幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

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エンカウント:アルラウネ

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 なんなんだ……。
 唖然とするばかりの征矢の背後で、だしぬけに別の声がした。
「ふにゃ……どなたなのです?」
 ほかに人がいるとは思っていなかった征矢は、ビクリとして振り返る。
 少し離れた窓際のソファ席で、女の子がもそもそと起き上がった。
 幼女だ。
 まだ寝ぼけているのか、目をしばしばさせている。
 せいぜい小学校の三、四年生といったところだろう。
 まず目を引くのは、鮮やかな緑色の髪。瞳も同じグリーンだ。
 緑の髪とよく映える大きなピンクの花飾りも印象的。
 服装はさっきの牛っぽいウエイトレスさんと同じメイドドレス。
(ということは、このちっこいのもここの従業員か? 子供もバイトで雇っているのか? いや、そもそもこの子は……普通の人間か?)
 さっきからおかしなのにばかり会っているせいで、征矢はすでに疑心暗鬼生じまくりである。相手がちびっ子といえど例外ではない。
「わふ……」
 あくび混じりに目をこすり、幼女は店内をぐるりと見た。
「なぜ誰もいないのです?」
「いやおれに聞かれても」
「ありゃあ。しょうがないのです。んしょ」
 幼女は立ち上がって、また大あくび。その様子はまことにあどけない。そして立っても小さい。
 まだ半分とろんとした目で、征矢に尋ねる。
「ご注文はお決まりなのですか」
「いや、おれ、客じゃないんだ。ここのオーナーに会いにきたんだ」
 征矢はさっきの説明を繰り返す。
 しばらくの間、幼女は不思議そうに征矢を見ていたが、もう一度確認する。
「お客さまじゃない?」
「ああ」
「それならそうと早く言ってくださいです。寝ますのです」
 言うなり、幼女はまたソファ席に戻っていく。
 慌てて征矢はそれを追いかける。
「お、おいちょっと待ってくれ。寝るのはいいけど、その前に教えてくれ。あの牛みたいな角の子とかマンティコアとか、この街はどうなってるんだ」
 伸ばした手が、はずみでうっかり幼女の髪に飾られた花に触れてしまう。
「きゃっ!」
 緑の髪の幼女は飛び上がった。
 征矢も思わず一歩後ずさる。
「す、すまない。触るつもりはなかった。わざとじゃないんだ」
 しまった。時節柄、事案発生的な通報されるとややこしいなあ。征矢はいろんな意味合いで悔やむ。
 ところが征矢の予想に反して、幼女はむしろすまなそうに頭を下げたのだ。
「あ、いえ、こちらこそごめんなさいです、おっきな声出して。ただ、この花は……」
「ああ、知らない男に頭なんて触られたくないよな。ごめんよ」
「いえ、今のは単なる条件反射なのです。これ、神経がつながってますので」
 また、ひっかかる単語が。
「神経……?」
「はい。あと維管束とか。あ、これ飾りじゃなく、生の器官なのです」
「生の器官!?」
「はい。生の器官なので、強く刺激すると大きな声が出てしまうのです」
「なんかヒワイだな」
「ちなみにマックスで叫ぶと人間即死しますのです」
「急に怖い話に! 大人をからかうのはやめなさい」
 征矢は軽くたしなめる。まあおれ高校生だから厳密には大人じゃないけど。
 すると幼女は可愛らしいほっぺたをふくらませた。
「あっ、信じないのですか」
「そりゃそうだろ」
 どう見ても普通じゃない姿の女の子を二人続けて目撃してなお、征矢は真性の懐疑主義者であった。
 いくらなんでもこんな小さな子が叫んだくらいで人が死ぬわけはない。
 ついスルーしてしまう征矢に、幼女はいよいよむくれる。
「じゃあ、見せてあげるのです」
「うんうん。わかったわかった」
 幼女はおもむろに、自分の頭の花をそっと引っ張った。

    『 ア ! 』

 大きく開いた口から、ごくごく短い時間、だがとんでもない音量の超高音が放たれた。
 その瞬時の一音だけで、征矢は音圧に押されて尻もちをつき、テーブルに置いてあったお冷のグラスが粉々に砕け散った。
「ね。うそじゃなかったのです」
 幼女はすぐさまちりとりとおしぼりを持ってくると、ガラスの破片を手際よく片付けながら、得意げに征矢を見る。
 征矢は耳鳴りでキーンとなっている両耳を押さえて、コクコクとうなずいた。
「ちなみに今のは五パーセントくらいなのです」
 だとしたら、マックスはたしかに人間死ぬな。征矢は深く納得した。
「では、店内ではお静かにお願いしますのです」
「現状いちばんうるさかったのは君だけどな。ていうか君は営業中に寝てていいのか?」
「だって、お客さまはいませんのです」
 それだけ言うと、幼女はこてん、と小さな体をソファに横たえた。
「おい……」
 ムダだった。数秒後には、幼女は早くもくーくーと小さな寝息をたてていた。
「寝つきよすぎだろ」
 謎は深まるばかりである。しかしせっかく寝ている子供を叩き起こすわけにもいかない。
 征矢は自分のジャケットを脱ぐと、そっと幼女にかけてやる。
 スカートがずり上がって水玉模様のぱんつが見えてしまっている。ちょっと気まずい思いで、征矢はそれも手早く直してやる。
 その途端だった。
 ぐさり。
 尻たぶに、ものすごい激痛が走った。
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