという事か?」

「いや、オレこんなにかっこよくねーし……てか、そうじゃなくて、校内中でズリネタになってるマンガの主人公なんて死んでも御免だ」

 それを見て、色んな奴がしこってるとか悪夢だろ。罰ゲームだろ。

「あぁ、なるほどのぅ。これはエロマンガのキャラにはならんから安心するべ。モデルを頼みたいのは、校内流通用のマンガではなく、持ち込み用の少年マンガなんじゃ」

 由々式の言葉に呉須は、感情の全く窺えぬ無表情でコックリと頷く。そして、クリップでまとめられた分厚い紙束を差し出して来た。
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