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ぴかりそ@帰還兵
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若い女性お一人様。年齢は征矢と同じくらい。
華奢な体に、純白のハイネックブラウスとゴスロリ調の黒いジャンパースカートをまとっている。足下はピカピカのエナメルおでこ靴。
しっとり濡れたような黒髪。前髪はCADで引いた図面のように正確に水平ぱっつん。後ろ髪は細い滝のようにまっすぐお尻まで垂れている。
派手な衣装に負けないきれいな顔立ちだった。落ち着いて、気品があり、どこかミステリアスな雰囲気もある。
(ひゃー、お人形さんみたいのが来たな)
征矢は思う。
まさか異世界から来た幻獣娘たちの働くお店で、その従業員に引けを取らないほど印象的な「人間」に会うとは思わなかった。
美少女は、ゆっくりと店内を見渡した。
「いらっしゃいませだなも」
女の子は、接客についたミノンになにごとか話しかけている。
ミノンは少し迷った末、その子を連れて征矢のいるカウンターまでやってきた。
「征矢さん征矢さん、この人が、店内をあちこち撮影していいかって」
そんなこと聞かれても、さっき仕事を始めたばかりの征矢にわかるはずもなく。小声でミノンに聞き返す。
「そういうの、オーナーはなんて言ってるんだ」
「あー、宣伝になるならなんでもいいって言ってたような……」
「じゃあいいんじゃないか。知らないけど」
その言葉を聞いた女の子は、征矢の方へしずしずと進み出る。
「はじめまして店長さま。私、こういう者です」
すっと名刺が差し出された。征矢は手を振って遠慮する。
「あ、自分店長じゃないです。ただの新入りバイトです」
「そうですか。失礼いたしました。では店長さまにお渡しください」
征矢は受け取って名刺に目を落とす。
異世界評論家・ライター
ぴかりそ@帰還兵
とあった。
(なんぞこれは)
肩書も名前もまるで意味不明だ。名前の下にはSNSのIDやメールアドレスなどが並んでいる。
まあいいだろう。客は客だ。それにここはテーマカフェ。撮影でもレビューでも拡散してもらってナンボだろう。
「とにかく、お好きに撮影していただいてけっこうですよ。ほかのお客さまのご迷惑にならない範囲でなら」
「ありがとうございます」
その女の子「ぴかりそ@帰還兵」は馬鹿丁寧に頭を下げると、さっそく携帯端末のカメラで店内を歩きまわってパシャパシャ撮りはじめた。
インテリアを撮り、幻獣娘たちを撮り、注文した紅茶とスイーツ数種を撮る。手慣れた様子だが、同時に優雅でもある。
幻獣娘たちには撮影しながらちょっとしたインタビューもしている。
ぴかりそ@帰還兵はどこか征矢に似て、あまり感情を露骨に表さないタイプのようで、大きく笑ったり声を張ったりすることはほとんどない。しかし会話は決してヘタではないらしく、幻獣娘たちとのコミュニケーションはすこぶる円滑だ。
ユニカなんか、隣に座って腕でも組んじゃうのではないかと思うほど機嫌がいい。
(あの一本角がなついてるということは、あのお客さんは……)
思わずお下品なことに思いが及び、征矢は慌てて自分の頬をぴしゃぴしゃ叩く。
(おっと。ダメだダメだ。考えない考えない)
ひととおりの取材が終わったのか、最後にぴかりそ@帰還兵は、カウンターの中で洗い物をしている征矢のほうへやってきた。遠慮がちに声をかけてくる。
「あの……」
「はい。なんでしょう」
色白な顔を少し赤らめて、ぴかりそは一瞬、言いよどむ。
「そのう……ギャルソンさまも撮らせていただいてよろしいですか?」
征矢は無表情に答える。
「自分は別にかまいませんけど、ここは幻獣の子たちが売りなんで、あんまり意味ないと思いますよ」
「そんなことないです。その、ギャルソンさまもかっこよくてらっしゃるから、喜ぶ女の子もいると思います」
異世界評論家かなにかしらないが、口のうまいことだ。
「はあ。じゃあどうぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
ぴかりそは携帯端末のレンズを征矢に向ける。女の子から写真を撮られるなんてめったに経験のない征矢は緊張し、ただでさえ怖めの顔がますますこわばる。
かしゃ。シャッターが切られる。画角やアングルを変えて、二枚、三枚。
撮影された画像を見て、ぴかりそ嬢はほんの少し、「ふふっ」と唇をほころばせる。
美人だけど、ちょっとあやしげな変わり者。そんな印象が塗り替えられるほど、その笑顔は少女らしく、愛らしく見えた。
「うまく撮れました?」
征矢に訊かれると、ぴかりそ@帰還兵は携帯端末を隠すように、慌てて胸に押しつけた。
「は、はい。ありがとうございました」
そのまま会計をすませると、ぴかりそ@帰還兵は丁寧に一礼して言った。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。あの……また遊びにきてもよろしいでしょうか? その……次は個人的に」
「いつでもどうぞ。SNS、いいことたくさん書いてくださいね」
できるだけお愛想を込めて征矢は笑顔をみせた。カメラがなければ緊張もしない。
ぴかりそのおとなしそうな顔にも、ふわ、と微笑が。
「はい、すてきなお店ですから、いっぱい書きますね。お騒がせしました」
人形のような美少女、ぴかりそ@帰還兵は最後にもう一度ぺこんと頭を下げると、静かに店を出ていった。
華奢な体に、純白のハイネックブラウスとゴスロリ調の黒いジャンパースカートをまとっている。足下はピカピカのエナメルおでこ靴。
しっとり濡れたような黒髪。前髪はCADで引いた図面のように正確に水平ぱっつん。後ろ髪は細い滝のようにまっすぐお尻まで垂れている。
派手な衣装に負けないきれいな顔立ちだった。落ち着いて、気品があり、どこかミステリアスな雰囲気もある。
(ひゃー、お人形さんみたいのが来たな)
征矢は思う。
まさか異世界から来た幻獣娘たちの働くお店で、その従業員に引けを取らないほど印象的な「人間」に会うとは思わなかった。
美少女は、ゆっくりと店内を見渡した。
「いらっしゃいませだなも」
女の子は、接客についたミノンになにごとか話しかけている。
ミノンは少し迷った末、その子を連れて征矢のいるカウンターまでやってきた。
「征矢さん征矢さん、この人が、店内をあちこち撮影していいかって」
そんなこと聞かれても、さっき仕事を始めたばかりの征矢にわかるはずもなく。小声でミノンに聞き返す。
「そういうの、オーナーはなんて言ってるんだ」
「あー、宣伝になるならなんでもいいって言ってたような……」
「じゃあいいんじゃないか。知らないけど」
その言葉を聞いた女の子は、征矢の方へしずしずと進み出る。
「はじめまして店長さま。私、こういう者です」
すっと名刺が差し出された。征矢は手を振って遠慮する。
「あ、自分店長じゃないです。ただの新入りバイトです」
「そうですか。失礼いたしました。では店長さまにお渡しください」
征矢は受け取って名刺に目を落とす。
異世界評論家・ライター
ぴかりそ@帰還兵
とあった。
(なんぞこれは)
肩書も名前もまるで意味不明だ。名前の下にはSNSのIDやメールアドレスなどが並んでいる。
まあいいだろう。客は客だ。それにここはテーマカフェ。撮影でもレビューでも拡散してもらってナンボだろう。
「とにかく、お好きに撮影していただいてけっこうですよ。ほかのお客さまのご迷惑にならない範囲でなら」
「ありがとうございます」
その女の子「ぴかりそ@帰還兵」は馬鹿丁寧に頭を下げると、さっそく携帯端末のカメラで店内を歩きまわってパシャパシャ撮りはじめた。
インテリアを撮り、幻獣娘たちを撮り、注文した紅茶とスイーツ数種を撮る。手慣れた様子だが、同時に優雅でもある。
幻獣娘たちには撮影しながらちょっとしたインタビューもしている。
ぴかりそ@帰還兵はどこか征矢に似て、あまり感情を露骨に表さないタイプのようで、大きく笑ったり声を張ったりすることはほとんどない。しかし会話は決してヘタではないらしく、幻獣娘たちとのコミュニケーションはすこぶる円滑だ。
ユニカなんか、隣に座って腕でも組んじゃうのではないかと思うほど機嫌がいい。
(あの一本角がなついてるということは、あのお客さんは……)
思わずお下品なことに思いが及び、征矢は慌てて自分の頬をぴしゃぴしゃ叩く。
(おっと。ダメだダメだ。考えない考えない)
ひととおりの取材が終わったのか、最後にぴかりそ@帰還兵は、カウンターの中で洗い物をしている征矢のほうへやってきた。遠慮がちに声をかけてくる。
「あの……」
「はい。なんでしょう」
色白な顔を少し赤らめて、ぴかりそは一瞬、言いよどむ。
「そのう……ギャルソンさまも撮らせていただいてよろしいですか?」
征矢は無表情に答える。
「自分は別にかまいませんけど、ここは幻獣の子たちが売りなんで、あんまり意味ないと思いますよ」
「そんなことないです。その、ギャルソンさまもかっこよくてらっしゃるから、喜ぶ女の子もいると思います」
異世界評論家かなにかしらないが、口のうまいことだ。
「はあ。じゃあどうぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
ぴかりそは携帯端末のレンズを征矢に向ける。女の子から写真を撮られるなんてめったに経験のない征矢は緊張し、ただでさえ怖めの顔がますますこわばる。
かしゃ。シャッターが切られる。画角やアングルを変えて、二枚、三枚。
撮影された画像を見て、ぴかりそ嬢はほんの少し、「ふふっ」と唇をほころばせる。
美人だけど、ちょっとあやしげな変わり者。そんな印象が塗り替えられるほど、その笑顔は少女らしく、愛らしく見えた。
「うまく撮れました?」
征矢に訊かれると、ぴかりそ@帰還兵は携帯端末を隠すように、慌てて胸に押しつけた。
「は、はい。ありがとうございました」
そのまま会計をすませると、ぴかりそ@帰還兵は丁寧に一礼して言った。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。あの……また遊びにきてもよろしいでしょうか? その……次は個人的に」
「いつでもどうぞ。SNS、いいことたくさん書いてくださいね」
できるだけお愛想を込めて征矢は笑顔をみせた。カメラがなければ緊張もしない。
ぴかりそのおとなしそうな顔にも、ふわ、と微笑が。
「はい、すてきなお店ですから、いっぱい書きますね。お騒がせしました」
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