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闇夜の決意
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あやめが在御門家に妖狐の姿で現れてから、瞬く間に5年の歳月が流れた。
それから、穏やかな生活がしばらく続いていた。
そんな穏やかさに不穏な陰りが差し始めたのは、数か月前のことであった。
数年前の都の火災事件が在御門家の仕業だと囁かれ始めたのだ。
あの時に龍を見た法師陰陽師達が、あの龍は在御門家の式神だったのだと話したことがきっかけらしかった。
忠保はすぐに噂を調べて、噂の出処は突き止められたのだが、もはやもみ消すことはできないほどになってしまっていた。
日頃から恨みを買っている事は分かっていたのだが、こういった形で返ってくるとは思ってもいなかった。
その後、忠保は、朝廷側から除籍と在御門家断絶を命じられた。
忠保は、自邸でぼんやりと夜空を見上げていた。
うっすらとした雲が月を朧げにしている。
邸には自分ひとり。
柱に寄りかかって酒をチビリと舐めた。
いろいろな思い出が浮かんでは消えていく。
カタリと音がして振り向くと、旅装束の雪明とあやめが来ていた。
「忠保様…」
雪明が声かける。
「雪明にまで迷惑をかけることになって、すまなかったね」
雪明も在御門家と一緒に罰を受けることになってしまい、讃岐国に左遷されることになってしまった。
「いえ、これも龍様から言われた因縁ですから」
雪明は、今は亡き父を反魂した過去を思い出していた。
『忠國様と光忠様、昴君と翼君は縁者を頼り、遠国に旅立ちましたよ』
見届けてきましたと、あやめが言った。
それを聞いて忠保も安堵する。
『ただ…』
あやめが言い淀むと、
「みぼし姫だろ?」
と、忠保は苦笑した。
皆が旅立つその時、箕姫はどうしても行かないと言って聞かなかったのだ。
忠保は最後の最後まで説得を試みて、無理に旅立たせたのだが、結局あやめと共に戻ってきてしまったらしい。
「雪明、箕姫を頼むよ」
雪明は御年41歳、箕姫は13歳。
熱を上げているのは箕姫の方なので、雪明がどう返答するのか気になって聞いてみる。
雪明は目を細めて、
「どなたか良い殿方に出会えなければ…」
と言ってフッと微笑んだ。
静かな夜だった。
いつの間にか雲が厚くなり、月を隠してしまっていた。
『こんな暗い夜空の方が自分の最後には丁度いいな』
忠保は、立ち上がる。
「これから邸に火を放つ、できる限り秘密裏に守りたかったが、痕跡一つ残らず消さなければならん」
雪明はキリリと顔を引き締める。
「箕姫の事はお任せください」
「私の自慢の娘だよ、頼むよ」
そう言って忠保は、あやめの方に向き直る。
「あやめは?」
あやめは雪明と目くばせする。
『私は最後まで忠保様と共におりますよ』
「助かるよ」
「それでは忠保様」
雪明は箕姫の部屋に向かって行った。
雪明と箕姫、闇夜に紛れて二人が邸をそっと抜け出したのを確認してから、忠保は、松明に火をつけた。
邸の結界によって、他に火が移ることは無い、あやめの妖狐の力もあるので、誰にも気が付かれずに、この邸だけ完全に燃やす事ができるだろう。
忠保はあやめを従えて、それぞれの部屋の几帳や調度、御簾に火をかけていった。
それから、穏やかな生活がしばらく続いていた。
そんな穏やかさに不穏な陰りが差し始めたのは、数か月前のことであった。
数年前の都の火災事件が在御門家の仕業だと囁かれ始めたのだ。
あの時に龍を見た法師陰陽師達が、あの龍は在御門家の式神だったのだと話したことがきっかけらしかった。
忠保はすぐに噂を調べて、噂の出処は突き止められたのだが、もはやもみ消すことはできないほどになってしまっていた。
日頃から恨みを買っている事は分かっていたのだが、こういった形で返ってくるとは思ってもいなかった。
その後、忠保は、朝廷側から除籍と在御門家断絶を命じられた。
忠保は、自邸でぼんやりと夜空を見上げていた。
うっすらとした雲が月を朧げにしている。
邸には自分ひとり。
柱に寄りかかって酒をチビリと舐めた。
いろいろな思い出が浮かんでは消えていく。
カタリと音がして振り向くと、旅装束の雪明とあやめが来ていた。
「忠保様…」
雪明が声かける。
「雪明にまで迷惑をかけることになって、すまなかったね」
雪明も在御門家と一緒に罰を受けることになってしまい、讃岐国に左遷されることになってしまった。
「いえ、これも龍様から言われた因縁ですから」
雪明は、今は亡き父を反魂した過去を思い出していた。
『忠國様と光忠様、昴君と翼君は縁者を頼り、遠国に旅立ちましたよ』
見届けてきましたと、あやめが言った。
それを聞いて忠保も安堵する。
『ただ…』
あやめが言い淀むと、
「みぼし姫だろ?」
と、忠保は苦笑した。
皆が旅立つその時、箕姫はどうしても行かないと言って聞かなかったのだ。
忠保は最後の最後まで説得を試みて、無理に旅立たせたのだが、結局あやめと共に戻ってきてしまったらしい。
「雪明、箕姫を頼むよ」
雪明は御年41歳、箕姫は13歳。
熱を上げているのは箕姫の方なので、雪明がどう返答するのか気になって聞いてみる。
雪明は目を細めて、
「どなたか良い殿方に出会えなければ…」
と言ってフッと微笑んだ。
静かな夜だった。
いつの間にか雲が厚くなり、月を隠してしまっていた。
『こんな暗い夜空の方が自分の最後には丁度いいな』
忠保は、立ち上がる。
「これから邸に火を放つ、できる限り秘密裏に守りたかったが、痕跡一つ残らず消さなければならん」
雪明はキリリと顔を引き締める。
「箕姫の事はお任せください」
「私の自慢の娘だよ、頼むよ」
そう言って忠保は、あやめの方に向き直る。
「あやめは?」
あやめは雪明と目くばせする。
『私は最後まで忠保様と共におりますよ』
「助かるよ」
「それでは忠保様」
雪明は箕姫の部屋に向かって行った。
雪明と箕姫、闇夜に紛れて二人が邸をそっと抜け出したのを確認してから、忠保は、松明に火をつけた。
邸の結界によって、他に火が移ることは無い、あやめの妖狐の力もあるので、誰にも気が付かれずに、この邸だけ完全に燃やす事ができるだろう。
忠保はあやめを従えて、それぞれの部屋の几帳や調度、御簾に火をかけていった。
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