圏ガク!!

はなッぱち

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新学期!!

闇市との決着

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「さあさあ、どうぞ始めたって下さい。なんぼでも聞きますよって……一体なんのお話でしょう?」

 苛々してきた。元気そうだし、当初のプランを実行しても問題ないかな。そう考え始めたのに気付いたのか、興津は取り繕うように「あぁ、忘れる所でしたわ」と懐から封筒を取り出した。

「これ、キミのお金やったね。手癖の悪い奴を説得して、なんとか取り戻しときましたで」

 なんの茶番だ。呆れるのを通り越して、不快でしかない。受け取る気にもなれず、ただ黙って睨み続けると、興津はこちらの機嫌を取りたいのか損ねたいのか分からない不気味な笑みを消し、封筒をその場に投げ捨てた。

 落ちた封筒は封をしていなかったらしく、床の上に中身をまき散らす。夏休みにオレが握り潰した万札と、見覚えのない薄汚れた紙幣が、オレと興津の間に広がった。

「迷惑料も込みや。後で拾とき」

 用は済んだとばかりに、興津は席を立った。

「待て、どういうつもりだ」

 そのまま部屋を出て行こうとする背中を呼び止める。気怠そうに振り返った興津は、興味なさげに視線を寄越す。

「そのままの意味や。あんたに関わるとロクな事あらへんから、もう仕舞いにしよ思いましてな」

 こぶにでもなっているのか、そろりと手を伸ばし頭に触れて顔を顰める。

「せやな、あんたの好きそうな言い方に変えましょか。わては負けましてん。その金は、わてなりのけじめですわ」

 床に散らばった金を改めて見ると、元あった額の倍くらいにはなりそうだったが、心底どうでもよかった。

「足りまへんか?」

 人を馬鹿にするような声だ。視線を興津に戻すと、薄ら笑いがオレに向けられていた。

「金なんてどうでもいい」

 何から片付ければいいのか迷い、とりあえず目の前の金を突っぱねた。

「ほな、さっきの続きでもしましょか。精一杯ご奉仕させてもらいますえ」

 口元を扇子で隠し、気色悪い目をしてくる興津。いちいち苛つかされて思考がまとまらず、舌打ちを一つした。すると、呆れたように興津が口を開いた。

「あんたの言うてたもんも、もちろんサービスしときます。金城が口止めしとった事は忘れますよってに、ご心配なく」

 オレが言うべき事を先回りして興津が埋めていく。お前の言葉は信用出来ないと言えば「もう使い所ありまへんやろ」と尤もな事を言いやがった。

「性悪の、じゃなくて、なんだ……あのメイドの格好した奴の写真も捨てろよ」

「んーそれは金城との取り引きには関係あらへんのとちゃう? それを口外する事を止められとっただけやからねぇ」

「お前に寮長の弱みを握らせたままにしとくのが嫌なんだよ」

 思いついた事を口にしているだけのオレを見透かすように、興津は興味なさげに笑う。

「アレを弱みやと思えるて、あんたほんまにお人好しやねぇ。まあ、データを消すぐらいかまへんんけど、あんまり意味はあらへんのちゃうかなぁ」

 意味がないと言いつつ、面白くはないのだろう。扇子を勢いよくしまい懐へ戻しながら興津は喋り続けた。

「ネットで拾たもんや。端末から消すのんにどんだけの意味がある思てはるんやら」

 大袈裟に肩を竦めた興津は、オレとのやり取りが面倒になったのか「分かった」と投げやりに言う。

「ほな、ご希望通り消しときますわ。それでよろしいな。端末は明日、由々式に渡すよってに確認しぃや」

 話は終わったと部屋を出ようとする背中に、オレは慌てて声をかける。

「先輩にっ、先輩に謝れ!」

 ピタリと動きを止める興津。振り返った顔は、心底どうでもいいと言いたげだった。

「あんたがいらんのなら、それを金城に渡したらええやろ。過払い分くらい十分あるわ」

 先輩が無駄に払っていた代金の返金か。まさか興津が返すとは思っていなかったので、予想外の返答に一瞬ビビったが、ようやくオレの頭もまともに回りだした。

「なら、お前が拾え」

 真っ直ぐ興津の目を見て言うと、無気力だった奴の顔に表情が戻った。分かりやすい怒りを視線に乗せてぶつけてくる。

「…………人使い、荒いなぁ」

 数歩、室内に戻る間、興津は視線を一切外さず、ぶちまけられた札を挟んでオレらは睨み合った。その状態は一分ほど続いたが、ふんと面白くなさげに鼻を鳴らし、興津はその場にしゃがみ込み、ぞんざいに金を集めだした。

「これでええかな?」

 乱雑に札を詰め込まれて、中身がはみ出した封筒を胸に押し当てられる。オレはそれを受け取らない。

「オレに渡しても意味ないだろ」

 先輩に直接渡せと突っぱねると、興津は奥歯を噛みしめ、出かかった何かを無理矢理飲み下した。そして先輩が使っている机に向かうと、封筒を叩きつけ、引き出しから勝手に取り出したマジックで『金城君へ』と殴り書きした。

「……阿呆らし」

 マジックを投げ捨て、興津は吐き捨てるように呟くと、オレには一瞥もせず部屋を出ようとした。

 絶対に殴りかかってくると思ったので、拍子抜けしてしまった。先輩がどれくらいだまし取られていたのか分からないが、オレの十万も入れれば十分足りるだろうし、まあいいか。一人でそう納得していると、興津は扉の所でピタリと足を止めていた。助走をつけて反撃してくるかと思い少し身構えたが、興津は何も言わず、背中を見せて立ち尽くしているだけだった。

 両手はだらりと力なく垂れて、見えない所で何かしている様子はない。

「一つ、聞いてもええやろか」

 オレが怪訝に思っていると、振り向くことなく興津が口を開いた。意図が読めず黙っていると、興津は振り返り扉に寄りかかりながら、嫌な表情を、何を考えているのか分からない不気味な表情を浮かべて見せた。

「あんたの目ぇには、わてはどう見えてます?」

 何を言っているんだ? 意味が分からず、思わず間の抜けた声を返してしまった。

「いや別にな『先輩やから』とか、『さっき怪我させてしもたし』とか、変な気遣いは無用ですよってに。あんたの本心を聞かせて欲しいんですわ」

 何を企んでいるのか、面白そうに笑う姿が妙に腹立たしく、オレはお望み通りの答えをやる事にした。

「救いようのねぇ、屑」

 興津の顔が厭らしく歪む。今度は声を上げず笑っているのだと分かり寒気が走った。
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