圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

マンガの現場?

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「まだ本決まりではないがの、それがプロットじゃ。クソつまらんが読んでみるべ」

 プロットとはあらすじのようなものらしい。ペラペラと簡単に文字を流しながら、二人を見ると、呉須はまた鉛筆を走らせ、由々式は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「面白くないのかよ。なら、描く意味ないだろ」

「だから本決まりではないんじゃ。こんなクソみたいな話を描いて、神殿の貴重なお時間を無駄にする訳にはいかんべ。被害総額で目玉飛び出るベ」

 由々式は紙束をオレの手からパッと引き抜き、床にポイッと投げ捨てた。神だなんだ言ってるくせに、そいつが描こうとしているモノに対してえらい雑な扱いだな。不思議に思っていると、

「テメェにクソ呼ばわりされる覚えはねぇっつってんだろがッ! あぁあン」

数件先で補習をやっているのを知らないのか、盛大な怒鳴り声が、部屋の扉が開くと同時に飛び込んで来た。

 先輩に迷惑かかるだろうがッと、条件反射で声の方を睨み付ける。すると、そこにはどこかで見た事のあるような顔した奴が、仁王立ちしていた。

「あぁッ、クソが! また、資料をぶちまけやがって」

 そして、由々式が入室時に蹴倒した山に気付き、即座にしゃがみ込み整理を始めた。

「あのクソを垂れ流した飯田伴治じゃ。どう見てもオッサンにしか見えんがのう、アレでもワシらと同じ一年じゃ。ま、何回目の一年かは知らんがの」

 オレが聞く前に、由々式は床に投げた紙束に視線をやり、見覚えのある男を簡単に紹介してくれた。

「由々式、テメェおうコラぁ! 何遍言わせたら気ぃ済むんじゃ、あぁあン! 無駄に部屋散らかすなって言ってんだろがぁ!」

 片付けは無事に終わったらしく、ズカズカと部屋に入って来た飯田は、やかましく口うるさい母親のような事を言うだけ言って、自分の席なのだろうか、部屋の隅に置かれた机に向かい、引き出しからノートを取り出し何やら書き物を始めだした。

「何やってんだ、あの、飯田って奴は」

 派手な(迷惑なとも言う)登場をしたくせに、切り替えが早いと言うか、マイペースと言うか、一瞬で自分の世界に入ってしまった見覚えのある男の事が気になり、由々式に小声で聞いてみた。

「またつまらん妄想を殴り書きしとるんじゃろ。何が資料じゃ……クソ製造器の分際で、いっちょ前に作家気取りの勘違い野郎だべ」

 床に投げ捨てた紙束に、ペッと唾でも吐き出しそうな物言いだ。由々式の暴言は飯田の耳にも入っている訳で、また入室時のようなどすの利いた声が、椅子を盛大に倒して近づいて来る。

「全部聞こえてんぞ、ボケがッテメェにゴチャゴチャ言われる筋合いねぇーんだよ、あぁあン」

 典型的な圏ガク生徒の見本みたいな奴だな。呉須と違って飯田なら遠慮なく殴れそうだ。由々式に掴み掛かろうとする飯田を止めようとしたのだが、オレより先に何かが動いていた。

「あん? なんだ呉須、なんか文句でも……」

 飯田の腕に押しつけられたのは、呉須が突き出したスケッチブックだった。飯田も由々式と同じく、無言の呉須と会話が出来るのか、黙ってスケッチブックを受け取る。

「こ、これは、『シン』か! 『シン』なのか呉須!」

 スケッチブックを覗き込むと、飯田の登場にも一切顔を上げずに鉛筆を走らせ続けたらしく、そこにはオレをモデルにしたという男の絵が、様々なポーズや表情でいくつも描かれていた。

 少しだけ目が興奮しているようにも見える、けれど確実に無表情の呉須がコックリ頷くと、飯田のオッサンにしか見えない目が少年のようにキラキラ輝き出す。

「髭はないのか! 前に言っただろ。俺の中では『シン』のモデルは真山さんなんだよ。なんで髭を描かないんだ」

 髭がモデルのキャラかよ! なんか一緒くたにされるの嫌だなぁ。

「何? モデルは真山さんじゃないだと! 何ッ? 夷川だと!」

 本当にどうやって会話を成立させてるんだコイツら。終始無言の呉須から、オレの事を聞かされたらしい飯田が、鬼のような形相でこっちを向いた。

「自分で漏らしたクソを読み返してみるべ。無精髭の主人公のやる事か考えてから言うベ。まるきりガキにしか見えん行動をするオッサンが主人公のマンガは、少年マンガとは呼ばん」

 由々式の反論に飯田の言葉が詰まる。

「別に髭があるからってオッサンとは限らねぇだろがッ。髭はかっこいいから生やすんだよ。真山さんだってなぁ、育毛剤をアゴに染み込ませて、必死であのかっこいい髭を作り上げてんだ。そこら辺の無精髭と一緒にすんじゃねぇぞ、殺すぞオラッ」

 こいつ髭を擁護したいのか、馬鹿にしたいのか分からん奴だな。顎に育毛剤って、阿呆としか思えんのだが、それすら美談に思えるって飯田の中の番長像ってすげぇな。

「こらこら、飯田。それは人には言わん約束やったはずや。もし、育毛剤の噂が流れて番長に犯人上げぇ言われたら、わてはお前を売るよ。それでもええのんか?」

 由々式でも飯田でもない声が聞こえ、オレは思わず呉須を全力で見た。普通に喋れるんじゃないかと言おうとしたが「どうかしたのか?」と言いたげな澄んだ目で首を傾げられる。

「あぁぁアァアッすんませんッ! ついカッとなって、真山さんのトップシークレットをこんな奴らに言っちまった!」

 声に反応して、飯田が見事なまでの土下座を披露した。そして、何故かオレに向かってペコペコと頭を連続で下げまくっていた。

 コイツ何やってんだと思い説明を求め由々式を見ると、こっちも同じくオレに向かって軽くではあるが頭を下げていた。

「闇市先輩、お疲れ様です」

「うん、おはよう。遅なってしもて御免やで」

 さっき聞こえた声が、オレの真後ろで再び聞こえた。全く気配を感じなかったので、心の準備もなしに振り返り「うわッ!」と情けない声を上げて盛大に驚いてしまった。

「なんや珍しい顔が居るなあ、夷川清春か……新作のモデルの件、引き受けてくれたんか?」

 気配もなくオレの背後に現れたのは、片手に扇子を持ち、黒い頭巾を被り、真っ黒な服装に身を包んだ黒子のような、いや黒子だった。足許に土下座する飯田に躓く所だったが、なんとか飛び越え、得体の知れなさでは呉須の上を行く男から距離を取る。

「はい、神殿の新作の為ならばと、一肌脱いでくれると約束してくれました」

 由々式は畏まった喋り方で、堂々と嘘を並べ立てた。

「まだ、やるとは言った覚えはないぞ……つーか髭がいいんだろ。ならひ、じゃなくて番長に頼めよ」

 色々とツッコミたいのは山々だが、まずは余計な事に巻き込まれないよう予防線を張る。
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