『逆行。』

篠崎俊樹

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第54話。

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 翌日、可奈はタクシーで、リスゴーの街へと向かった。山の中の立て込んだコッテージを、一軒一軒訪ねて回る。しかし、君島たち二人は、見つからなかった。
 その翌日は、バサーストの街へと行き、ホシの捜索を続行した。
 しかし、いかんせん、山中に百軒以上の家々が連なっているのだ。彼女一人で、全部回れるわけがない。また、不可能事だと思う。客観的に、だ。でも、この街にもやつらはいないと考えられた。
 残りは、オレンジという、更に奥地へと入った街のみとなった。ここにいなければ、おそらく、シドニー近郊に、被疑者二人はいないに違いない。
 日本の八田から、可奈のスマホに連絡が入ったのは、翌日の朝だった。
「この二日間、どうしてたんだ?」
「ちょっと体調を崩して、ホテルでじっとしてまして……」
 八田は、咄嗟についた可奈の嘘に気付かなかった。まあ、気付くわけもない。彼女は、上手く嘘を付いたからだ。
「そう。……ところでだ。どうやら我々の読みは、外れたらしい。被疑者二人はオーストラリアにはいない」
「じゃあ、どこに?」
「それは俺にも分からん。今の時点では、何とも言えんよ」
「そんな無責任な!私をこんなところにまで、派遣しておいて!」
「すまんね。あれからこっちでも何回も会議を重ねて、現地警察の多大な協力も仰ぎ、万全の態勢で臨んだ。しかしだ、ホシの行方が分からないとすれば、我々は180度方針転換するしかない」
「といいますと?」
「ひとまず、君には撤収してもらう。もうこれ以上、オーストラリアには執着できん」
「他の国を当たる、と仰りたいんですね?」
「そういうことだ」
 受話器越しに、八田の溜め息が漏れる。
「明日の夕刻、シドニー国際空港発、明後日早朝、成田着の飛行機のチケットを一枚取っておいた。もう、いい加減いいだろ?」
「八田警部補」
「ん?」
「明日一日だけ、時間をもらえませんか?夕刻まで」
「これ以上捜して、一体何になるというんだ?無意味じゃないか!」
「そんなことありません。あくまで私の勘なんですが、君島たちはきっと、このオーストラリアという地に潜伏しています。もう一度だけ、チャンスをください」
「分かった。じゃあ、タイムリミットは明日の夕刻までだ。悔いの残らぬよう、捜したまえ」
「ありがとうございます」
 一言礼を言った可奈が「では、失礼します」と言って、スマホを切った。そして、宿泊先のホテルに戻り、ベッドで眠って、一晩を過ごした。空の星は満天で、絶好の景色だ。
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