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# 33 爺と婆と爺
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天狗を倒した豆丸達は、鳥居をくぐるとホテルの地下から山の上に移動していた。
まだ日中なので明るい。
景色は遠くの方がぼやけていて、色の違いしか識別できない。そのため、自分たちの現在位置を知る術が絶たれていた。
「八雲の娘、我が斎宮に何用じゃ?」
目の前にそびえる巨大な門。
門のやや上部に縦長の小さな扉がいくつかあって、その中から3つ開いた。ミイラ……というよりテレビで見たことのある即身仏に似ている。死者の住人であるはずのミイラがカグヤに向かって質問してきた。
「この者が斎宮ミカドと懇意にしており、一向に約束した場所へこないのでお迎えに上がりました」
いつもと全然違う口調。
カグヤにこんな一面があるとは意外だ。
「それは遠路はるばるご苦労じゃった。じゃが――」
ミカドは、二度と外の世界に出ることはない、とだけ告げて話を終わらせようとしてきた。
「ちょっと、待ってください。ミカド君は今どこに?」
「蒼生の者よ、諦めて帰るがよい」
「それは無理です。彼は……ミカド君が私に言ったんです」
家の事情があるから、今は行けないけど、それが片付いたら豆丸の住んでいる場所に行く、と……。
「だから私はあきらめません」
「ほう……、我が斎宮家に弓を引く気と?」
「ええ、斎宮だか神宮球場だか知りませんが、『家』の事情とやらで、一人の少年の人生を変えようだなんて、私には一ミリたりとも納得するつもりはありません」
豆丸は拳を強く握りしめた。
社会人として働いていた頃の自分なら、こんなふうに誰かのために声を荒げることなどなかった。いつも空気を読み、波風を立てず、譲ることが大人の美徳だと信じていた。だが、今回ばかりは話が違う。ミカドは心から豆丸のところに来たがっていたと信じている。だからこそ、あの毒舌を吐くのに年相応の可愛げのある斎宮ミカドという少年の未来が、誰かの都合で閉ざされることなど、絶対に許せなかった
「いいだろう。では八雲の娘共々、我らの術で……」
「それはならん」
「エン様、それでは……」
「よい、黙っておれ。──そこの者」
3体のミイラは順に喋っているが、声を聞く限り、左から男性、女性、男性のようだ。その中でエン様と呼ばれた女性のミイラが、他の者の言葉を遮り、発言を続けた。
「ミカドは〝神憑〟の試練に敗れたのじゃ」
「試練?」
「左様、我が斎宮には、このような云い伝えがある」
『太平の世、久しく続けり。
されど時至りて、天地の理は乱れ、
幽冥のものども、地の底より溢れ出づ。
神代の昔、天つ神らの御業によりて授けられし神威の力、
いまは封ぜられ、深き封印の裡に眠れり。
世の理、崩れし時、
才知と魂、最も秀でし者、
神の封を解き、再び天の力を地にもたらすべし』
「世の理が崩れし時」って、まさしく今がそうだと思う。
ということは、才知と魂が最も秀でし者、つまりミカドがその封印っぽいものを解く役割を与えられていたってことなんだ。
「本来はミカドではなく、ハガネがそれを担うべきじゃった」
──っ⁉
巫霊、斎宮ハガネが?
「じゃが、何者かにハガネは殺され、ミカドにその大任を任せざる得なくなった」
二重に響く不思議な声。
エンと呼ばれる女性のミイラは、ミカドが〝神憑〟という試練を乗り切ることができず、斎宮家の敷地奥にある池の底に眠りについたと話した。
「それでは、ミカド君は死んでいないんですね?」
「永遠に覚めぬ眠りよ、じゃが一つだけ手がないわけではない」
「エン様⁉」
「──よい、それはの」
また、他の爺が話を遮ろうとしたが、エンは話しを続け、あることを教えてくれた。
瑞果と呼ばれる果物が、〝倭の地〟……いわゆる邪馬台国跡地にあるらしい。
その果物を食べればあるいは目覚めるのではと、エンが教えてくれた。
ふむふむ、邪馬台国の跡地ね。
──って、どこにあるの?
奈良とか九州とか言われているけど、本当の場所は誰も知らないんじゃ?
「場所は、そこの八雲の家の娘に聞くがよい」
その言葉を最後に、巨大な門の上部にあった三つの小扉が、音もなく閉じていった。同時に、周囲の風景が水彩画のように滲みはじめ、気づけば豆丸たちは、あの廃ホテルの地下室に立っていた。
しんと静まり返った空間。
さっきまでの出来事が現実だったのか、幻だったのか、なんだか判然としない。だが、握りしめていた拳を開いてみると、手の平がぐっしょり汗で湿っていた。
「……八雲さん、さっきの瑞果の場所は?」
問いかけると、カグヤはつまらなさそうに頷いた。
「ええ。知っているわ。けど、そこに行くには相当の覚悟がいるわよ」
その言葉に、豆丸は一瞬だけ息を呑んだ。
雨は静かに目を閉じ、豆丸が行動するのを待っていて、歩茶は豆丸と雨を交互に見つめ、不安そうに豆丸のそばから離れない。また、自宅へ置いて行かれるかもと心配しているかもしれない。それだけ、八雲カグヤの言葉はこれまでの軽い口調と打って変わって深刻でかつ重く響いた。
けれど、迷いはない。
ここにいる皆でミカド君を必ず救い出してみせる。
そして、見てもらいたい。
豆丸がモリ達と築きあげた自分達だけの楽園を……。
まだ日中なので明るい。
景色は遠くの方がぼやけていて、色の違いしか識別できない。そのため、自分たちの現在位置を知る術が絶たれていた。
「八雲の娘、我が斎宮に何用じゃ?」
目の前にそびえる巨大な門。
門のやや上部に縦長の小さな扉がいくつかあって、その中から3つ開いた。ミイラ……というよりテレビで見たことのある即身仏に似ている。死者の住人であるはずのミイラがカグヤに向かって質問してきた。
「この者が斎宮ミカドと懇意にしており、一向に約束した場所へこないのでお迎えに上がりました」
いつもと全然違う口調。
カグヤにこんな一面があるとは意外だ。
「それは遠路はるばるご苦労じゃった。じゃが――」
ミカドは、二度と外の世界に出ることはない、とだけ告げて話を終わらせようとしてきた。
「ちょっと、待ってください。ミカド君は今どこに?」
「蒼生の者よ、諦めて帰るがよい」
「それは無理です。彼は……ミカド君が私に言ったんです」
家の事情があるから、今は行けないけど、それが片付いたら豆丸の住んでいる場所に行く、と……。
「だから私はあきらめません」
「ほう……、我が斎宮家に弓を引く気と?」
「ええ、斎宮だか神宮球場だか知りませんが、『家』の事情とやらで、一人の少年の人生を変えようだなんて、私には一ミリたりとも納得するつもりはありません」
豆丸は拳を強く握りしめた。
社会人として働いていた頃の自分なら、こんなふうに誰かのために声を荒げることなどなかった。いつも空気を読み、波風を立てず、譲ることが大人の美徳だと信じていた。だが、今回ばかりは話が違う。ミカドは心から豆丸のところに来たがっていたと信じている。だからこそ、あの毒舌を吐くのに年相応の可愛げのある斎宮ミカドという少年の未来が、誰かの都合で閉ざされることなど、絶対に許せなかった
「いいだろう。では八雲の娘共々、我らの術で……」
「それはならん」
「エン様、それでは……」
「よい、黙っておれ。──そこの者」
3体のミイラは順に喋っているが、声を聞く限り、左から男性、女性、男性のようだ。その中でエン様と呼ばれた女性のミイラが、他の者の言葉を遮り、発言を続けた。
「ミカドは〝神憑〟の試練に敗れたのじゃ」
「試練?」
「左様、我が斎宮には、このような云い伝えがある」
『太平の世、久しく続けり。
されど時至りて、天地の理は乱れ、
幽冥のものども、地の底より溢れ出づ。
神代の昔、天つ神らの御業によりて授けられし神威の力、
いまは封ぜられ、深き封印の裡に眠れり。
世の理、崩れし時、
才知と魂、最も秀でし者、
神の封を解き、再び天の力を地にもたらすべし』
「世の理が崩れし時」って、まさしく今がそうだと思う。
ということは、才知と魂が最も秀でし者、つまりミカドがその封印っぽいものを解く役割を与えられていたってことなんだ。
「本来はミカドではなく、ハガネがそれを担うべきじゃった」
──っ⁉
巫霊、斎宮ハガネが?
「じゃが、何者かにハガネは殺され、ミカドにその大任を任せざる得なくなった」
二重に響く不思議な声。
エンと呼ばれる女性のミイラは、ミカドが〝神憑〟という試練を乗り切ることができず、斎宮家の敷地奥にある池の底に眠りについたと話した。
「それでは、ミカド君は死んでいないんですね?」
「永遠に覚めぬ眠りよ、じゃが一つだけ手がないわけではない」
「エン様⁉」
「──よい、それはの」
また、他の爺が話を遮ろうとしたが、エンは話しを続け、あることを教えてくれた。
瑞果と呼ばれる果物が、〝倭の地〟……いわゆる邪馬台国跡地にあるらしい。
その果物を食べればあるいは目覚めるのではと、エンが教えてくれた。
ふむふむ、邪馬台国の跡地ね。
──って、どこにあるの?
奈良とか九州とか言われているけど、本当の場所は誰も知らないんじゃ?
「場所は、そこの八雲の家の娘に聞くがよい」
その言葉を最後に、巨大な門の上部にあった三つの小扉が、音もなく閉じていった。同時に、周囲の風景が水彩画のように滲みはじめ、気づけば豆丸たちは、あの廃ホテルの地下室に立っていた。
しんと静まり返った空間。
さっきまでの出来事が現実だったのか、幻だったのか、なんだか判然としない。だが、握りしめていた拳を開いてみると、手の平がぐっしょり汗で湿っていた。
「……八雲さん、さっきの瑞果の場所は?」
問いかけると、カグヤはつまらなさそうに頷いた。
「ええ。知っているわ。けど、そこに行くには相当の覚悟がいるわよ」
その言葉に、豆丸は一瞬だけ息を呑んだ。
雨は静かに目を閉じ、豆丸が行動するのを待っていて、歩茶は豆丸と雨を交互に見つめ、不安そうに豆丸のそばから離れない。また、自宅へ置いて行かれるかもと心配しているかもしれない。それだけ、八雲カグヤの言葉はこれまでの軽い口調と打って変わって深刻でかつ重く響いた。
けれど、迷いはない。
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