朱の空

カランコロン

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引越し準備

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 段ボールだらけの室内で何人もの子供達がそれぞれの用事を済ますために忙しなく駆け回っていた。

 有明ありあけ灯あかりもその中の一人だ。


「こらそこ、他の子の段ボール持ってかない!段ボールは一人3個までだよ!」


 突然、何処からか聞こえた誰かを叱っている声に、灯は足を止める。

 見ると、部屋の隅で親友の夕崎ゆうざき式しきが子供達のうちの一人を叱っていた。


「どうしたの?」


「この子が他の子の段ボール持っていこうとしてて・・・」


 式が困ったというように手を挙げる。


「だって、あれじゃ全部入りきらないんだもん」


 式に叱られていた女の子はふてくされたように頬を膨らまして言った。


「・・・じゃあ私のあげようか?」


 同じ目線になるようにしゃがんでから聞いてみる。

 すると、灯の提案にその子の顔がぱぁっと晴れた。


「いいの?灯」


「いいよ、私の荷物は一箱で全部入るから。それに全体の数さえ増えてなかったらバレないし大丈夫でしょ」


 式が心配そうに聞いて来たので灯は笑顔で頷く。


「ありがと、灯姉あかねぇ!」


 その子は段ボールを手にして、嬉しそうに戻って行った。

 ここは「暁の家」という養護施設。

 しかし経営難で、つぶれることになってしまった。

 なので今日は暁の家で過ごせる最後の日。



 荷物を外に運び出す途中。

 灯は薄暗くなった中庭で咲きかけの桜をながめている背の高い青年の姿を見つけて声をかけた。


「三笠みかさ、どうしたの?そんなところにいたら冷えちゃうよ?」


 声に反応して、天川あまかわ三笠は振り返り、水面を写したような蒼い瞳が灯を捕らえる。


「ああ、灯か・・・。いや、満開になるの、間に合わなかったなって」


「・・・だね」


 灯も三笠の隣に並んで、まだ蕾の目立つ桜を見上げる。


「そっちはもう終わったのか?」


「うん・・・式は機嫌悪いままだけどね」


 まだ桜に視線をむけているままでの三笠の質問に、灯は苦笑して答えた。


「・・・まぁ仕方ねぇよ、あいつだけ違う施設だからな」


「うん・・・」


 暁の家を出た後に移る施設が灯達の中で式だけ違うのだ。

 人数の問題で式だけ灯達の移る施設に入れなかった。


「これで年長組は解散か」


 三笠が残念そうに言う。

 暁の家は、最長18歳まで施設に残れる。

 今施設にいる年長者は今年で18歳の灯、式、三笠の三人と高原たかはら光みつるという青年を合わせた四人だ。


「光は気にしてないみたいだけど、私はやっぱり寂しいなぁ・・・」


「・・・大丈夫だって、あと一年もしない内に次の施設にも居られなくなるんだ。そうなったら嫌でも、就職だの自立だのでまた会えるようになる」


 ついショボンとしてしまった灯を、三笠が励ましてくれた。

 それだけで胸のあたりが少しほんわかしてくる。


「ありがとう三笠・・・。あっちの施設に行ってもよろしくね」


 気を取り直して笑顔で手を差し出すと、三笠は一瞬、鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしたが、すぐに灯の手を取って上下に振った。


「・・・こちらこそ」


 そう言った時の三笠の顔が少し赤くなっていたように見えたのは恐らく気のせいだろう。


「あ、いた」


 突然した声に驚いて振り向くと、後ろの建物の縁側に式が立っていた。


「先生が食事にするから早く来なさいってさ」


「あ、うん。分かった!すぐに行く」


 そう応えて灯は荷物を置きに移住先の施設へ行く車に急いで走り出した。

 その後、三笠が式に肘鉄を食らた事実を灯は知るよしもない。

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