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第42話
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「では、任せたよ」
「……はい」
無表情の男が誰かに指示を受けている。
亜理紗は口を塞がれ手足を縛れたまま、棺桶のような箱の中に入れられたまま話を聞いていた。
「亜理紗!」
鬨人が箱の中を覗き込んだ。
口枷を外し、手足の縄をほどいてくれた。だが、救急車に乗り込んできた男がやってきて鬨人と亜理紗の首に新たに首輪のようなものをつけられた。
「子ども達を返してもらいます」
「それはよく相談しないといけないね。【最果ての鬼】君」
姿を変えているが、あれは父親の一郎。
亜理紗は体を起こし、棺桶状のドローンから這い出たが、まわりに体格のいい外国人がたくさんいる。それに対して父はひとり向かい合っている。
「ジャマル君、はやく行きたまえ」
「はい……」
リーダーと見られる50代の男にジャマルと呼ばれた無表情の男が、亜理紗と鬨人の首輪につないだロープを手繰り寄せた。
「亜理紗!?」
「お父さん」
たまらず、父が亜理紗の名を呼んだ。亜理紗が返事をしたことにより父だとわかっていることを知ると、すこしだけ動きを止めたが、すぐに笑顔をみせた。
「かならず助け出す……約束だ」
「うん!」
父の笑顔を見て亜理紗は、自分の身が危険にさらされているのにもかかわらず何故か安堵した。
お父さんはこれまで一度も亜理紗との約束を破ったことがないから。
白人の男がパチンと指を鳴らすと、周りにいた外国人の男たちが一斉に自分の首に注射器を刺した。異形の姿に変わっていく男たちを尻目に首につけられた縄を引っ張られ、亜理紗と鬨人はとんでもなく大きなダンジョンゲートへと入っていった。
「すこし話をしようではないか?」
「ええ、是非」
亜理紗と同級生、来馬鬨人が目の前でダンジョンの中へ連れていかれるのをみて、一郎は内心焦っていた。
2人を連れてダンジョンの中へ引っ張っていったのはジャマル・ハニア。顔がずいぶんと腫れていたし、肌の色が日本人に近かったのでわからなかった。30分くらい前に雑居ビルで遭遇した異能者と同様な変身を遂げた男たちに守られている男、パーヴェル・ニコラエヴィチ・ザイツェフが、ジャマルの名を口にしなければ気づかなかったはずだ。
20人くらい異能者がいるので、一郎ひとりでは太刀打ちできない。そのため応援が駆け付けるまで時間を稼ぐ必要があった。
「『ダンジョン』というのは何だと思うかね?」
ダンジョン……12年前に突然、世界各地に出現した謎の世界。今では法律が整備され、安全性が確認されているが、発生当時はそれは大混乱をきたしたものだ。
「異世界? 神の恩恵? ゲームの世界? ……いや、そうじゃない」
ダンジョンとは、人類の主である「月の民」の住まう世界。
人類の進化が一定のレベルに達したため、あちらの世界への扉が現れはじめたそうだ。
「これまで現れたダンジョンコアはすべてこの【真時代】の残滓に過ぎない」
月の民、あちらの世界、真時代……まったく聞き覚えのない単語を並べたてるパーヴェルは、一郎の客観的な視点で見ると「正しく狂っている」ように映っている。目が血走り徐々に興奮する男ははたして人間という種にどんな感情を抱いているのだろうか?
「その真時代というのは、なんですか?」
「時代と呼んでいるが、時間でもあり、場所でもある高次元の世界」
その世界には死という概念はない。その世界に行ってしまえば子孫を残していく必要もなくなる。地球という空間の何億、何兆倍という大きさを備え、その莫大な資源により、移住できれば衣食住に困ることはなくなる。
「だが、ひとつ問題があってね」
真時代へ渡るには膨大なエネルギーが必要となる。先ほど亜理紗と鬨人、ジャマルが渡ったのは、この人工島の電力をごっそり使って、ようやく3人分の渡航エネルギーと釣り合ったそうだ。
「でも、解決する手はすでに打ったのだよ」
(こちら三七鹿、〇一烏へ緊急報告です)
分析班佐々木からの急ぎの報告、それは……。
(そちらに核ミサイルが発射され、あと30秒で到達します)
「──ッ!?」
木更津人工島、海ランタンへの核攻撃。
発射地点は神奈川県米軍横須賀基地。
どういう方法を取ったのか知らないが、それが事実ならこの場にいる全員が消えてしまう。隣国などによるデブレスト、ロフテッド両軌道で飛来するミサイルを迎撃可能な超電磁砲……通称レールガンや極超音速迎撃用新型ミサイル「熯速日」はすべて日本列島西側や南西諸島へ配備しているため、迎撃もままならない。
「安心したまえ、ただの鍵だよ」
赤い光の尾を引いた物体が雲の切れ間を縫って見えてきた。
それはけっして使ってはいけない赤い光。
愚かな人類が持て余している終末の炎が、まっすぐ高さ120メートル、全長80メートルに広がった巨大なダンジョンゲートへ吞み込まれていった。
核エネルギーは、月の民が人類に与えた知恵であり鍵。
この世界と真時代を接続するために用いるのが本来の正しい使い方。
「さて、これで世界は繋がった」
両手を広げ、その目には狂気の炎を宿したパーヴェルの背後に日本国の実質上の首都、東京が見えている。そして、無数の巨大な魔法円のようなものが上空に浮かび上がった。
魔法円のような無数のゲートは、リアルタイムに世界中で起きているとパーヴェルは唾を飛ばしながら話した。
「これから始まるのは全人類強制参加の【真時代】争奪戦」
「……はい」
無表情の男が誰かに指示を受けている。
亜理紗は口を塞がれ手足を縛れたまま、棺桶のような箱の中に入れられたまま話を聞いていた。
「亜理紗!」
鬨人が箱の中を覗き込んだ。
口枷を外し、手足の縄をほどいてくれた。だが、救急車に乗り込んできた男がやってきて鬨人と亜理紗の首に新たに首輪のようなものをつけられた。
「子ども達を返してもらいます」
「それはよく相談しないといけないね。【最果ての鬼】君」
姿を変えているが、あれは父親の一郎。
亜理紗は体を起こし、棺桶状のドローンから這い出たが、まわりに体格のいい外国人がたくさんいる。それに対して父はひとり向かい合っている。
「ジャマル君、はやく行きたまえ」
「はい……」
リーダーと見られる50代の男にジャマルと呼ばれた無表情の男が、亜理紗と鬨人の首輪につないだロープを手繰り寄せた。
「亜理紗!?」
「お父さん」
たまらず、父が亜理紗の名を呼んだ。亜理紗が返事をしたことにより父だとわかっていることを知ると、すこしだけ動きを止めたが、すぐに笑顔をみせた。
「かならず助け出す……約束だ」
「うん!」
父の笑顔を見て亜理紗は、自分の身が危険にさらされているのにもかかわらず何故か安堵した。
お父さんはこれまで一度も亜理紗との約束を破ったことがないから。
白人の男がパチンと指を鳴らすと、周りにいた外国人の男たちが一斉に自分の首に注射器を刺した。異形の姿に変わっていく男たちを尻目に首につけられた縄を引っ張られ、亜理紗と鬨人はとんでもなく大きなダンジョンゲートへと入っていった。
「すこし話をしようではないか?」
「ええ、是非」
亜理紗と同級生、来馬鬨人が目の前でダンジョンの中へ連れていかれるのをみて、一郎は内心焦っていた。
2人を連れてダンジョンの中へ引っ張っていったのはジャマル・ハニア。顔がずいぶんと腫れていたし、肌の色が日本人に近かったのでわからなかった。30分くらい前に雑居ビルで遭遇した異能者と同様な変身を遂げた男たちに守られている男、パーヴェル・ニコラエヴィチ・ザイツェフが、ジャマルの名を口にしなければ気づかなかったはずだ。
20人くらい異能者がいるので、一郎ひとりでは太刀打ちできない。そのため応援が駆け付けるまで時間を稼ぐ必要があった。
「『ダンジョン』というのは何だと思うかね?」
ダンジョン……12年前に突然、世界各地に出現した謎の世界。今では法律が整備され、安全性が確認されているが、発生当時はそれは大混乱をきたしたものだ。
「異世界? 神の恩恵? ゲームの世界? ……いや、そうじゃない」
ダンジョンとは、人類の主である「月の民」の住まう世界。
人類の進化が一定のレベルに達したため、あちらの世界への扉が現れはじめたそうだ。
「これまで現れたダンジョンコアはすべてこの【真時代】の残滓に過ぎない」
月の民、あちらの世界、真時代……まったく聞き覚えのない単語を並べたてるパーヴェルは、一郎の客観的な視点で見ると「正しく狂っている」ように映っている。目が血走り徐々に興奮する男ははたして人間という種にどんな感情を抱いているのだろうか?
「その真時代というのは、なんですか?」
「時代と呼んでいるが、時間でもあり、場所でもある高次元の世界」
その世界には死という概念はない。その世界に行ってしまえば子孫を残していく必要もなくなる。地球という空間の何億、何兆倍という大きさを備え、その莫大な資源により、移住できれば衣食住に困ることはなくなる。
「だが、ひとつ問題があってね」
真時代へ渡るには膨大なエネルギーが必要となる。先ほど亜理紗と鬨人、ジャマルが渡ったのは、この人工島の電力をごっそり使って、ようやく3人分の渡航エネルギーと釣り合ったそうだ。
「でも、解決する手はすでに打ったのだよ」
(こちら三七鹿、〇一烏へ緊急報告です)
分析班佐々木からの急ぎの報告、それは……。
(そちらに核ミサイルが発射され、あと30秒で到達します)
「──ッ!?」
木更津人工島、海ランタンへの核攻撃。
発射地点は神奈川県米軍横須賀基地。
どういう方法を取ったのか知らないが、それが事実ならこの場にいる全員が消えてしまう。隣国などによるデブレスト、ロフテッド両軌道で飛来するミサイルを迎撃可能な超電磁砲……通称レールガンや極超音速迎撃用新型ミサイル「熯速日」はすべて日本列島西側や南西諸島へ配備しているため、迎撃もままならない。
「安心したまえ、ただの鍵だよ」
赤い光の尾を引いた物体が雲の切れ間を縫って見えてきた。
それはけっして使ってはいけない赤い光。
愚かな人類が持て余している終末の炎が、まっすぐ高さ120メートル、全長80メートルに広がった巨大なダンジョンゲートへ吞み込まれていった。
核エネルギーは、月の民が人類に与えた知恵であり鍵。
この世界と真時代を接続するために用いるのが本来の正しい使い方。
「さて、これで世界は繋がった」
両手を広げ、その目には狂気の炎を宿したパーヴェルの背後に日本国の実質上の首都、東京が見えている。そして、無数の巨大な魔法円のようなものが上空に浮かび上がった。
魔法円のような無数のゲートは、リアルタイムに世界中で起きているとパーヴェルは唾を飛ばしながら話した。
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