養い子を食べちゃったらしいんだけど、どうしよう…

いち

今から10年前、

「奏絵～、お願～い、駿を預かってくれない？3日で帰って来るからさ～」

親友の愛里がそう言っていた4日後。
その日は彼女の葬式だった。
仕事の出張から帰って来る途中に車に轢かれたらしい。
愛里はシングルマザーだった。
16歳の時に息子の駿君を1人で産んだ。
父親の名前は親にも親友の私にも教えてくれなかった。
よっぽど言えない人だったのだろう。
愛里は親にその際に絶縁されていたが、頭のいい子だったから、苦労はしていたが、そこそこいい職について1人で駿を育てていた。
明るく頭もいい愛里は今でも私の自慢の親友だ。
預かっている間、駿は泣くでもなく、わがままを言うこともなく大人しく過ごしていた。
聞いて見たところ、1晩くらいの出張はよくある事だったらしい。
当時の駿はまだ8歳だったが、よくできた子だなぁというのが私の感想だった。
だが3日目の夜、愛里が事故で死んでしまったのを電話で聞いたとき、近くに駿もいた。
その時駿は今までになく大泣きし、私も泣きながら駿を抱きしめたのを覚えている。
その後すぐに、駿と2人で愛里の運ばれた病院に行き、冷たくなった愛里を見た時は2人で大泣きし、駿は途中泣き疲れて眠ってしまった。
駿の眠ったあと、愛里の両親が来て葬儀の準備をした。
葬儀中、駿は祖父母である2人の傍には行かず、私の隣りに座って泣いていた。
その際に、私の喪服の袖を掴んで離さなかった。
葬儀が終わって私と駿と愛里の両親だけになった時、事件は起こった。
愛里の母が駿に向かって「あなた、これからどうするの」と言ったのだ。
それもかなり冷たい声で吐き捨てるように。
私はその時あれ？と思い、愛里の両親に話を聞くと、どこの馬の骨とも分からない男の息子をうちで育てる気はない、とハッキリ駿の前で言ったのだ。
そして、このままだと施設に入れるとも言ったのだ。
駿に対する対応に私は怒って、勢いで駿は私が引き取ると言った。
私は頭に血が登ったまま駿を連れてその場を後にした。