圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

圏ガク流の呼び出し

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「夷川、興津を連れて来た」

 小声で呟くクロに「開いてる」と短く答えた。素直について来たとは言え、何かを企んでいる可能性もある。一応ここは髭のテリトリーだが、油断は出来ない。

「待たせたな」

「ッ!?」

 緊張が表に出ないよう、興津が入って来るのを待っていたオレは、扉が開いた先に見た姿に絶句した。

 どさっと無造作に床に投げ出されたのは、シーツだろうか、白い布を巻き付けられた人型の物体。

 シーツにくるまれた物体を抱えて持って来たクロは、投げ落としたそれの中身を確認させる為か、一部を捲りオレの方へ見せつける。

「約束通り、興津を連れて来た。こいつで間違いないだろ」

 忘れもしない興津の顔なのだが、意識がないせいで別人のような気もした。背中から嫌な汗が吹き出す。

「じゃあ、おれらは行く。後は好きにしてくれ」

 思考が停止したせいで、返品を願い出る前に、ポチクロはそう言って退出してしまった。オレは慌てて後を追って廊下に出たが、髭に見つかったら終わりだと焦っていた二人の姿は既になかった。

「マジか」

 廊下から部屋を見る。ピクリとも動かない興津が部屋のど真ん中を占領している。

「……マジか」

 覚悟を決めて部屋に戻り、オレは改めて興津を見下ろした。

 オレの言い方が悪かったのかな。オレは『連れて来てくれ』と言っただけで『拉致ってこい』とは一言も言った覚えはないのにコレはなんだ。真っ白になった頭を抱えてオレは呻いた。

 自分で蒔いた種ではあるが、暫くその場で立ち尽くした。予想していた状況からかけ離れた現実に打ちのめされる。

 タイマンとか言ってる場合じゃあなく、コレ、オレが介抱すんのか? 頭が痛くなってきた。

 巻き付けられていたシーツを剥がすと、ダラリと力なく垂れた興津の四肢が更に不安を呼ぶ。

 どうしたらいいんだ……助けてくれ、先輩。

 全力の弱音が出てしまい、その場で崩れ落ちた。逃げ出して解決するなら逃げ出したいが、ここは先輩の部屋なのだ。もし、このまま興津が意識を取り戻さなかったら大惨事だ。

「おい、興津。起きろ」

 肩を揺すったりしたかったが、万が一の事を考え、まずは声だけで覚醒を促す。

 けれど、興津はピクリとも動かず、オレは思わず数歩、退いた。少し離れた場所から見ると、そこは紛れもなく死体発見現場だった。

「大惨事だっ!」

 現実逃避している場合ではない。不快感を耐え、興津の胸に耳を当てる。グッと耳を押し当てるが、自分の心臓がバクバクと鳴っているせいか、興津の心音を聞き取れず、焦ったオレは興津に思いきり抱きついた。

「……どないなってますんや」

「うわッ!」

 このまま抱えて旧館まで走ろう、オレの頭がそう決定して走り出す前に、生ぬるい声が頭上から降ってきた。それに驚いて、半分抱えていた興津を床に落としてしまった。

 まだ覚醒したばかりで、頭がまともに回っていないのだろう。興津は腕から床に落ち、頭を押さえて小さく呻いた。

「昨日の続きが……したなったんか?」

 事情が飲み込めないらしく、怪訝な顔で興津は口を開いた。そんなわけあるか! と一発殴りたかったが、目覚めたら胸にオレが張り付いていたんだし誤解されても仕方がないと、興津の戯れ言は聞き流す。

「あ、あたま……大丈夫か」

 床に落とした時に打ちつけてはいなかったが、頭に手を当て頭痛を堪えるような顔をしている所から、ポチクロが興津を殴って気絶させた可能性は高い。意識は戻ったが、念の為に確認をしておこうと声をかけた。

「えらい言われようやなぁ……寝込みを襲おうとしたんは、あんたの方やろ」

「んな訳あるか。見事に気絶してたから、その、生きてるか確認しただけだ。あー、あと、そういう意味じゃあねぇ。頭、殴られたんだろ。なんか、吐きそうとか気分悪いとかないかって聞いたんだよ」

 なんでオレが興津の心配をしてやらにゃいかんのだ。泣きたい。でも、こんな状態の奴に「タイマンで勝負だ」とか言えねぇし。

「気分? そんなもん最悪に決まってますわ」

 興津は頭から手を離し、その場で胡座を掻いて、皮肉たっぷりに返事を寄越してきた。そして懐から扇子を取り出し、パンと自分の手の平を叩く。

「早よ煮るなり焼くなり好きにしなはれ。隣に春日野や皆元が居てはりますんやろ」

 ふてぶてしい表情で、こちらを睨み付けてくる興津を前に、オレはどうしようもなくて溜め息を吐いた。それを見て、興津はふぅむと扇子を口先に持っていくと、パッと開いて口元を隠した。

「それとも……交渉の余地はある、言うことですやろか」

 興津が目を細め、声にも余裕の表れか、含みのあるような抑揚が混じる。阿呆らしくなり、その横っ面をぶん殴ってやろうかと思ったが、溜め息一つで衝動を抑え、椅子を引っぱり出して座った。

「ここにはオレしかいない。お前と差しで話したくて呼んだ」

 オレの言葉で状況を理解したらしく、興津はケタケタと笑いながら言う。

「話すだけなら、なぁーんも問題ありませんやろ。そないな顔せんといて欲しいもんですなぁ」

 ポチクロのせいで、段取りは狂いまくり、興津に主導権を握らせてしまった。調子に乗った興津は立ち上がり、自分を簀巻き状態にしていたシーツを手早く畳むと、部屋の隅に放置してあった椅子を持って来るやオレの正面に座り直した。
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