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第20話。
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翌日の昼、一言「出かける」と言ったジミーが、大きなボストンバッグ一つを抱え込んで、成田に向かうべく、マンション脇で、タクシーを一台拾った。そして、ジャングルのような密集地帯の大久保の街を、車を走らせて、進ませる。この街は、昼間からでも大渋滞するのだ。ジミーには、そう思えた。これが、統合失調症の怜悧な頭脳のなせる業だ。
午後一のラッシュに巻き込まれたタクシーは、優に三十分くらいは、車の洪水から抜けられそうにない。これは、困った。そう思える。心の奥底から。そして、続けざまに、
「急いでるから、そっちに行って」
と頼み込む。それがいいかと思い、ゆっくりと頷いた。その後、鎌を掛けるように、
「そっちの方が早い?」
と訊いてみた。ダメもとで、だ。
「うん。断然早いよ」
「すぐに、そっちお願い」
やはり、統合失調症の頭脳は、怜悧で、切れ味が鋭い。その通りに、動いてもらうことにした。
まんまと、情報提供料をせしめた運転手は、いささか気分よく、ギアを入れ直して、車がすぐに、バイパスへと迂回する。これでよし――、そう思って、後部座席に座り込む。
走りに走ったタクシーは、一時間後の午後二時過ぎ、成田空港前に到着した。予定通りだ。
「ありがとう」と、運転手に一言だけ、礼を言ったジミーは、国際線ターミナルへと行くべく、エスカレーターに乗り込む。十分ぐらい、走りに走ると、テレビドラマの撮影などによく使われる大型電光掲示板の前まで来た。ここが一番いい。そう思えた。心の奥底からだ。
掲示板の表示は、時々刻々と変わる。無情な感じで。
女性客室乗務員のアナウンスによると、セントアルバ島行きの便は、途中マレーシアのジョホールバル空港で、いったん給油休憩した後、すぐに島へと向かうらしい。予定通りだ。
カウンターで、ジミーが、
「予約していた浅川ですが」
と言って、チケット二枚を受け取り、休憩室へと入って、椅子に腰掛けた。
フカフカの椅子は、抜群に座り心地がよく、うっかり居眠りしそうになる。危なっかしい。
午後三時過ぎに、一度、亜季のスマホに掛けてみた。出るか、出ないか、賭けてみるつもりで、だ。
「ただ今、電話に出ることができません」
無情なメッセージが流れ出す。これが、結論なのだろう。留守電にメッセージを残さずに、すぐ切った。あと五十分ほどで、飛行機が飛び立つ。もう、時間がない。
“亜季は、本当に来ないのか?”
ジミーは、幾分不安になったが、仕方ないだろう。
もし彼女が来なかったなら、彼女の分のチケットは遠慮なく破り捨てよう、と思っていた。それが、唯一、できることだ。
目の前の電光掲示板の文字が、チカチカと明滅し始めた。セントアルバ島行きの便の搭乗案内のアナウンスが告げられる。時間はそうない。
彼女のことをすっかり諦め、取っておいたチケットを破るため、それを宙に投げようとした瞬間、チケット越しに、亜季の姿が見えた。イケると思い、搭乗口ゲートへと歩き出す。互いに、揃い踏みして、だ。
翌日の昼、一言「出かける」と言ったジミーが、大きなボストンバッグ一つを抱え込んで、成田に向かうべく、マンション脇で、タクシーを一台拾った。そして、ジャングルのような密集地帯の大久保の街を、車を走らせて、進ませる。この街は、昼間からでも大渋滞するのだ。ジミーには、そう思えた。これが、統合失調症の怜悧な頭脳のなせる業だ。
午後一のラッシュに巻き込まれたタクシーは、優に三十分くらいは、車の洪水から抜けられそうにない。これは、困った。そう思える。心の奥底から。そして、続けざまに、
「急いでるから、そっちに行って」
と頼み込む。それがいいかと思い、ゆっくりと頷いた。その後、鎌を掛けるように、
「そっちの方が早い?」
と訊いてみた。ダメもとで、だ。
「うん。断然早いよ」
「すぐに、そっちお願い」
やはり、統合失調症の頭脳は、怜悧で、切れ味が鋭い。その通りに、動いてもらうことにした。
まんまと、情報提供料をせしめた運転手は、いささか気分よく、ギアを入れ直して、車がすぐに、バイパスへと迂回する。これでよし――、そう思って、後部座席に座り込む。
走りに走ったタクシーは、一時間後の午後二時過ぎ、成田空港前に到着した。予定通りだ。
「ありがとう」と、運転手に一言だけ、礼を言ったジミーは、国際線ターミナルへと行くべく、エスカレーターに乗り込む。十分ぐらい、走りに走ると、テレビドラマの撮影などによく使われる大型電光掲示板の前まで来た。ここが一番いい。そう思えた。心の奥底からだ。
掲示板の表示は、時々刻々と変わる。無情な感じで。
女性客室乗務員のアナウンスによると、セントアルバ島行きの便は、途中マレーシアのジョホールバル空港で、いったん給油休憩した後、すぐに島へと向かうらしい。予定通りだ。
カウンターで、ジミーが、
「予約していた浅川ですが」
と言って、チケット二枚を受け取り、休憩室へと入って、椅子に腰掛けた。
フカフカの椅子は、抜群に座り心地がよく、うっかり居眠りしそうになる。危なっかしい。
午後三時過ぎに、一度、亜季のスマホに掛けてみた。出るか、出ないか、賭けてみるつもりで、だ。
「ただ今、電話に出ることができません」
無情なメッセージが流れ出す。これが、結論なのだろう。留守電にメッセージを残さずに、すぐ切った。あと五十分ほどで、飛行機が飛び立つ。もう、時間がない。
“亜季は、本当に来ないのか?”
ジミーは、幾分不安になったが、仕方ないだろう。
もし彼女が来なかったなら、彼女の分のチケットは遠慮なく破り捨てよう、と思っていた。それが、唯一、できることだ。
目の前の電光掲示板の文字が、チカチカと明滅し始めた。セントアルバ島行きの便の搭乗案内のアナウンスが告げられる。時間はそうない。
彼女のことをすっかり諦め、取っておいたチケットを破るため、それを宙に投げようとした瞬間、チケット越しに、亜季の姿が見えた。イケると思い、搭乗口ゲートへと歩き出す。互いに、揃い踏みして、だ。
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