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第19話。
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翌日の朝早く、亜季から、スマホに電話が掛かってきた。そうなるだろうと踏んでいたが、案の定だった。ジミーが出ると、
「一体、どういうことなの?あたしに何か隠してるの?」
と彼女が言ってくる。適当に、「別に隠してなんかない」と言うと、
「じゃあ話して。何で、警察なんかに付け回されてるの?」
と訊かれた。話すしかないと思い、話し始める。
――あいつらが勝手に付け回してるだけだ。俺は何もしてない。
嘘をついた。統合失調症の患者が付く、特有の嘘だ。だが、女の勘は一際鋭く、勘付いたようで、亜季は溜め息をついて、
「あの女刑事さんが言ってたわ。『あの男は、亡くなった甘利健吾民慈党幹事長殺しの犯人かもしれない』って」
と返す。心底、呆れ返ったといった感じだ。ジミーは、もはや、隠しきれないといった風に、諦めて、正直に、
――俺が甘利をヤった。
と白状した。不承不承に、だ。その後、続ける。
――甘利をヤるしか、手がなかった。それだけだ。
「自首して。お願いだから、自首して、罪を償って」
亜季が、そう言ってきた。ジミーはできない相談だというように、
――それは絶対できない。……お願いだ。俺と一緒に逃げてくれないか?
と返す。
「あたしを巻き添えにするつもり?」
――そういうんじゃないけど。……でも今は、愛しい人とずっと一緒にいたいんだ。
と適当に言いくるめて、誤魔化す。これが、奥の手だ。亜季を欺く、まさに奥の手だったのだ。最終手段と言ってもいい。
「気持ちは分からないことないけど……でも、あたしの人生、どうなるのよ?」
――君には、ただ傍にいてくれるだけでいいんだ。それだけなんだ。
そう返して、
――君が決断してくれなかったら、俺は次の殺人を犯すかもしれない。
と半ば、脅迫まがいのことを、口にする。統合失調症の頭脳も、ここまで来ると、恐ろしいものだ。そう思えた。
――明日、ミクロネシア連邦にある、セントアルバ島行きのチケットを二枚取って、午後三時に成田で待ってる。君に、もし決心がつけば、一緒に来てくれないか?
と、電話口で言った後、軽く息をつき、
――もちろん、来てくれなかったら、チケットは破くよ。じゃあ、待ってるから。
と言って、電話を切った。ダメを押したつもりだ。もちろん、騙して、悪いとは分かっているのだが……。
その夜、ジミーはタカに内緒で、手持ちのボストンバッグに荷物を詰め込み、航空会社の二十四時間受付のカスタマーセンターに電話して、チケットの予約を入れた。二枚手配する。幸いにも、明日の午後三時五十七分、成田発セントアルバ島行きのチケットが二枚あった。これはイケる。そう思えた。
「ご予約のお名前は?」
「浅川昌平といいます」
電話口で、わざと偽名を使った。少し後ろ暗い。
「失礼ですが、漢字は?」
「浅いという字に、川。昌は日二つに、平は平家の平」
すると、オペレーターが、
「もう一人のご予約のお名前は?」
と訊いてきた。
「大島亜季。大きい島に、亜は亜細亜の亜、季は季節の季」
連れの方だけは、本名を言った。これは本名で、嘘をつくわけにはいかないからだ。
「分かりました。浅川様と大島様ですね?では、チケットを手配しておきます。ありがとうございました」
オペレーターがそう言い、マニュアル通りの言葉を返す。これは、まさに、マニュアル通りの返答だ。これで、タカからも、世間の目からも、上手く逃れられる。そう思えた。
その夜は、実に興奮したせいか、朝まで一睡も出来なかった。それも自然だろう。興奮というのは、実に、睡眠時間まで、削ってしまうのだから……。
翌日の朝早く、亜季から、スマホに電話が掛かってきた。そうなるだろうと踏んでいたが、案の定だった。ジミーが出ると、
「一体、どういうことなの?あたしに何か隠してるの?」
と彼女が言ってくる。適当に、「別に隠してなんかない」と言うと、
「じゃあ話して。何で、警察なんかに付け回されてるの?」
と訊かれた。話すしかないと思い、話し始める。
――あいつらが勝手に付け回してるだけだ。俺は何もしてない。
嘘をついた。統合失調症の患者が付く、特有の嘘だ。だが、女の勘は一際鋭く、勘付いたようで、亜季は溜め息をついて、
「あの女刑事さんが言ってたわ。『あの男は、亡くなった甘利健吾民慈党幹事長殺しの犯人かもしれない』って」
と返す。心底、呆れ返ったといった感じだ。ジミーは、もはや、隠しきれないといった風に、諦めて、正直に、
――俺が甘利をヤった。
と白状した。不承不承に、だ。その後、続ける。
――甘利をヤるしか、手がなかった。それだけだ。
「自首して。お願いだから、自首して、罪を償って」
亜季が、そう言ってきた。ジミーはできない相談だというように、
――それは絶対できない。……お願いだ。俺と一緒に逃げてくれないか?
と返す。
「あたしを巻き添えにするつもり?」
――そういうんじゃないけど。……でも今は、愛しい人とずっと一緒にいたいんだ。
と適当に言いくるめて、誤魔化す。これが、奥の手だ。亜季を欺く、まさに奥の手だったのだ。最終手段と言ってもいい。
「気持ちは分からないことないけど……でも、あたしの人生、どうなるのよ?」
――君には、ただ傍にいてくれるだけでいいんだ。それだけなんだ。
そう返して、
――君が決断してくれなかったら、俺は次の殺人を犯すかもしれない。
と半ば、脅迫まがいのことを、口にする。統合失調症の頭脳も、ここまで来ると、恐ろしいものだ。そう思えた。
――明日、ミクロネシア連邦にある、セントアルバ島行きのチケットを二枚取って、午後三時に成田で待ってる。君に、もし決心がつけば、一緒に来てくれないか?
と、電話口で言った後、軽く息をつき、
――もちろん、来てくれなかったら、チケットは破くよ。じゃあ、待ってるから。
と言って、電話を切った。ダメを押したつもりだ。もちろん、騙して、悪いとは分かっているのだが……。
その夜、ジミーはタカに内緒で、手持ちのボストンバッグに荷物を詰め込み、航空会社の二十四時間受付のカスタマーセンターに電話して、チケットの予約を入れた。二枚手配する。幸いにも、明日の午後三時五十七分、成田発セントアルバ島行きのチケットが二枚あった。これはイケる。そう思えた。
「ご予約のお名前は?」
「浅川昌平といいます」
電話口で、わざと偽名を使った。少し後ろ暗い。
「失礼ですが、漢字は?」
「浅いという字に、川。昌は日二つに、平は平家の平」
すると、オペレーターが、
「もう一人のご予約のお名前は?」
と訊いてきた。
「大島亜季。大きい島に、亜は亜細亜の亜、季は季節の季」
連れの方だけは、本名を言った。これは本名で、嘘をつくわけにはいかないからだ。
「分かりました。浅川様と大島様ですね?では、チケットを手配しておきます。ありがとうございました」
オペレーターがそう言い、マニュアル通りの言葉を返す。これは、まさに、マニュアル通りの返答だ。これで、タカからも、世間の目からも、上手く逃れられる。そう思えた。
その夜は、実に興奮したせいか、朝まで一睡も出来なかった。それも自然だろう。興奮というのは、実に、睡眠時間まで、削ってしまうのだから……。
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