圏ガク!!

はなッぱち

文字の大きさ
289 / 411
蜜月

脳内変態

しおりを挟む
 高校生にもなって缶蹴りって、健全を通り越して阿呆だなと思ったのだが、ちょっと楽しそうで自分でやるならとメンツを考えてしまう辺り、オレも相当の阿呆だった。

 阿呆な遊びに付き合ってくれそうな奴を思い浮かべる。まず先輩は強制参加、確認するみたいに視線をやると、至近距離で目が合う。

「…………」

 近いな。狭い隙間に大の男二人がねじ込まれているせいで、オレらの距離は相当に近かった。外からは缶蹴りを止めたのか、空き缶を蹴り合う馬鹿笑いが聞こえる。暫く倉庫からの脱出は無理そうだが、中に戻って来る気配はないので、物陰から出ようと言いかけてオレは黙った。そして、目の前の口先にチュッと軽く吸い付いてやった。

「ッ!? せ、セイシュンいきなり何するんだ」

 ズバッと離れようとする先輩の腕を掴む。先輩は不意打ちのキスに面白いくらい反応してくれる。『外の奴らに気付かれるぞ』と指先と視線で黙らせ、真っ赤になった顔をまじまじと見つめた。

「して欲しそうな顔してたから」

 にやつきながらそう答えると、先輩は耳まで赤くなった。キスくらいで何を今更と思わないでもないが、オレとしても初心な反応は満更でもない。外の奴らが散るまでの間、本腰を入れて先輩をからかおう、もとい先輩とイチャつこう。そう決めた直後、先輩が覆い被さってきた。

 倉庫に誰か入って来たのかと尋ねたかったが出来なかった。先輩が先手を打って、オレの口を塞いできたからだ。鼻がぶつかるのもお構いなしに先輩が唇を押しつけてくる。

 呼吸をしようと口を開けると、空気と一緒に無遠慮な舌が侵入してきた。冷たくかさついた唇からは想像できない、熱いぬめりに脳みそがジンと痺れる。

 昼間の続き、ここですんのかな?

 とろけていく思考に何かが混ざる。身を任せてしまいたい気持ちに混ざるソレに意識を向けると、誰かの声を思い出してしまった。

『なかなか良い場所ですよ。運動部員が出入りしますので、物陰で声を押し殺すも良し、大人数で盛り上がるも良しです』

 鮮明に柏木の無駄に明るい声が蘇る。慣れそうになっていた倉庫内の臭いが、途端に生臭く感じられ鳥肌が立つ。

 昼間の続きをここですんのか!? 嫌だ! 柏木がヤった場所で同じようにヤられんのとか絶対に嫌だ! ましてや大人数で盛り上がるとかありえねぇ!

「せん、っぱい、ちょ、ちょま、って」

 喋ろうとする度に舌を容赦なく絡ませてくるので、ロクに言葉にならない。このまま体育倉庫でヤルのも……先輩がヤリたいなら……そう押し流されそうになった意識を繋ぎ止めてくれたのは、不本意ながらまたしても柏木だった。

『これで君も立派な肉便器ですね』

 頭の中で変態が親指を立てて歯を見せた。

「い、いやだぁぁッ」

 柏木の同類なんて嫌だぁ! 心の叫びが先輩の舌に打ち勝った。驚いたように先輩が動きを止める。

「先輩、ここ体育倉庫だよ。今、まだ夜じゃないよ放課後だよ」

 いつもは先輩に言われる台詞をオレは必死で並べ立てた。実に真っ当で最高に興醒めする。どうしてオレがこんな事を言わなきゃならない、本当だったら大歓迎な状況なのに!

 涙を呑んで先輩に常識を説く。ノリノリの先輩を拒絶するなんて……もったいない! いや、別に先輩自体を拒絶している訳じゃあないんだ。場所が悪い。場所さえ移動して、それこそ先輩の部屋にでもしけこめば問題解決だ。

 思いついた名案を伝えようと先輩の顔を見た瞬間、先輩は頭を思い切り反らし、近くにあった棚へ頭突きをかました。

「うわっ!」

 棚が揺れて、色々な物がオレら二人に降ってくる。先輩は片手でそれらを薙ぎ払い無言で立ち上がった。

「…………すまん、頭冷やしてくる」

 何がどうしたとしか言えない状況なのに、先輩は絞り出すような声でそう残し、一人倉庫を出て行ってしまった。

「おい、どうなってる。誰が裏番しめたんだ」

 棚一つひっくり返した騒音が外の奴らを呼び戻したらしい。ザワザワと倉庫内を伺うような気配に焦る。隠れてやり過ごすのは不可能だし、こんな逃げ場のない場所で複数人とやり合うのは御免だ。

 こちらの焦りが伝わらないよう、ケンカ売る気なら買ってやるくらいの気持ちで、堂々と倉庫から出る。

「夷川だ。マジか」「マジかよ」「夷川が裏番しめたのか」

 オレの姿を見て、自称運動部の連中はざわついた。てか、なんでオレが先輩をしめにゃならんのだ! 抗議しようと思ったが、足元に赤い点を見つけてカッとなってしまう。

「あの野郎っ」

 吐き捨てるよう呟いて先輩の後を追う。「トドメ刺す気だ」と背後が更にざわついたが無視して走った。

 棚なんかに頭突きするから、頭が切れたんだろう。医務室に連行するべく、オレは先輩の居所を捜す。予想通り、先輩は外の手洗い場で頭から水を被っていた。

「先輩!」

 強めの声で呼びかけると、先輩は水を止め、犬みたいに頭を振って水飛沫をまき散らす。

「ん、セイシュン? 追いかけて来たのか。心配しなくても、すぐに戻るつもりだったのに」

 振り返った先輩は、髪からは水を額からは血を滴らせ、決まり悪そうに笑って見せた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※この物語はフィクションです。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。 ■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。 ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...