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圏ガクの夏休み!!
若気の至り
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「それより、セイシュン。寒いだろう、先に服を着た方がいいぞ」
なんか強引に話題を変えられた気がする。先輩が口を噤む程の出来事、気にならないと言えば嘘になるが、きっと知らない方がいい事も世の中にはあるのだ。オレは出かかった言葉を飲み込み、畳まれた服を引き寄せて先輩に「ありがとう」と一応礼を言った。
「どうかしたのか?」
服を畳んでくれたんだろうと思い礼を言ったのだが、先輩は小さく溜め息を吐いて首を左右に振った。
「俺じゃないよ。お前が自分で畳んでたぞ」
意味が分からない。なんだ? 酒で調子に乗って脱ぎ散らかすなら、まだ分からんでもないが、なんで畳んだんだオレ! 恐すぎるよ、もう二度と酒なんて飲まないよ!
「うん、そうしろ。ほら、早く着替えて部屋に戻るぞ。さっき迎えのバスが出てったからさ」
そう言いながら先輩は腕時計を見せてくれる。時刻は午後一時を回っていた。頭痛は酷いが服を着替えると、先輩はオレのくるまっていた毛布を片手に抱え、初の二日酔いでボロボロの後輩の手を引いて冷蔵庫を出てくれた。
「あの部屋の片付けは、あいつらが起きてからにするよ」
オレも手伝うと提案したい所だったが、頭痛が酷すぎて今は黙って歩いた。けれど、先輩の部屋に到着する頃になって、猛烈な尿意に襲われ便所に駆け込んだ。
夕べの酒の量を物語る長い小便を済ませ、少しでもマシになるかと思い、手洗い場の水で顔を洗ったが、俯いたせいで何かが込み上げてきて、もう二度と酒は飲まないと改めて誓った。
這うように部屋に戻り、先輩の手を借りて椅子に腰掛け机に突っ伏した。先輩と過ごせる夏休みの終わりが秒読み段階になっているのに、こんな無駄に時間を浪費している事が心底嫌になる。
「大丈夫か、セイシュン。ほら、コレ飲んでみろ。お茶缶が残ってた」
机で呻いていると、先輩が優しく背中を摩ってくれた。エロさの全くないスキンシップだが、手の温かさが心に沁みて、なんとか起き上がる気力を補充する事が出来た。
「ちょっと寂しくなるな」
二日酔いと戦いながら感傷に浸っていると、先輩がお茶缶を開けて、胸がギュッとするような表情で笑って見せた。
「……それに、また行けなかったな」
なんの事か咄嗟には分からず「え?」と声を漏らしてしまう。先輩は申し訳なさそうな顔でキャンプと呟いた。
「お前、楽しみにしてたのに……ごめんな」
確かにまたキャンプは延期になってしまった。けれど、オレの中では中止でなく延期なのだ。また計画を立てればいいだけの話。
「別に学校始まってからでも行けるじゃん。秋の森でキャンプってのも乙だろ」
泊まりがけで栗拾いに出掛けてもいいだろう。いっぱい採れそうだ。
「そうだな。あーでも、その前にテントをもう一度用意しないとな。どうも荷物を没収されちまったみたいだから」
「没収じゃないよ。山センたちが荷物バラすの手伝ってくれたんだ。なんか見つかるとヤバイからって。多分、どこかで保管してくれてるよ」
確か、矢野君と稲継先輩が、バラした荷物を散り散りに持って行ったはずだ。
「じゃあ、まずは荷物を集める所から始めるか」
頭痛に襲われながらも、先輩の言葉に全力で同意する。約束をしようと小指を突き出すと、素直に指を絡めてくれた。
「先輩、ちゃんと放課後の待ち合わせ場所とか決めとこう。学校始まったらオレ、日中はここに来られないから」
夏休み前は、先輩がさり気なくオレを見つけて、声をかけてくれていたのだが、それじゃあどうにも味気ない。いや、それはそれで嬉しいんだけどな。
せっかくケツを舐め合う関係になったのだ。そんな二人が遊ぶ約束、それは男同士だろうとデートだ。……おぉ、デートなのか。そっか、いいな……デートか。
「んー、別に来られないって事はないんじゃないか?」
デートという響きにちょっと感動していたら、先輩が妙な事を言い出した。
夏休みは解放されているが、普段は二年のバリケードがある事を忘れたのかと聞けば「お前なら大丈夫だろ」と笑い飛ばされる。
「あそこに居る連中って、稲継と矢野が中心になってる奴らだぞ。真山の使ってるあっちの部屋に行くのは怒られるだろうが、ここに来るだけなら通してくれるだろ」
「ちょっと甘過ぎねぇ? 相手が小吉さんでも無理だと思うよ。あいつらの忠誠心って半端ないし。ちゃんと線引きしとかねぇーと地雷踏みそうで恐いよオレは」
「セイシュンはあいつらと、風呂とか超越した裸の付き合いをしてる仲だしな。それくらい見逃してくれるんじゃないか?」
風呂を超越した裸の付き合いって、マジで何やったんだよオレ!
シラフでオナカップとかやらかす連中と酒飲んでマッパで何をしたのか……ちょっと考えただけで、頭痛が倍増した。失った記憶でない事を祈るが、一瞬、ちんこでチャンバラという図が頭に浮かんで死にそうになる。
「なんで止めなかったんだよぉ」
「ん、お前も他の奴らも楽しそうだったからな」
全力で顔を背けられると、単に巻き込まれないよう逃げてただけじゃないかと疑ってしまう。
「そんな顔するな。もう過ぎた事だ。無駄に悩むと夕べの記憶が戻るかもしれないぞ。ん、俺はそうなった後のフォローはしないからな」
薄情な事を言いながらも、先輩はゆっくりと顔を近づけてきた。キスでもされるのかと思い目を瞑ろうとしたが、先輩はオレの口元に鼻を近づけると、小さくにおいを嗅ぐ仕草を見せる。
「そんなに酒臭い?」
自分ではよく分からないが、先輩の鼻先に息を吹きかけてやると、その表情からちょっとマズイ状況だと判断出来た。
「このまま旧館に戻ると、反省室に直行だろうな」
一応、今日までは夏休みの筈なので、旧館に戻った途端に点呼なんて事にはならないと思うのだが……甘いだろうか。
「少し辛いだろうけど、牛乳でも飲んで誤魔化すか」
先輩は冷蔵庫から牛乳と毒ジュースを一本ずつ持って来てくれる。
「なんで毒ジュース?」
不思議に思い手に取ると「これも結構臭いキツイから」と笑う先輩。毒を以て毒を制すって感じか。
「味噌汁もあるぞ。二日酔いに効くらしいから、これも飲んどけ」
毒ジュースにストローを突き刺し、吸おうか迷っていると、先輩はどこにあったのかインスタントの味噌汁をマグカップに作り出した。
冷蔵庫で大量のアルコールと一緒にストックしてあったのを頂戴したらしい。チビリと毒を啜って、その甘さに脳みそを揺さ振られた。ソッと先輩に押し返すよう机に毒ジュースを置き、味噌汁用のお湯が沸くのをぼんやり外を眺めながら待つ。
迎えに行ったバスを出迎える為、校門では着々と準備が進んでいた。長机に生徒の私物が詰まった荷物を運ぶ馬鹿デカイ台車。帰って来た奴らの荷物を容赦なく毟り取り、プライバシーへの配慮が欠片もない持ち物検査が強行されるのだろう。
既に懐かしくもある校門の光景を観察していると、お湯が沸いたのか味噌汁の匂いが漂って来た。
「飲めそうか?」
マグカップを差し出す先輩と、並んで窓辺に立つ。少し口を付けると、飛び上がるほど熱くて涙が出たが、毒ジュースと違って飲めそうなので黙って頷いた。
「あ、向こうから、ここって見えんじゃね?」
教師や帰ってくる奴らに姿を見られる可能性に気付き、オレは慌ててしゃがみ込む。部屋の中までは見えなくとも、窓辺に立っていたら、確実に見えてしまうだろう。
「遠目では立っているのが誰かまでは分からないだろ」
そうは言いつつも、オレに付き合って先輩もしゃがみ込み、窓辺で二人仲良く胡座をかく。
「あの持ち物検査ってさ、オレも春に受けて、服と筆記用具以外全部没収されたんだけど、返してくれんのかな」
正直な所、今となっては返して欲しい物なんて一つもないのだが、大量の違反物の行方は少し気になる。駅の忘れ物よろしく、どっかで叩き売りとかされているのだろうか。もしそうなら、未練はなくとも面白くない。
「一応返却はしてもらえるぞ。帰省の時じゃなくて卒業する時にな。まあ、賞味期限のある食料品は処分されるらしいけど」
食料品は教師たちの腹の中で処分されるのか。卒業する時に、コンビニで買い込んだパンとか返却されても困るので、致し方なしって感じかな。
「先輩は何か没収された? オレは暇つぶし用のゲームとコンビニで買ったパンとスナック菓子」
チョコレートもカゴに放り込んだ気もするが、ちょっとかっこ悪いので省く。
「俺は何もないな。逆に色々と用意してもらったよ。服とか生活用品とか。身一つで連れて来られたから」
確か先輩は山センたちから少し遅れて入学したんだっけ。『連れて来られた』という不穏な言葉に少しだけドキリとしてしまう。
「本当に何も持ってなかったからな……どれだけ感謝したらいいのか分からないくらい、ここには……圏ガクにはお世話になってるよ」
一瞬だけ感じた不安は、先輩の浮かべた穏やかな表情で拭われる。そして、伸ばされた手がオレの頬を優しく撫でた。
「先輩」
見つめ合う目、視線から洪水みたいに流れ込んでくる先輩の感情。それをなんて呼べばいいのか、オレには分からなかった。でも一つだけ、オレにも分かる事があった。
頬を撫でる手に自分の手を重ねる。それだけじゃあ足らなくギュッと握り直す。勢いで好きだと言葉にする寸前で口を噤む。
なんか強引に話題を変えられた気がする。先輩が口を噤む程の出来事、気にならないと言えば嘘になるが、きっと知らない方がいい事も世の中にはあるのだ。オレは出かかった言葉を飲み込み、畳まれた服を引き寄せて先輩に「ありがとう」と一応礼を言った。
「どうかしたのか?」
服を畳んでくれたんだろうと思い礼を言ったのだが、先輩は小さく溜め息を吐いて首を左右に振った。
「俺じゃないよ。お前が自分で畳んでたぞ」
意味が分からない。なんだ? 酒で調子に乗って脱ぎ散らかすなら、まだ分からんでもないが、なんで畳んだんだオレ! 恐すぎるよ、もう二度と酒なんて飲まないよ!
「うん、そうしろ。ほら、早く着替えて部屋に戻るぞ。さっき迎えのバスが出てったからさ」
そう言いながら先輩は腕時計を見せてくれる。時刻は午後一時を回っていた。頭痛は酷いが服を着替えると、先輩はオレのくるまっていた毛布を片手に抱え、初の二日酔いでボロボロの後輩の手を引いて冷蔵庫を出てくれた。
「あの部屋の片付けは、あいつらが起きてからにするよ」
オレも手伝うと提案したい所だったが、頭痛が酷すぎて今は黙って歩いた。けれど、先輩の部屋に到着する頃になって、猛烈な尿意に襲われ便所に駆け込んだ。
夕べの酒の量を物語る長い小便を済ませ、少しでもマシになるかと思い、手洗い場の水で顔を洗ったが、俯いたせいで何かが込み上げてきて、もう二度と酒は飲まないと改めて誓った。
這うように部屋に戻り、先輩の手を借りて椅子に腰掛け机に突っ伏した。先輩と過ごせる夏休みの終わりが秒読み段階になっているのに、こんな無駄に時間を浪費している事が心底嫌になる。
「大丈夫か、セイシュン。ほら、コレ飲んでみろ。お茶缶が残ってた」
机で呻いていると、先輩が優しく背中を摩ってくれた。エロさの全くないスキンシップだが、手の温かさが心に沁みて、なんとか起き上がる気力を補充する事が出来た。
「ちょっと寂しくなるな」
二日酔いと戦いながら感傷に浸っていると、先輩がお茶缶を開けて、胸がギュッとするような表情で笑って見せた。
「……それに、また行けなかったな」
なんの事か咄嗟には分からず「え?」と声を漏らしてしまう。先輩は申し訳なさそうな顔でキャンプと呟いた。
「お前、楽しみにしてたのに……ごめんな」
確かにまたキャンプは延期になってしまった。けれど、オレの中では中止でなく延期なのだ。また計画を立てればいいだけの話。
「別に学校始まってからでも行けるじゃん。秋の森でキャンプってのも乙だろ」
泊まりがけで栗拾いに出掛けてもいいだろう。いっぱい採れそうだ。
「そうだな。あーでも、その前にテントをもう一度用意しないとな。どうも荷物を没収されちまったみたいだから」
「没収じゃないよ。山センたちが荷物バラすの手伝ってくれたんだ。なんか見つかるとヤバイからって。多分、どこかで保管してくれてるよ」
確か、矢野君と稲継先輩が、バラした荷物を散り散りに持って行ったはずだ。
「じゃあ、まずは荷物を集める所から始めるか」
頭痛に襲われながらも、先輩の言葉に全力で同意する。約束をしようと小指を突き出すと、素直に指を絡めてくれた。
「先輩、ちゃんと放課後の待ち合わせ場所とか決めとこう。学校始まったらオレ、日中はここに来られないから」
夏休み前は、先輩がさり気なくオレを見つけて、声をかけてくれていたのだが、それじゃあどうにも味気ない。いや、それはそれで嬉しいんだけどな。
せっかくケツを舐め合う関係になったのだ。そんな二人が遊ぶ約束、それは男同士だろうとデートだ。……おぉ、デートなのか。そっか、いいな……デートか。
「んー、別に来られないって事はないんじゃないか?」
デートという響きにちょっと感動していたら、先輩が妙な事を言い出した。
夏休みは解放されているが、普段は二年のバリケードがある事を忘れたのかと聞けば「お前なら大丈夫だろ」と笑い飛ばされる。
「あそこに居る連中って、稲継と矢野が中心になってる奴らだぞ。真山の使ってるあっちの部屋に行くのは怒られるだろうが、ここに来るだけなら通してくれるだろ」
「ちょっと甘過ぎねぇ? 相手が小吉さんでも無理だと思うよ。あいつらの忠誠心って半端ないし。ちゃんと線引きしとかねぇーと地雷踏みそうで恐いよオレは」
「セイシュンはあいつらと、風呂とか超越した裸の付き合いをしてる仲だしな。それくらい見逃してくれるんじゃないか?」
風呂を超越した裸の付き合いって、マジで何やったんだよオレ!
シラフでオナカップとかやらかす連中と酒飲んでマッパで何をしたのか……ちょっと考えただけで、頭痛が倍増した。失った記憶でない事を祈るが、一瞬、ちんこでチャンバラという図が頭に浮かんで死にそうになる。
「なんで止めなかったんだよぉ」
「ん、お前も他の奴らも楽しそうだったからな」
全力で顔を背けられると、単に巻き込まれないよう逃げてただけじゃないかと疑ってしまう。
「そんな顔するな。もう過ぎた事だ。無駄に悩むと夕べの記憶が戻るかもしれないぞ。ん、俺はそうなった後のフォローはしないからな」
薄情な事を言いながらも、先輩はゆっくりと顔を近づけてきた。キスでもされるのかと思い目を瞑ろうとしたが、先輩はオレの口元に鼻を近づけると、小さくにおいを嗅ぐ仕草を見せる。
「そんなに酒臭い?」
自分ではよく分からないが、先輩の鼻先に息を吹きかけてやると、その表情からちょっとマズイ状況だと判断出来た。
「このまま旧館に戻ると、反省室に直行だろうな」
一応、今日までは夏休みの筈なので、旧館に戻った途端に点呼なんて事にはならないと思うのだが……甘いだろうか。
「少し辛いだろうけど、牛乳でも飲んで誤魔化すか」
先輩は冷蔵庫から牛乳と毒ジュースを一本ずつ持って来てくれる。
「なんで毒ジュース?」
不思議に思い手に取ると「これも結構臭いキツイから」と笑う先輩。毒を以て毒を制すって感じか。
「味噌汁もあるぞ。二日酔いに効くらしいから、これも飲んどけ」
毒ジュースにストローを突き刺し、吸おうか迷っていると、先輩はどこにあったのかインスタントの味噌汁をマグカップに作り出した。
冷蔵庫で大量のアルコールと一緒にストックしてあったのを頂戴したらしい。チビリと毒を啜って、その甘さに脳みそを揺さ振られた。ソッと先輩に押し返すよう机に毒ジュースを置き、味噌汁用のお湯が沸くのをぼんやり外を眺めながら待つ。
迎えに行ったバスを出迎える為、校門では着々と準備が進んでいた。長机に生徒の私物が詰まった荷物を運ぶ馬鹿デカイ台車。帰って来た奴らの荷物を容赦なく毟り取り、プライバシーへの配慮が欠片もない持ち物検査が強行されるのだろう。
既に懐かしくもある校門の光景を観察していると、お湯が沸いたのか味噌汁の匂いが漂って来た。
「飲めそうか?」
マグカップを差し出す先輩と、並んで窓辺に立つ。少し口を付けると、飛び上がるほど熱くて涙が出たが、毒ジュースと違って飲めそうなので黙って頷いた。
「あ、向こうから、ここって見えんじゃね?」
教師や帰ってくる奴らに姿を見られる可能性に気付き、オレは慌ててしゃがみ込む。部屋の中までは見えなくとも、窓辺に立っていたら、確実に見えてしまうだろう。
「遠目では立っているのが誰かまでは分からないだろ」
そうは言いつつも、オレに付き合って先輩もしゃがみ込み、窓辺で二人仲良く胡座をかく。
「あの持ち物検査ってさ、オレも春に受けて、服と筆記用具以外全部没収されたんだけど、返してくれんのかな」
正直な所、今となっては返して欲しい物なんて一つもないのだが、大量の違反物の行方は少し気になる。駅の忘れ物よろしく、どっかで叩き売りとかされているのだろうか。もしそうなら、未練はなくとも面白くない。
「一応返却はしてもらえるぞ。帰省の時じゃなくて卒業する時にな。まあ、賞味期限のある食料品は処分されるらしいけど」
食料品は教師たちの腹の中で処分されるのか。卒業する時に、コンビニで買い込んだパンとか返却されても困るので、致し方なしって感じかな。
「先輩は何か没収された? オレは暇つぶし用のゲームとコンビニで買ったパンとスナック菓子」
チョコレートもカゴに放り込んだ気もするが、ちょっとかっこ悪いので省く。
「俺は何もないな。逆に色々と用意してもらったよ。服とか生活用品とか。身一つで連れて来られたから」
確か先輩は山センたちから少し遅れて入学したんだっけ。『連れて来られた』という不穏な言葉に少しだけドキリとしてしまう。
「本当に何も持ってなかったからな……どれだけ感謝したらいいのか分からないくらい、ここには……圏ガクにはお世話になってるよ」
一瞬だけ感じた不安は、先輩の浮かべた穏やかな表情で拭われる。そして、伸ばされた手がオレの頬を優しく撫でた。
「先輩」
見つめ合う目、視線から洪水みたいに流れ込んでくる先輩の感情。それをなんて呼べばいいのか、オレには分からなかった。でも一つだけ、オレにも分かる事があった。
頬を撫でる手に自分の手を重ねる。それだけじゃあ足らなくギュッと握り直す。勢いで好きだと言葉にする寸前で口を噤む。
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