『逆行。』

第21話。

　　　　　２１
　二人一緒に、飛行機へと乗り込む。手を繋ぎ、歩き出す。これは、実に、素直な愛情表現だ。また、そう思える。
「当機は、日本時間午後九時三十八分、現地時間で午後十一時四十二分に、セントアルバ国際線ターミナルに到着予定です。それまで、ごゆっくりお寛ぎくださいませ」
　主任のキャビンアテンダントが必要事項を言い終えて、今度は、それを英語で復唱する。手馴れたフランクな英語が、機内に響く。聞いていて、嫌な感じはしない。機内では、ここ一ヶ月ほどの、ロシアなどでの不安定な国際情勢にも関わらず、落ち着いた雰囲気が保たれていた。実に、航空会社関係の人間たちは、落ち着いている。不安がないのだろう。飛行機は、何かあっても、欠航などをすることがない。
　やがて離陸時間になり、二人とも、揃ってスマホの電源を切った。飛行機に乗り込む。
　疲れたといった様子の亜季が、ジミーの肩に、自分のおでこを凭せ掛けてきた。どうやら、きついようだ。疲労は着実に、蓄積され続けている。二人が寄り添うと、一瞬だけだが、体温が同じになった。
　熱でむせ返った機内には、すでにヒートキャパシティが訪れている。暑い。飛んでいる最中の飛行機は、上下左右に、揺れている。二人は、ずっと傍にいた。もう、二人には、何の罪もないのだ。そう、愛し合っているのだった。その気持ちは、もう止まらないのだ。