圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

初デートとやりなおし

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 ネオおせちの残骸は、ゴミ箱ではなく先にオレらの口に放り込み、一つ一つを吟味しながら、大きめのタッパーに詰め直していく。

 村主さんが教師陣に用意していたおせちは、生徒にとっても絶品と言って間違いない物ばかりだった。

「山本たちへの手土産が出来たな」

 名前の分からない料理ばかりだったが、先輩の言葉に「えッ!」と非難めいた声がナチュラルに上がってしまう程、それらは美味しかった。

 残骸を食べられる物と食べられない物に分ける作業が終わった頃、朝と言うには遅すぎるが昼には少し早い、そんな時間に担任と中島は揃って食堂にやって来た。

 二人の分の雑煮を用意しに厨房へ突撃してきた女神を返品し、先輩と給仕を買って出る。

「なにやってんだ、お前ら」

 微妙に慣れた調子で配膳すると、挨拶より先に呆れた顔をされてしまった。女神が予想しなかったレベルでポンコツなのが原因だが、説明するのも面倒なので挨拶だけ済ませて退散する。もちろん、労働の対価は頂いて旧館を脱出した。





 味見程度にするつもりが、腹が膨れるくらい本気で食ってしまったので、腹ごなしに誰もいない敷地内を散策する。
 
「挨拶した後で、霧夜先生に何か言われた?」

 オレが女神と格闘していた時の事が気になり、先輩に聞いてみた。

「ん、卒業までの時間を大事に過ごせ……みたいな事を言われたな」

 当たり障りのない言葉に興味は失せたが、何故か先輩は消化不良のような顔を見せた。他に何か言われたのか、それとも残り短い時間を思っているのか。問い詰めるのも違う気がして、オレは先輩の手を握った。

「今年最初のデートだな」

 握るだけじゃあ物足りなかったので、腕にしがみついてやる。人目がないから出来る、世に言う『デート』の完全再現だ。

 普段は大っぴらに手を繋いで歩く訳にはいかないからな。こんなふうにイチャつけるのは普通にテンション上がる。

「じゃあ、ついでにちょっと走るか」

「この状況で、なんで走るんだよ!?」

 先輩の顔がパッと明るくなったのはいいが、オレとの温度差に思わず声を荒げてしまう。

「いや、今日は朝に走らなかっただろ。その分をこのまま一緒に走ろうと思ったんだが」

 それただの特訓じゃん。先輩に手を引っ張られて走るって地獄だろ。あんなペースで走ったら、本気で死ぬぞ。

「走るのはなしだ。これ、山センたちへの土産が更にグチャグチャになるだろ」

 タッパーの入ったビニール袋をかかげる。まあ、すでにグチャグチャなのは目を瞑ろう。なんせ、ゴミ箱行きをキャンセルしたおせちの残骸だからな。

 先輩はちょっと残念そうな顔をしたが、地獄絵図間違いなしの手繋ぎランニングを諦めてくれた。

 せっかくの提案を却下するだけでは少々可哀想に思えたので、今度はオレの方から誘ってやる事にした。

「先輩、ちゅーしよう」

 ど真ん中と言う訳ではないが、物陰一つない校庭でするなんて普段では考えられない。少し意外そうな顔をした先輩だったが、ちらっと冷蔵庫の方を見上げ納得する。

 いつもならカーテンなんて使う奴がいない冷蔵庫の窓が気になるのだが、今日に限っては紅白のド派手な布が塞いでくれていたのだ。

「あいつら、なにやってんだろうな」

 先輩が盛大に笑う。新年早々、呆れられるのはオレたちだけではなさそうで、確かに笑える。手土産を気持ちよく渡せるくらいには、今からの予定を歓迎出来そうだった。

 山センたちの新年会が待ち遠しくなった訳ではないが、オレは早くと強請るように先輩の腕をグッと引っ張った。すると先輩は何かを思いついたのか「少しだけ口閉じてろ」と言うや、オレの視界から姿を消した。そして、いきなりオレを抱え上げた。

「ッ!? 何、ちょ、まっ」

 先輩の肩に米袋のように担ぎ上げられる。嫌な予感がしたが、待てと言い終わる前に先輩は走り出していた。背中とは違って先輩の肩の乗り心地は、初めて経験した時と違わず、おせちの詰め込まれた胃を全力で揺さ振る。

 闘拳髑髏、圏ガク番長のテリトリーであるボクシング部の部室の前でようやく立ち止まってくれたが、酸っぱい何かが逆流してきて、地面に下ろされると思わず膝から崩れ落ちてしまった。

「おぉ、またか。大丈夫か、セイシュン」

 優しく背中を擦られても、非難めいた視線を向けてしまうくらい、逆流する胃液の味は強烈だった。必死で飲み下し、立ち上がるついでに先輩の足へ蹴りを入れる。抗議の意味も込めて、割と本気で蹴ったと言うのに、先輩は暢気に笑いやがる。そんなに走りたかったのかと聞けば、「そうじゃないんだ」と少し嬉しそうな顔を見せた。

「どうせなら、やり直しておくかと思ってな」

 意味が分からず首を傾げてしまったが、続く先輩の言葉に一瞬でオレの記憶も蘇った。

「初めてした時は、成り行きで何も考えずにしたから、それを上書きしたかったんだ」

 髭を動揺させる為に見せつけながらしたキス。あの時の先輩は、マジで何も考えずにオレの口に舌をねじ込んで来たんだな……そう思うと、切なさでちょっと泣きそうになる。

「セイシュン」

 甘く響く先輩の声。先輩のが春先よりも荒れているのを確認するみたいに、唇の感触だけを味わう。
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