圏ガク!!

はなッぱち

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圏ガクの夏休み!!

金魚の末路

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 屋台を全制覇するにしても、まずは焼きとうもろこしを食べない事には始まらない。心配をかけた小吉さんに、もう大丈夫と一言も伝えたかった。

 広場いっぱいに並ぶ屋台をぐるりと眺めて、焼きとうもろこしののぼりを見つけ、急ぎ駆けつける。もくもくと煙を上げるそこは、オレの目を真っ赤にしてくれた炭火を使った屋台で、こっちも本職にしか見えない圏ガク教師の野村が、慣れた手つきで串に刺さったイカを焼いていた。

 しかし、のぼりには『焼きとうもろこし』と書いてあるのに何故イカ? と首を傾げれば、とうもろこしの看板の上に『売り切れ』と殴り書きされた張り紙を見つけてしまう。

「売り切れかぁ。小吉のとうもろこしは大人気だな」

 多少出遅れたとは言え、こんな早々に売り切れとは恐れ入る。小吉さんの野菜に対する日頃の努力が報われている証拠だな。きっと、小吉さんも嬉しいに違いないが、一番楽しみだった焼きとうもろこしの売り切れに、オレは落胆を隠せなかった。

 オレを励ますようにイカを買ってやろうと財布を取り出す先輩に気が付いた野村が、何故か必死でオレらを呼びつけた。

「おい金城! あぁ、夷川も一緒か。お前ら、ちょっとこっち来い」

 呼ばれた以上、無視する事も出来ず、漂ってくる炭に落ちて焦げた醤油のなんとも言えない匂いに抗う事なく吸い寄せられると、隠すように置かれた焼きとうもろこしを軽く炙り、野村はオレらに一つずつ手渡してくれた。

「小吉にお前らの分を用意してやってくれって言われてたからな。持ってけ」

 オレとの約束をちゃんと覚えていてくれたのか、小吉さん! 感動を覚えながら見るからに美味しそうな焼きとうもろこしを目の前にして、思わず齧りつきそうになったが必死で我慢した。どうやら海鮮物に目がないらしい先輩が焼きイカを購入するのを待って、今度こそ人気のない場所へ誘い込むのだ。

 そんな企みを胸に秘め、二人分の焼きイカを嬉しそうに持ってきた先輩とその場を後にしようとした時

「悪いなぁ、とうもろこしはもう売り切れちまったんだよ」

接客をしている野村の声が聞こえてしまった。

 振り返るとオレの腰くらいしか身長のないガキが二人、手を繋いでとうもろこしの看板を見上げていた。自分の両手にある焼きとうもろこし、小吉さんの努力の結晶を見つめて、オレの足は止まる。

「ん、どうしたんだ、セイシュン」

 既にイカの頭に齧りついている先輩が振り返った。てか、もう食ってるのかよ! とは言え、上品に座って食べてる奴らなんて殆どいないか、祭りってそういうモノなのか。

「あのさ、先輩。これ、小吉さんのとうもろこし、あそこのガキにやってもいい?」

 視線で背後を指すと、先輩はイカの頭を豪快に引き千切り「俺は構わないが、セイシュンはいいのか?」と聞いてきた。

「うん、オレは毎日トマトとか食わせてもらってるから……小吉さんの野菜が美味しいってのを知らない奴に知って欲しい」

 先輩が頷くのと同時に、オレらの隣をガキが通り過ぎようとした。チビの方が何度も屋台の方を振り返っては「とーもろこしは?」としつこく聞き「ないっていってるだろ!」と兄貴らしい方が半ばキレかけている。

「そこのガ……そこの子供!」

 どう声をかけていいのか分からず、とにかく呼び止めてみたら、小さい背中がビクッと飛び上がるように震え、一応その足を止めてくれた。

 けれど、いきなり声をかけたせいか、女子供を攫うと噂されていた圏ガクの生徒に因縁をつけられたと思ったのか、ブルブル震えるガキ共は一向に振り向いてはくれなかったので、敵意はないとアピールするべく、美味しそうな焼きとうもろこしを差し出し、オレは屈みながら目の前へと回り込んだ。

「あ! とーもろこし! にいちゃんとーもろこし!」

 オレの姿にビビり涙を滲ませる兄貴とは違い、物怖じしない弟は焼きとうもろこしを見るなり、こっちまで嬉しくなるような満面の笑顔を浮かべてはしゃぎだした。

「焼きとうもろこし食べたかったんだろ。これやるよ」

 やると言って更に差し出すと、弟は飛びつくように受け取ってくれたが、兄貴は半泣きになりながらも弟を諫めた。知らない人から物をもらったら駄目だとか、ちゃんとお金払わないと怒られるとか、必死に堪えてはいるが、今にも弾けたように大泣きを始めそうな兄貴の雰囲気に、オレもビビりながら手を引っ込められず硬直する。

「俺たちには、このイカがあるからな、とうもろこしはお腹がいっぱいで入らないんだ。だから、誰かが食ってくれたら、すごく助かるぞ」

 先輩がオレの手から焼きとうもろこしを奪う。しっかりとしゃがみ込み、ガキと目線を合わせると、いつものふにゃっとした顔でそれを兄貴に差し出した。

 恐る恐る先輩の手から、焼きとうもろこしを受け取った兄貴は「ありがとう」と蚊の鳴くような声で礼を言うと、先輩につられてか、弟と同じように嬉しそうな顔を見せてくれた。

 去って行く焼きとうもろこしを見送り、一口だけでも囓っとくんだったと我ながら情けない事を考えていると、目の前に香ばしい匂いを放つイカが現れた。

「ほら、セイシュンの分だ。美味いぞ」

 自分の分をすでに食べ終えた先輩が、焼きイカをくれる。焼きたてのおかげか、ほどよい柔らかさで心地良く噛み切れるイカは、とうもろこしへの未練を断ち切ってくれた。普段、こんな丸ごとイカを食べる事がないので、味以上に見た目のインパクトがでかい。

「よし、じゃあ次は金魚でも食うか」

 半分ほどイカを食い終わった頃、先輩はとんでもない事を言い出した。思わずせっかくのイカを吹き出す所だった。詰まりそうになる胸をドンドン叩いて、なんとか口の中を空にする。

「金魚は食い物じゃねーよ! すくうの! ほら、書いてあるだろ『金魚すくい』って」

「え? 食べたい金魚を掬って、串に刺してもらうんじゃないのか?」

 どんだけ残酷なんだ。てか、それを炭で焼けと?

「いや、焼かずにそのままだろ? 色鮮やかな金魚を刺した串を持ってる奴がいるぞ」

 まさか! え、オレが知らないだけで、金魚すくいってそういう屋台なのか? 浴衣着た奴がたまに金魚の入ったビニール持ってたりするじゃん。それって家で食う用なの? 

 自分の中の常識がまたも覆った。金魚も観賞用じゃなくて食用なのか。ちょっとショックだったが、物は試しと金魚すくいの屋台へと足を向ける。

「ほら、見てみろセイシュン。嘘じゃないぞ。今通った子が持ってる。串刺しの金魚」

 先輩の言葉を信じて、失礼なくらい思い切り振り返って見つめてしまう。浴衣姿の女子が二人、確かにその手に見事な金魚を持っていた!

「それ! 食べるんですか?」

 つい声をかけてしまった。二人は驚いたように振り返り戸惑っていたが、オレの視線が手元の金魚に釘付けなのに気付くと、笑って背後の店を指さして、飴細工の屋台がある事を教えてくれた。

「掬った金魚を飴がけにしてもらうって事か?」

「違うよ! どんだけ金魚食いたいんだよ! すごくリアルな飴細工って事だろ! やっぱ金魚は観賞用だ! 金魚は食うな、大事に育ててやれ!」

「うちの学校にはプールがないぞ」

「せめて池くらい言ってくれ。プールや風呂で金魚は飼っちゃ駄目だろ」

 先輩、金魚が欲しいのかな。バケツとかでも育つだろうが……いや、寮生活でペットはないだろ。

「でも、あそこで小吉が金魚を掬おうとしてるぞ。もしかしたら、小吉もあの飴を金魚と勘違いしているのかもしれないな。早く金魚は食っちゃ駄目だと教えてやろう」

 そんな勘違いするのはテメェぐらいだと言いたかったが、大変だとばかりに先輩は先に進んでしまう。
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