7 / 47
第7話
しおりを挟む
「さてと……」
田中一郎は、傲萬製薬の不正ダンジョンの事件で捜査線上に浮上した飯塚 楼について、調べていた。こちらが盗聴や追跡ができるように向こうも同じことをしてくると想定して動いている。
尾行外しと機器チェックを複数行ってようやく清掃会社ラビキンへと戻った。飯塚は近づいてきた田中のチェックを外したのか、これといった問題は生じなかった。清掃会社の一室で飯塚の盗聴を続けていた田中だが、ひとつ問題が発生した。事件の方ではなく家庭の方において……。
娘が1時間後に友人4人を連れて家に遊びにくる。
それもその内のふたりが男。
どうやらダンジョンを一緒にプレイしようという話のようだが、妻は今日、午後から出勤すると聞いていた。家には誰もいない。
ダンジョンに潜るにしても部屋で遊ぶにしても、心配でたまらない。
田中は速やかに自宅へ戻り、娘の友人たちをもてなす準備を始めた。
ほどなくして娘と友人一行が家に到着した。
親友の麗音は小学校に入る前からご近所なのでよく知っている。問題は他の3人。この2日で3人の情報を調査班に依頼を出しておいたので、ある程度は把握できている。
まず来馬 鬨人。彼は学年の中でも一番運動ができて、小学校の頃から女子にかなりモテていたとのこと。家族含めて特段、問題はない。
次にもう一人の男子小路 雷汰。彼は小学校の頃から鬨人とつるんでいて、友人が目立つのでなんとなく彼も学年序列の上位にいる。だが、彼自身は勉強ができるわけでも運動神経がいいわけでもない、ごく普通の中学1年生。
そして最後にもっとも丹念に調査をお願いした少女、仁科華。
前回のダンジョン配信の公開設定は故意によるものだと一郎はみている。
彼女の家庭環境だけ少し特殊で、この住んでいる街でずいぶんと名の知れた名士の家系。両親はこの街の大地主で、叔父は警視庁幹部、叔母は都議を二期続けていて、彼女自身、人生に何不自由なく生まれ育ったようだ。
そんな彼女には、小学校からある黒い噂がつき纏っている。
仁科華の小学校では、不登校や転校した子どもの割合が都内の他の小学校と比較して10倍近くも高く、いじめが原因だが、仁科華自身の名は一切出てこない。だが、彼女が配属された小学1年から6年までのクラスだけが異常に転校や不登校が高い傾向にあることからほぼ黒だと見て間違いない。
亜理紗は運動神経も人並み外れていて、勉強もできる。まわりへの配慮も大人の視点から見てもなんら見劣りする点は見受けられない。
一方で、仁科 華は運動神経もそれなりで成績も上位の方だが、亜理紗の方が一段上。もしかすると嫉妬が原因で亜理紗を狙いに定めたのかもしれない。
限りなく黒に近いが、完全に黒とは断定できない。
そこで田中一郎は、ダンジョンに潜る場合は、仁科華の本性を突き止めるべく、準備に余念がなかった。
5人とも緑茶を飲んだ。
緑茶の中には、ダンジョンで5人の居場所がわかる視認できないほどの微小なサイズのナノマシンを混入させておいた。
位置情報がわかる他、こちらがいろいろと干渉しやすいようにさせてもらった。
5人がダンジョンへ潜ると一郎は、バックドアでダンジョンの中へと入る。鉢合わせにならないように少し離れたところから彼女らの状況を確認する。
「亜理紗ちゃん、ステータス低いね」
「うん、エリア1でただ遊んでいるだけだから……」
仁科華は、さっそく亜理紗の弱点に気が付いた。
エリア1の白銀兎をライブ配信を各々したところで、ある提案をし出した。
「どんどん進んじゃおうよ!」
「でも亜理紗と麗音のステータスが低いからな」
麗音もダンジョンは持っているものの、あまりこれまで攻略はしてこなかったようだ。ダンジョンの序盤中の序盤、エリア1でどちらかと言うと風景を楽しんだり、異世界の風景を楽しむために潜っていたみたい。
鬨人がふたりを気遣って意見するものの華はここで視聴者を巧みに味方につけた。
「えーせっかく、貴重な白銀兎がいるのに、他にもレアな魔物がいるんじゃないかなー?」
名無し
:見たくなくもなくはない
名無し
:アラやだ! 素直じゃないのね
名無し
:行って欲しいに1票w
「これは行かないと視聴者に失礼じゃね?」
雷汰が話に加わると視聴者も悪乗りしだした。
名無し
:ライダ少年のパリピ感好きw
名無し
:こんなん俺だったら、どこまでも潜るわ
名無し
:ごちゃごちゃ言わんと早く潜るwww
断りづらい雰囲気。
亜理紗は麗音と視線を合わせて止むを得ないと腹をくくった。
ダンジョンのエリアというのは、いくつかパターンがあり、亜理紗が父一郎に買ってもらった個人ダンジョンは六角形タイプだった。六角形タイプと言うのはエリア1を中心に六角形で仕切られていて、外縁に向かうほどエリアが増えていく。
エリアの大きさは決まっており、エリア1が1ブロックとすると、エリア2は6ブロック、エリア3は12ブロックとどんどんエリアが広くなっていく。
またエリアごとにエリアボスがいる。
エリア2へ行くためにどうしても倒さないと次のエリアに進めないわけではないのだが……。今回は、たまたま遭遇しただけに過ぎない。森の中からエリアボスをこっそり確認する。
エリアボスの頭上には赤い剣のマークがあるので、間違いない。
人間に姿は近いが、化け物の類。
人間の子どもくらいの身長しかなく、禿頭で小太り。
目は黒目の部分がとても小さく不気味としか言いようがない。
口元は吊り上がっており、一見笑っているようにも見える。だが、唇の隙間から時折、蛇のような細長くて先が割れた舌が見え隠れしている。
逃げるという選択肢もあるのだが……。
「当たりじゃん! もーらいっ」
雷汰の嬉しそうな声。
「おい、やめろって」
鬨人が呼びかけたが、遅かった。
周りがドーム状の結界に包まれ、脱出が不可能となる。
ドーム状の結界を解除する条件はボスを倒すか、こちらが全滅するかのどちらかのみ……。
田中一郎は、傲萬製薬の不正ダンジョンの事件で捜査線上に浮上した飯塚 楼について、調べていた。こちらが盗聴や追跡ができるように向こうも同じことをしてくると想定して動いている。
尾行外しと機器チェックを複数行ってようやく清掃会社ラビキンへと戻った。飯塚は近づいてきた田中のチェックを外したのか、これといった問題は生じなかった。清掃会社の一室で飯塚の盗聴を続けていた田中だが、ひとつ問題が発生した。事件の方ではなく家庭の方において……。
娘が1時間後に友人4人を連れて家に遊びにくる。
それもその内のふたりが男。
どうやらダンジョンを一緒にプレイしようという話のようだが、妻は今日、午後から出勤すると聞いていた。家には誰もいない。
ダンジョンに潜るにしても部屋で遊ぶにしても、心配でたまらない。
田中は速やかに自宅へ戻り、娘の友人たちをもてなす準備を始めた。
ほどなくして娘と友人一行が家に到着した。
親友の麗音は小学校に入る前からご近所なのでよく知っている。問題は他の3人。この2日で3人の情報を調査班に依頼を出しておいたので、ある程度は把握できている。
まず来馬 鬨人。彼は学年の中でも一番運動ができて、小学校の頃から女子にかなりモテていたとのこと。家族含めて特段、問題はない。
次にもう一人の男子小路 雷汰。彼は小学校の頃から鬨人とつるんでいて、友人が目立つのでなんとなく彼も学年序列の上位にいる。だが、彼自身は勉強ができるわけでも運動神経がいいわけでもない、ごく普通の中学1年生。
そして最後にもっとも丹念に調査をお願いした少女、仁科華。
前回のダンジョン配信の公開設定は故意によるものだと一郎はみている。
彼女の家庭環境だけ少し特殊で、この住んでいる街でずいぶんと名の知れた名士の家系。両親はこの街の大地主で、叔父は警視庁幹部、叔母は都議を二期続けていて、彼女自身、人生に何不自由なく生まれ育ったようだ。
そんな彼女には、小学校からある黒い噂がつき纏っている。
仁科華の小学校では、不登校や転校した子どもの割合が都内の他の小学校と比較して10倍近くも高く、いじめが原因だが、仁科華自身の名は一切出てこない。だが、彼女が配属された小学1年から6年までのクラスだけが異常に転校や不登校が高い傾向にあることからほぼ黒だと見て間違いない。
亜理紗は運動神経も人並み外れていて、勉強もできる。まわりへの配慮も大人の視点から見てもなんら見劣りする点は見受けられない。
一方で、仁科 華は運動神経もそれなりで成績も上位の方だが、亜理紗の方が一段上。もしかすると嫉妬が原因で亜理紗を狙いに定めたのかもしれない。
限りなく黒に近いが、完全に黒とは断定できない。
そこで田中一郎は、ダンジョンに潜る場合は、仁科華の本性を突き止めるべく、準備に余念がなかった。
5人とも緑茶を飲んだ。
緑茶の中には、ダンジョンで5人の居場所がわかる視認できないほどの微小なサイズのナノマシンを混入させておいた。
位置情報がわかる他、こちらがいろいろと干渉しやすいようにさせてもらった。
5人がダンジョンへ潜ると一郎は、バックドアでダンジョンの中へと入る。鉢合わせにならないように少し離れたところから彼女らの状況を確認する。
「亜理紗ちゃん、ステータス低いね」
「うん、エリア1でただ遊んでいるだけだから……」
仁科華は、さっそく亜理紗の弱点に気が付いた。
エリア1の白銀兎をライブ配信を各々したところで、ある提案をし出した。
「どんどん進んじゃおうよ!」
「でも亜理紗と麗音のステータスが低いからな」
麗音もダンジョンは持っているものの、あまりこれまで攻略はしてこなかったようだ。ダンジョンの序盤中の序盤、エリア1でどちらかと言うと風景を楽しんだり、異世界の風景を楽しむために潜っていたみたい。
鬨人がふたりを気遣って意見するものの華はここで視聴者を巧みに味方につけた。
「えーせっかく、貴重な白銀兎がいるのに、他にもレアな魔物がいるんじゃないかなー?」
名無し
:見たくなくもなくはない
名無し
:アラやだ! 素直じゃないのね
名無し
:行って欲しいに1票w
「これは行かないと視聴者に失礼じゃね?」
雷汰が話に加わると視聴者も悪乗りしだした。
名無し
:ライダ少年のパリピ感好きw
名無し
:こんなん俺だったら、どこまでも潜るわ
名無し
:ごちゃごちゃ言わんと早く潜るwww
断りづらい雰囲気。
亜理紗は麗音と視線を合わせて止むを得ないと腹をくくった。
ダンジョンのエリアというのは、いくつかパターンがあり、亜理紗が父一郎に買ってもらった個人ダンジョンは六角形タイプだった。六角形タイプと言うのはエリア1を中心に六角形で仕切られていて、外縁に向かうほどエリアが増えていく。
エリアの大きさは決まっており、エリア1が1ブロックとすると、エリア2は6ブロック、エリア3は12ブロックとどんどんエリアが広くなっていく。
またエリアごとにエリアボスがいる。
エリア2へ行くためにどうしても倒さないと次のエリアに進めないわけではないのだが……。今回は、たまたま遭遇しただけに過ぎない。森の中からエリアボスをこっそり確認する。
エリアボスの頭上には赤い剣のマークがあるので、間違いない。
人間に姿は近いが、化け物の類。
人間の子どもくらいの身長しかなく、禿頭で小太り。
目は黒目の部分がとても小さく不気味としか言いようがない。
口元は吊り上がっており、一見笑っているようにも見える。だが、唇の隙間から時折、蛇のような細長くて先が割れた舌が見え隠れしている。
逃げるという選択肢もあるのだが……。
「当たりじゃん! もーらいっ」
雷汰の嬉しそうな声。
「おい、やめろって」
鬨人が呼びかけたが、遅かった。
周りがドーム状の結界に包まれ、脱出が不可能となる。
ドーム状の結界を解除する条件はボスを倒すか、こちらが全滅するかのどちらかのみ……。
25
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年中盤まで執筆
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる