『逆行。』

篠崎俊樹

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第57話。

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     57
 膨大な数の住居を、一軒一軒回っていく。手が掛かる作業だった。
 昼過ぎになり、残り二十軒ほど回れば捜索完了となった。もうすぐ、終わりだ。
 可奈は、軽い昼食をパトカーの中で取った後、気を引き締めて、捜索を続ける。
     *
 午後三時過ぎ、一番山奥の一軒家だけが残った。
 おそらく、いるとしたら、あそこしかないと思えた。
 そっと拳銃に手をやった可奈が、捜索のパートナーである男性保安官二人と計三人で、一気に踏み込むことにした。
 玄関の呼び鈴を鳴らした可奈が言う。
「失礼いたします。警察の者ですが。……北川さんのお宅でよろしいでしょうか?」
 反応が返ってこない。留守なわけがないと思いながら、怪しいと踏んだ彼女が、もう一度呼び鈴を鳴らし、
「北川さん……北川さーん」
 と呼んだ。その時、背後でパンパーンという銃声が聞こえてきて、思わず身を伏せた後、振り返ってみる。
 背後に、人間二人が立っていた。
「あなたは?」
 可奈が問うと、銃を構えている男の方が、
「名前は言えない」
 と言う。
 大型銃をこちらの方に差し向けている女に、可奈が言った。
「警察です。職務質問よ。名前を名乗りなさい!」
「……」
 無言だったので、ああそうか、と合点がいった彼女が言う。
「あなたたちが、君島次郎と大島亜季ね?」
 二人は、相変わらず無言だ。可奈は、データに載っていた二人の顔写真を、脳裏に思い浮かべた。確かに、目の前の二人は整形している。しかし、整形手術でも変えられないのが、顔の基本的なプロットだ。
 彼女には分かる。目の前にいる男女二人組の薄ら笑う顔の奥底には、想像を絶するような悪魔が潜んでいることを。
 とりあえずといった感じで、
「あなたたちを銃刀法違反の現行犯で逮捕します」
 と言って、
「来なさい!」
 と、督促した。
「刑事さん」
 男の方が言う。
「いやって言ったら……どうする?」
 次の瞬間、男の銃が火を噴いた。弾丸が可奈の左胸に、思いっきり当たる。可奈が負傷して、呻いた。
付き添いの保安官二人が、慌てて銃を取り出して、構えようとすると、女の持つ大型銃が火を噴いた。弾丸が命中する。二人とも打ち所が悪かったらしく、たちまち地面に倒れ込んだ。
 可奈は、のたうち回った後、息絶えた。男が、
「俺たちは、絶対捕まらない」
 と一言言った。その後、
「じゃあな。間抜けな刑事さん」
 と捨て台詞を吐き、保安官の男のポケットを弄って、パトカーの鍵を奪い取った。そして停めてあった覆面パトカーを奪って、シドニー市街へと逃走した。
 可奈は死んでいる。現地の捜査本部の人間が不審に思い、現場に駆け付けたのは、二人が逃走してから、約三十分後のことだった。全てが、後の祭りだ。警察サイドの大敗北だった。
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