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蜜月
地下牢ホテル
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いつも通り、反省室への入り口を担任が開け、地下への階段を降りていく。コンクリの温度は氷のように冷たく、履き物越しでも足の裏が痛くなりそうだった。
「今晩はここで過ごして反省文を書いて貰う。分かってるだろうが、野村先生の目にも入ると思って書くように」
「……はい」
冷たいイスに座り、鉛筆を握る。鉛筆を見ると、真っ黒になった先輩の手を思い出してしまい、オレは迷う事なく思うがままに紙を埋めた。
途中、狭間がやって来て、オレと担任の寝床を整えてくれた。湯たんぽに毛布、コートも持ってきてくれたので早速着ながら暖を取る。温かいお茶まであって、これには担任も苦笑していたが、呼吸する度に寒さを実感するせいか特に何も言われなかった。
「先生、出来ました」
じんわり熱い湯飲みで冷えた指先を溶かし、眠気が来る前には反省文を一気に書き上げた。寝床で横になっていたらしい担任が、ベッドを軋ませた。返事がなく、一瞬もう寝てしまったのかと思ったが、のそりとこちらの独房まで見に来てくれる。
「相変わらず早いな……見せてみろ……おい、なんだこりゃあ」
鉄格子越しに紙束を受け取った担任は、手元に視線をやると低い声で呟く。
「誰が抗議文を書けと言った! これ……」
半分怒りながらも、担任はオレの書いた文を読んでくれる。それは先輩が残していた今までの答案や授業内容であるノート、それから無駄に出し続けられていた課題を考察し、野村の手抜きを片っ端から暴いた告発文だ。反省の「は」の字もない内容に担任は閉口し、呆れたのだろう深い溜め息を吐いた。
「ここまで生徒にやりこめられたら辞めちまうだろ」
「あいつがやった事を許せないんです……でも、先輩はそんな事を望んでないので、それはただの愚痴だと思って下さい。反省文はその後ろにちゃんと用意してるんで」
用意した反省文は野村に見せる物だと思って書いた。担任はそちらも流し読みして、これまた溜め息を吐いた。
「金城の事は守峰先輩がちゃ……守峰先生がちゃんと再評価して下さるから安心しろ。それより自分の事を考えろ。面倒なのに目を付けられるような真似は避けろ。あんなんでもお前が生きてきた時間より長い時間、教鞭を取ってる人だ」
担任からの忠告だろう。怒られている訳ではなかったが、素直に返事は出来なかった。
「オレには、ただ時間を積み重ねたってだけの奴を敬うのは無理です。教師だからってだけで、全面的に信用なんて出来ないし、おかしいと思ったらどんどん疑っていきます」
自分の事だったなら、どうでもいいと思えただろう。でも、先輩がそんな目に遭ったら無理だ。先輩だけじゃあない、オレの好きな奴らが理不尽を受けたら腹が立つし許せない。
「手厳しいな」
担任は怒るでもなく、何故か笑って言う。先輩の事だったので、頭に血が昇っている自覚はある。申し訳なさから、オレは取って付けたような感じになったが、本音を口にする。
「でも、先生の事は信頼しています。尊敬もしてる……と思います。オレにされても迷惑だと思いますけど」
「敬う気があるなら、こんな頻繁に石の上で寝かせるな。お前くらいだぞ、ここをホテル代わりに使ってる奴なんざ」
反論出来ないが、別に使いたくて使ってる訳じゃあない。
「オレなら一人でも大丈夫なんで、気にせず地上で寝て下さい。入れられている事さえ覚えていてくれたら大丈夫なんで」
二時間置きだったか、見回りはしなくてもいいと提案するが「そんな訳いくか」と断られてしまった。
「あーでもそうだな。夜中に起きるのは面倒だからな、それはパスするぞ」
そう言うと、担任は独房の鍵を開け、扉まで開け放った。そして、もう一つの独房へ戻り寝具一式を抱えて戻って来た。
「ここで寝るんですか?」
バサッと扉の近くに布団を敷き始める担任に聞くと、何か問題あるかと言いたげな顔を向けられたが、何故か気まずそうな顔になった。
「その……なんだ。問題あるか?」
「いや、大丈夫です。あーいや、寝るならベッド使って下さい。オレが床で寝ます」
何が問題なのか分からず答えると、担任は何故かホッとしていた。
「ベッドで寝たら落ちそうだから嫌なんだよ。無防備なままコンクリに落ちたら痛いだろ」
「でも、床の上だと冷えませんか?」
「それなら問題ない。何故か簡易マットが置いてあったからな。これを敷けば多少はマシだろう」
担任は、携帯用のマットレスのような物を見せてくれた。それを敷き布団の下に敷き、コンクリに直接触れないようにするらしい。
布団をセットし終わり、担任はゴロリと寝転がった。教師を床で寝かせ、一人ベッドで寝るのは気が引けたが、オレ用の携帯マットレスは用意されていなかったので、仕方がない。担任に倣い、布団に横になると、ふんわりと良い匂いがした。
「なんでこんな匂いするんだ、この布団」
担任が訝しげな声を上げる。そう言えば、狭間が珍しくテンション高めで「備品に柔軟剤が追加された!」と喜んでいたので、柔軟剤の匂いだろうと伝えてみた。すると「お前のホテルか、ここは!」と理不尽に怒られた。
「今晩はここで過ごして反省文を書いて貰う。分かってるだろうが、野村先生の目にも入ると思って書くように」
「……はい」
冷たいイスに座り、鉛筆を握る。鉛筆を見ると、真っ黒になった先輩の手を思い出してしまい、オレは迷う事なく思うがままに紙を埋めた。
途中、狭間がやって来て、オレと担任の寝床を整えてくれた。湯たんぽに毛布、コートも持ってきてくれたので早速着ながら暖を取る。温かいお茶まであって、これには担任も苦笑していたが、呼吸する度に寒さを実感するせいか特に何も言われなかった。
「先生、出来ました」
じんわり熱い湯飲みで冷えた指先を溶かし、眠気が来る前には反省文を一気に書き上げた。寝床で横になっていたらしい担任が、ベッドを軋ませた。返事がなく、一瞬もう寝てしまったのかと思ったが、のそりとこちらの独房まで見に来てくれる。
「相変わらず早いな……見せてみろ……おい、なんだこりゃあ」
鉄格子越しに紙束を受け取った担任は、手元に視線をやると低い声で呟く。
「誰が抗議文を書けと言った! これ……」
半分怒りながらも、担任はオレの書いた文を読んでくれる。それは先輩が残していた今までの答案や授業内容であるノート、それから無駄に出し続けられていた課題を考察し、野村の手抜きを片っ端から暴いた告発文だ。反省の「は」の字もない内容に担任は閉口し、呆れたのだろう深い溜め息を吐いた。
「ここまで生徒にやりこめられたら辞めちまうだろ」
「あいつがやった事を許せないんです……でも、先輩はそんな事を望んでないので、それはただの愚痴だと思って下さい。反省文はその後ろにちゃんと用意してるんで」
用意した反省文は野村に見せる物だと思って書いた。担任はそちらも流し読みして、これまた溜め息を吐いた。
「金城の事は守峰先輩がちゃ……守峰先生がちゃんと再評価して下さるから安心しろ。それより自分の事を考えろ。面倒なのに目を付けられるような真似は避けろ。あんなんでもお前が生きてきた時間より長い時間、教鞭を取ってる人だ」
担任からの忠告だろう。怒られている訳ではなかったが、素直に返事は出来なかった。
「オレには、ただ時間を積み重ねたってだけの奴を敬うのは無理です。教師だからってだけで、全面的に信用なんて出来ないし、おかしいと思ったらどんどん疑っていきます」
自分の事だったなら、どうでもいいと思えただろう。でも、先輩がそんな目に遭ったら無理だ。先輩だけじゃあない、オレの好きな奴らが理不尽を受けたら腹が立つし許せない。
「手厳しいな」
担任は怒るでもなく、何故か笑って言う。先輩の事だったので、頭に血が昇っている自覚はある。申し訳なさから、オレは取って付けたような感じになったが、本音を口にする。
「でも、先生の事は信頼しています。尊敬もしてる……と思います。オレにされても迷惑だと思いますけど」
「敬う気があるなら、こんな頻繁に石の上で寝かせるな。お前くらいだぞ、ここをホテル代わりに使ってる奴なんざ」
反論出来ないが、別に使いたくて使ってる訳じゃあない。
「オレなら一人でも大丈夫なんで、気にせず地上で寝て下さい。入れられている事さえ覚えていてくれたら大丈夫なんで」
二時間置きだったか、見回りはしなくてもいいと提案するが「そんな訳いくか」と断られてしまった。
「あーでもそうだな。夜中に起きるのは面倒だからな、それはパスするぞ」
そう言うと、担任は独房の鍵を開け、扉まで開け放った。そして、もう一つの独房へ戻り寝具一式を抱えて戻って来た。
「ここで寝るんですか?」
バサッと扉の近くに布団を敷き始める担任に聞くと、何か問題あるかと言いたげな顔を向けられたが、何故か気まずそうな顔になった。
「その……なんだ。問題あるか?」
「いや、大丈夫です。あーいや、寝るならベッド使って下さい。オレが床で寝ます」
何が問題なのか分からず答えると、担任は何故かホッとしていた。
「ベッドで寝たら落ちそうだから嫌なんだよ。無防備なままコンクリに落ちたら痛いだろ」
「でも、床の上だと冷えませんか?」
「それなら問題ない。何故か簡易マットが置いてあったからな。これを敷けば多少はマシだろう」
担任は、携帯用のマットレスのような物を見せてくれた。それを敷き布団の下に敷き、コンクリに直接触れないようにするらしい。
布団をセットし終わり、担任はゴロリと寝転がった。教師を床で寝かせ、一人ベッドで寝るのは気が引けたが、オレ用の携帯マットレスは用意されていなかったので、仕方がない。担任に倣い、布団に横になると、ふんわりと良い匂いがした。
「なんでこんな匂いするんだ、この布団」
担任が訝しげな声を上げる。そう言えば、狭間が珍しくテンション高めで「備品に柔軟剤が追加された!」と喜んでいたので、柔軟剤の匂いだろうと伝えてみた。すると「お前のホテルか、ここは!」と理不尽に怒られた。
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