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✜09 紅髪、灼眼の獣人
しおりを挟む「その前にひとつ聞きたい」
「なんですかな?」
「首輪はアナタの魔法なのかどうか」
「いいえ、私の魔法ではありませんよ」
首輪はこの島から遠く離れた魔法王国エブラハイムという国で作られた魔法具で設定、施錠、解錠の3種類の暗証文で操作できると答えた。
「シュリの首輪の施錠と解錠の『暗証文』を買いたい」
「ほう……それはどういう趣旨で?」
特殊な能力のことは伏せたうえで説明する。彼女は今は奴隷のままだが、いつか奴隷から解放する場合は自分の手で解放したいからと話した。
「普通に解放するより10倍は値が張りますが」
「いくら?」
「金貨1,000枚が妥当でしょうな」
昨日、銀貨3枚で宿にふたり泊まれた。金貨1,000枚が法外な金額であることは目に見えているが、引き下がれない。
「金はそこまで持ってない、代わりにこれはどう?」
「なんですかな、これは?」
「洗顔料、シャンプー、リンス、ボディソープ」
使い方を説明する。貴族というものはこの世界にもいるのはシュリから聞いていた。これをその階層のご婦人方に売れば、莫大な売り上げが約束されるだろうと話した。
「1組で100金貨、もし交渉成立なら明日までに10組を用意する」
「製造法まで教えていただけないと無理ですな」
「それは本当に知らない。入手法も明かせない。でも儲かると思うけど?」
「……ははッこれは一本取られましたな、いいでしょう。ただし、明日まで効果を試してもよいですかな?」
「ああ、かまわない」
旅行用のこれらセットは本来、数千円もしないが、異世界では魔法の品に見えるだろう。頭髪環境を劇的に改善して体臭も消せる。貴族だったら間違いなく食いつく。
次の日、奴隷市場の一角にある奴隷商人ブンゲルの屋敷を訪れた。
「実に素晴らしい品でした。もっと頂けると嬉しいですな」
「そういえば昨日、奴隷の話をしてたと思うけど?」
「ええ、あと10組準備してもらったら、同じ条件で奴隷をひとり譲りましょう」
「ここに20組ある」
「それはそれは大変結構」
好きな奴隷を選んでいいと言われた。シュリを1階に待たせて、ブンゲルとふたり地下室へ降りて奴隷を見て回る。
奴隷に人間はおらず、シュリのような獣人、いわゆる亜人が鉄格子の向こうでこちらへ手を出し、せがんでくる。
多くは、女性で戦闘要員としての側面と夜の世話をするという裏の面があるらしい。奴隷商人のブンゲルが直接くっついて歩いている自分が「上客」に見えているらしく、鉄格子のそばに近づこうものなら捕まってしまう勢いで手を伸ばしている。
あれ……このひと。
「このひとでお願い」
「その者はあまりお勧めではありませんが、本当によろしいので?」
他の奴隷と違って、こちらを射抜くような視線と強烈な殺気を放っている。ブンゲルに聞くと前に買った主人をその日の内に殺してしまい、処刑になりそうになったところをブンゲルが治安維持のために雇われている冒険者へ金を積んで、連れ戻したそうだ。
紅の髪に灼眼、髪はボサボサに伸びていて床へ広がっている。片方は髪で覆われていて、片目だけでコチラの動きを観察している。
「なぜアナタは襲われない?」
「それは秘密ですな」
これは予想だが、奴隷商を襲えないよう首輪で拘束しているのであろう。
鉄格子の鍵を開けると、さっと立ち上がり、片足に嵌められている鉄球付きの枷をブンゲルに外してもらう。
廊下は先ほどと打って変わってとても静かで、先ほどあれほど熱狂的に手を出して、自分を選んでくれとアピールしていたのに鉄格子のなかにいる獣人の女性たちはコチラを見ようともしていない。
「アラタだ、よろしく!」
「……」
「鉄格子のなかに戻りたいのですかな?」
「……ヤコ」
自己紹介したが、無視された。すぐにブンゲルからひと言受けて名前だけ名乗った。
「シュリ、ヤコさんだ」
「初めましてシュリと申します」
「……ああ、よろしく」
シュリを見て、終始不機嫌そうだったヤコの表情が揺らいだ気がした。でも一瞬だったので、元の一貫して不愛想な顔つきになったので気のせいかもしれない。
「どうやらお前はその辺のクズな連中とは違うようだな?」
「と言うと?」
「この子を見てわかった。奴隷を大切にしているってな」
3人で、奴隷商の店からどこにも寄らずに真っすぐ街を出て、森のなかへ入った。どうやら怪しい連中に後を尾けられているとヤコから教えてもらった……。
ブンゲルの手の者か。だが、あの男は奴隷商ではあるが、仮にも商人を名乗っている。信用を落とすような真似はけっしてしないはずだが。
ヤコへ武器の扱いはなにが得意か聞くと剣なら何でもいいと返事があったので、ブロードソードを作って渡した。会話を交わしながら、そろそろ襲ってきそうなので、作戦を立てる。
「5人だな」
「全員、武装してる?」
「ああ、弓使いがふたり混じっている」
「じゃ行くよ!」
ブロードソードの質感や握り具合を確認しながら、ヤコがそう答え、合図と同時に3人とも素早く近くの木の裏へ身を隠した。
「前の3人を引き付けてくれたら後ろのふたりはアタイが倒す」
「わかった。シュリはクロスボウで援護、状況に応じて魔法を使って」
「はい、わかりました」
こちらを見失った追跡者があわてて近づいてきたので、行動に移した。木の裏から飛び出して、剣や斧を持った冒険者風の男の注意を引く。その間にヤコが木々の幹を蹴って、枝に飛び乗り、枝から枝へ飛び移り、奥の方へと移動していった。
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