異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天

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第四章 王都

第三十四話 スラ君

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 「というわけで、今日の鍛錬はこいつとの戦闘だ」

 杖と水晶を持ったアルが言った。

 このまま鍛錬していても、基礎能力は身についても、実践で使えない。だから、今のうちから魔獣との戦闘を経験した方がいい。ということだろう。

 「どのくらいの魔獣《モンスター》?」
 「スラ君」

 アルの即答に耳を疑う。

 スラ君って、センスの欠片すら見えない名前とか流石にないだろう。一応、訊ねてみる。

 「スラ君?」
 「そうスラ君。深淵之軟体生物《アビサル・スライム》を捕獲《テイム》して、育てた」

 うん?

 今度は違う意味で耳を疑う。

 「深淵之軟体生物《アビサル・スライム》って言った?」
 「深淵之軟体生物《アビサル・スライム》だよ。獄界にいる軟体生物《スライム》」

 確か、俺の記憶だと、深淵之軟体生物《アビサル・スライム》って、軟体生物《スライム》の中で最上位種で、Sランクの魔獣《モンスター》のはずなんだが……
 物理攻撃や魔術攻撃に耐性、Bランク以上の魔術すら使えるらしい。

 「じゃあ、召喚するね」

 そう言って、アルの手にある杖が光出す。

 「出でよ……深淵之軟体生物《アビサル・スライム》」

 彼の声に呼応して、杖から魔術陣が描き出される。そこから、一匹の巨大な軟体生物《スライム》が現れる。ぬめぬめと身体が蠢くようにして、赤黒く染められた恐ろしい姿だった。だが、ねちゃねちゃと動くその様は名前の可愛さからは信じられないほどの巨大さを感じさせた。

 えっ、マジでこんな化け物とやるの?

 「さぁ、戦闘開始だ……スラ君。殺れ」

 明らかな殺意の籠ったアルの命令と同時に戦闘は始まった。


 ▼


 「【炎嵐】!」

 俺は炎の嵐を創り出し、スラ君にぶつける。

 体長三メートル以上のスラ君よりも遥かに巨大な嵐。しかし、スラ君はあろうことか。それを触手で薙ぎ払う。

 「【シンエンノホウコウ】」

 それは確かに人間の言葉だった。「深淵の咆哮」と聞こえた。それは暗黒の攻撃となり、俺を貫いた。ように見えた。
 貫かれたのは事前に魔術で用意した分身だった。分身は蜃気楼のように消え去った。本体の俺は全く別位置から狙撃するように攻撃を穿つ

 「【光之裁《ホーリー・ジャッジメント》】」

 その光は神々しく、スラ君を貫く。

 【裁之光《ジャッジメント》】。対象の業《かるま》値によって、ダメージが決まる特殊な魔術だ。獄界で過ごしていたなら、それこそ物凄いダメージ量になるはずだ。

 「マジか。いつの間に、そんな魔術を」

 とアルの声がする。

 「キュ!」

 容姿とは異なる可愛い声を発しながら、スラ君が魔術を発動した。対抗術式か……こんな風に魔術で対抗してくるとは……

 「さて、次は剣での戦闘だ」

 アルがそう言った瞬間、スラ君は体内から、十本の剣を吐き出した。粘液と共にぬちゃっと落ちた剣。そして、それを触手で握る。

 「キュキュ!」

 縦横無尽に剣が振られる。型など関係なしと言わんばかりの乱雑な振りだが、鋭いし、力強い。

 「くっ」

 俺は金聖剣で受け止めると、それを短剣の形に直す。逆手でそれを持ち、スラ君の腹に叩き込む。


 ――弾き返された。


 しかし、そこで諦めずに、二撃目を繰り出す。そして、ほぼ同時に【二連脚撃】も繰り出す。


 ――さらにはじき返される。


 深淵之軟体生物《アビサル・スライム》って、物理攻撃無効系の技能を持ってたかと錯覚するほどの物理攻撃に対する耐性だった。

 逆に俺は触手の一振りで吹き飛ばされる。

 「おーい、大丈夫かー」

 なんて、呑気な声すらも聞こえてくる。

 俺は剣を大剣にして、上段に構える。

 「【疑似武技・旋風斬】」

 武技を模倣した一撃。魔術によって、本物の旋風が剣に纏わりつき、風切り音を鳴らす。

 「ハッ!」

 俺の気合いを込めた攻撃。

 「【ボウギョヘキ】」

 魔術が発動された。

 カキンッと不可視の壁に阻まれて、攻撃は通らない。

 「止め!」

 その声と共に戦闘は終了した。
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