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第47話。
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飛行機がシドニー国際空港に着陸したのは、それから三時間ほど後のことだった。
空気が涼しく、少し肌寒いぐらいだ。南国の冬の厳しさを、初めて味わう。
ふっとジミーが、脳裏に思い出した。
“南半球のこの国は、季節が北半球とは真逆だ。だから、十二月は真夏日和になり、サンタが波間でサーフィンしながら、子供たちにプレゼントを渡す。そんな感じなんだな”
記憶を一通り、手繰る。その後、
“この言葉、誰が言ってたっけ?……確か以前、話したことのある人間だったと思うけど、誰だったかな?”
と思い返す。
しかし、そのリフレインの言葉は、実に一瞬で消え去った。そんなことは今の二人にとって、もうどうだって、よかったのだ。別に、今となっては、どうだっていい。
空港前でタクシーを拾う。パッと見た感じ、相当ボロの車両だった。
「お客さんたち、新婚さん?」
運転手が愉快そうに、日本語で質問してくる。
「新婚……じゃないわね」
亜季がそう返すと、運転手が重ねて、
「じゃあ、この国に、何で来たの?」
と訊き返す。
彼の喋るフランクな日本語と南国特有の人の温かさは、全く厭味にならなかった。ジミーと亜季の二人は、自分たちの秘密を打ち明けるわけにはいかない。また、打ち明けると、とんでもないことになる。
「……」
車内にいる三人が無言を通したまま、時間が過ぎ去っていく。別に、何も言うことはない。
やがて二十分ほど、走っただろうか?タクシーは、オペラハウスが右手に見えるハーバービューへと出た。もう、ここは、怖い場所でも何でもない。
「あれが有名なオペラハウス。カタツムリみたいな綺麗な形してるでしょ?」
助手席の前に掲示してある乗務員証にある、ヒロアキナガタが言った。
「何だ!あんた、日本人じゃん」
隠さなくてもいいでしょ?といった風に、ジミーが運転手に声を掛けた。幾分、いぶかしむ気持ちでいる。
「ああ。俺は日本人だよ。生まれは秋田」
そう口にした永田が、一転して、疑問を持ったように訊く。
「そう言えば、お客さんたち、どこ行きたいの?聞いてなかったよね?」
「この国に、隠れて住むところってある?」
ジミーの質問に、永田が、
「ああ。いっぱいあるけど」
と返すと、ジミーが、
「じゃあ、どっかに案内して」
と注文した。
「ここから、そうだな……三十分ぐらい、車飛ばしたところに、格好の場所があるよ。お客さんの言うようなね」
「そこお願い!」
亜季がすかさず、横槍を入れた。速度を上げた車が、シドニーのメインストリートを突っ切る。さすがは南国の道路だ。舗装状態も、極めて良好で、道路脇には、葉が緑色で、幹が茶色の、原色に近いパームツリーが、整然と植え並べられている。
会話が少なくなり、やがて二人は、旅の疲れからか眠ってしまった。掛けっぱなしのラジオから、ニュースが英語で流れ出す。
「次のニュースです。つい先日、ミクロネシア連邦セントアルバ島で発生した日本人警官銃撃事件の犯人は、依然逃亡を続けている模様です。指名手配されたのは……」
その時不意に、ラジオに雑音が入って、三十秒ほど、聞こえなくなった。
「……の二人組です。両容疑者は共謀し、日本人警官、但馬勇さんと片桐華さんを銃撃し、但馬さんを射殺、片桐さんには瀕死の重傷を負わせた疑いが持たれています。二人は……」
永田がラジオを聴きながら、時折、後部座席で眠っている二人の方を、ミラー越しにチラッチラッと盗み見た。まさかな?と思う。
「オーストラリアへ逃亡した可能性があり、当局は、捜査基点をオーストラリアに移して、引き続き捜査を進める方針です」
ニュースキャスターがそう言って、次のニュースを告げ始めた。いつの間にか、ジミーと亜季は肩を並べて、すやすやと寝入っている。まるでこれから始まる悪夢の日々など、片鱗すら想像できないかのように……。
飛行機がシドニー国際空港に着陸したのは、それから三時間ほど後のことだった。
空気が涼しく、少し肌寒いぐらいだ。南国の冬の厳しさを、初めて味わう。
ふっとジミーが、脳裏に思い出した。
“南半球のこの国は、季節が北半球とは真逆だ。だから、十二月は真夏日和になり、サンタが波間でサーフィンしながら、子供たちにプレゼントを渡す。そんな感じなんだな”
記憶を一通り、手繰る。その後、
“この言葉、誰が言ってたっけ?……確か以前、話したことのある人間だったと思うけど、誰だったかな?”
と思い返す。
しかし、そのリフレインの言葉は、実に一瞬で消え去った。そんなことは今の二人にとって、もうどうだって、よかったのだ。別に、今となっては、どうだっていい。
空港前でタクシーを拾う。パッと見た感じ、相当ボロの車両だった。
「お客さんたち、新婚さん?」
運転手が愉快そうに、日本語で質問してくる。
「新婚……じゃないわね」
亜季がそう返すと、運転手が重ねて、
「じゃあ、この国に、何で来たの?」
と訊き返す。
彼の喋るフランクな日本語と南国特有の人の温かさは、全く厭味にならなかった。ジミーと亜季の二人は、自分たちの秘密を打ち明けるわけにはいかない。また、打ち明けると、とんでもないことになる。
「……」
車内にいる三人が無言を通したまま、時間が過ぎ去っていく。別に、何も言うことはない。
やがて二十分ほど、走っただろうか?タクシーは、オペラハウスが右手に見えるハーバービューへと出た。もう、ここは、怖い場所でも何でもない。
「あれが有名なオペラハウス。カタツムリみたいな綺麗な形してるでしょ?」
助手席の前に掲示してある乗務員証にある、ヒロアキナガタが言った。
「何だ!あんた、日本人じゃん」
隠さなくてもいいでしょ?といった風に、ジミーが運転手に声を掛けた。幾分、いぶかしむ気持ちでいる。
「ああ。俺は日本人だよ。生まれは秋田」
そう口にした永田が、一転して、疑問を持ったように訊く。
「そう言えば、お客さんたち、どこ行きたいの?聞いてなかったよね?」
「この国に、隠れて住むところってある?」
ジミーの質問に、永田が、
「ああ。いっぱいあるけど」
と返すと、ジミーが、
「じゃあ、どっかに案内して」
と注文した。
「ここから、そうだな……三十分ぐらい、車飛ばしたところに、格好の場所があるよ。お客さんの言うようなね」
「そこお願い!」
亜季がすかさず、横槍を入れた。速度を上げた車が、シドニーのメインストリートを突っ切る。さすがは南国の道路だ。舗装状態も、極めて良好で、道路脇には、葉が緑色で、幹が茶色の、原色に近いパームツリーが、整然と植え並べられている。
会話が少なくなり、やがて二人は、旅の疲れからか眠ってしまった。掛けっぱなしのラジオから、ニュースが英語で流れ出す。
「次のニュースです。つい先日、ミクロネシア連邦セントアルバ島で発生した日本人警官銃撃事件の犯人は、依然逃亡を続けている模様です。指名手配されたのは……」
その時不意に、ラジオに雑音が入って、三十秒ほど、聞こえなくなった。
「……の二人組です。両容疑者は共謀し、日本人警官、但馬勇さんと片桐華さんを銃撃し、但馬さんを射殺、片桐さんには瀕死の重傷を負わせた疑いが持たれています。二人は……」
永田がラジオを聴きながら、時折、後部座席で眠っている二人の方を、ミラー越しにチラッチラッと盗み見た。まさかな?と思う。
「オーストラリアへ逃亡した可能性があり、当局は、捜査基点をオーストラリアに移して、引き続き捜査を進める方針です」
ニュースキャスターがそう言って、次のニュースを告げ始めた。いつの間にか、ジミーと亜季は肩を並べて、すやすやと寝入っている。まるでこれから始まる悪夢の日々など、片鱗すら想像できないかのように……。
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