『逆行。』

篠崎俊樹

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第6話。

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 その日、ジミーは、待ち合わせ場所のバルーンでコーヒーを飲みながら、タカを待った。待ちくたびれても、コーヒーで粘れる。タカは時間にルーズだ。平気で、遅刻などをして、言い訳一つしないし、釈明だってしない。いい加減なのだった。
 約束時間である午後七時の五分ほど前に、「待った?」などと言って、タカが入ってきた。何考えてんだと思うが、実際、裏堅気の人間は、ルーズで適当だ。レビー小体型認知症だった、自分の毒親と、何となく似ている。
 席に着いて、アイスコーヒーを注文したタカが、脅かすように言った。今、怯えてるだろ?と殺し文句の類を吐いて。この男は、脅しが上手い。堂に入っている。実際、恐喝の類など、裏の人間なら、誰だってする。必要悪というやつだ。また、その悪を行使しないと、闇社会では、生きていけない。皆、そう思いながら、やっている。
 タカが、ジミーを焚きつけるときは、呪いや暗示を掛ける。洗脳と言ってもいい。多分、この裏堅気の男からすれば、純な統合失調症の人間は、洗脳行為をしやすいのだろう。また、ジミーは暗示などにも、掛かりやすかった。
タカの仕事というのは、任されたターゲットを、感情を混ぜることなく、確実に死へと導くものだった。躊躇なく、殺してしまう。また、それが、この闇の男のやり口なのだった。手強いというか、汚いというか、よく分からない。ただ、流れる血が、冷え切っていることだけは言える。
 彼がズボンのポケットから、タバコの箱を一つ取り出し、箱底を叩いて、一本抜き取ってから、ジッポで火を点け、美味そうに吸い始めた。大抵、ヘビースモーカーというのは、肺を悪くする。ジミーにとって、タバコは厳禁なのだった。酒は飲むが、ニコチンは口にしない。
 タカもまだ二十代後半で、ジミーと大して年の差はない。また、若いから、何とでもなると思っている。別にいいのだろう。何を考えていても、適当にやっておけば、どうとでもなると、踏んでいる。実際、滅茶苦茶だ。
 コーヒーに口を付けながら、タカが、「まだ躊躇ってるのか?」と問うてきたので、ジミーが「ああ」と頷く。その後、曖昧な感じで焦らしながら、ゆっくりと横目で、相方を見つめた。その目は、統合失調症の既往歴があるからか、落ちくぼんで、おまけに、精神的な病気があってか、無感情で、無反応だ。これが、ジミーの全てだった。実際、精神病というのは、闇だ。皆、そう思っている。また、ジミーが、憎い相手を、快楽でも伴うように、また、何かをリセットでもしてしまうかのように、やってしまうことは、不気味だった。
 タカの乗る方舟も狂った方向に向かっている。ジミーもそれに乗せられていた。実際、互いに、胸の内は複雑だ。逆戻りなどできない。また、戻ることすら、躊躇われる。これが、闇社会のビジネスの実態だ。もちろん、このビジネスは、今やるしか、手がないのだ。
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