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魔女とまんちこさん 3
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質問の方向性がどうも期待と違ったらしく、光莉の表情にガッカリ感が漂う。
「はい……なんでしょう……」
「異世界転移でしたっけ。あれって、どんな感じなんですか?」
インタビューなどで何度も聞かれている質問なのだろう。光莉はいかにも話し慣れている感じですらすらと答える。
「私の場合は、典型的な突発型時空破断ですね。夜、コンビニに向かって歩いていたら、突然あたりの景色が歪んで、気がついたらパンタゲアでした」
「へえー。不思議な話ですね。異世界って、どんなところなんですか」
「とっても楽しいところですよ。意外に気候もいいですしし、食べ物も美味しかったですし」
あの幻獣娘たちが生まれ育ったところだ。のどかな場所であろうことは容易に想像できた。
「冒険もずいぶんなさったんですよね」
「はい。私は幸い、わりとすぐにチートな魔宝具が手に入ったので、あまり苦労もなく」
「そうなんですか。すごいなあ」
いかにも興味津々の体で、征矢は心にもないリアクション。
しかしこれに気を良くしたのか、ぴかりそは興が乗ってきたようだ。
「魔王の軍勢とも戦ったのですよ。平原を埋め尽くす幾千幾万のモンスターを無双して……この快感、想像できますか?」
「いや……ちょっとわからないです……」
光莉の両眼はだんだん異様な輝きを帯び、言葉もまた早口になってくる。
「それはもうスゴいのですよ。フルパワーの雷撃を放出すると、一発で何百というアンデッド兵がカカシのように薙ぎ倒されるのです。あああの圧倒的な破壊の悦楽。絶対的な全能感。わかりますか? わかりますよね? あんなキモチいいこと、絶対ゲームなどでは味わえないですから。大げさでなく世界をひとつリアルに支配できるかもという高揚感。それがいきなり、また突発ドリフトでこちらの世界に戻されてしまった私の絶望、この飢餓感――――!」
ハッ。
光莉はここでようやく我に返った。
気まずそうに急に居住まいを正し、声のトーンを戻す。
「も、申し訳ありません。つい興奮してしまって。お恥ずかしいです。つまらない話をしてしまって……」
「い、いえ。すごいお話ですねえ」
つい引いてしまったのを押し隠すように、征矢はまたさも感心したという顔を作る。
メルシャがあれほど怯える理由も少しわかった気がする。
〈殲雷の魔女ぴかりそ〉の話は、どうやら本当のようだ。
征矢は自然な疑問を口にする。
「自分の意志で、もう一度異世界に行くことってできないんですか?」
沈んだ面持ちで、光莉はうなずく。
「ええ。できません。私たちがパンタゲアへ行けるのは、偶然に発生する時空の断裂にぶつかったときだけです。近年、突発的なヴァースドリフトが急増している理由もまだわかっていません」
「でも、うちの幻獣たちは自分の意志でこっちに移ってきたんですよ」
「パンタゲアの住人はエルフが構築した〈ポータル〉を使って好き勝手に行ったり来たりできるのです。不公平ですよね。それなりの魔術的コストと肉体的負担はあるみたいですけど」
征矢は首をかしげる。
「人間は使えないんですか、その〈ポータル〉って」
「こちらの人間には耐えられない肉体的負荷がかかるそうです。噂ですけど、以前、エルフたちの制止も振り切って強引にチャレンジした人がいたのですが、半分しか転移できなかったらしいです」
「半分しか……って、どういうことですか?」
征矢の問いに、光莉は自分の眉間からへそまで、指でまっすぐ線を描いてみせた。
「ですからこう、体がすっぱりと半分に」
「うっ。そ、それは怖いですね」
少々グロ方面に脱線してしまった雰囲気を切り換えるように、光莉はやわらかく微笑んだ。
「でも私、信じてます。いつか必ず、私たちも自由にパンタゲアへ行ける道は開けるって。それも、そう遠くない将来。そして私、必ずまた行きます」
「ほんとに好きなんですね、パンタゲアが」
「もちろん、なにしろ私、最強の魔法使いだったんですもの」
征矢に向かって、光莉はウインク。
それは控えめなウインクだったけれど、征矢をドキリとさせるには充分だった。
動揺をごまかすように、征矢はもうひとつ尋ねてみる。
「ところで、今でもその魔力は持ってるんですか? それとも、こっちに戻ったら消えてしまったんですか?」
光莉はいたずらっぽく、唇に指を当ててみせる。
「さあ、どうでしょう。ナ・イ・ショ・です」
内緒、か。
もし魔王軍をまとめて薙ぎ伏せるような力を持ったままこの世界に戻ったんだとすると、それはなかなかオソロシイ話だ。
征矢は営業スマイルのまま、ちらりとカウンターの方を振り返った。
やっとメルシャが、トイレから出てきた。
「ちょっと失礼します。準備ができたようです」
光莉に断って、そそくさと征矢はカウンターに戻る。
「あ……」
征矢との楽しい会話にすっかり夢中になっていた光莉は、水を差されたような表情になる。メルシャへのインタビューのことなど、ちょっとの間忘れていたようだ。
征矢はカウンターの物陰で、メルシャに小声で詰問する。
「遅い。全部出したのか?」
メルシャの顔色は冴えない。
「それが……あんまり出なくて」
「なんでだよ」
「だって自分で出そうとして出るもんじゃないから、あれは! 出物腫れ物所嫌わずだから! ああ、ますます緊張してきた!」
なにを思ったか、メルシャは近くにあったコップの水をきゅーっと飲み干す。
征矢はその体を激しく揺さぶる。
「お洩らしを心配してるときに水分補給してどうするこのバカ!」
「ああっ、すまないつい! だってあまりに喉がカラカラで!」
「チッ、まあいい。あちらさんをこれ以上待たせるわけにはいかない。さっさとやってしまおう」
征矢は有無を言わせず、メルシャを光莉のテーブルへ連れていく。
ことさら明るく、征矢は新人幻獣娘を紹介した。
「お待たせしました。メルシャです」
光莉は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「初日で緊張してるところ、無理を言ってごめんなさいね。ちょっとだけ、お話聞かせていただけますか」
征矢に脇腹を突かれて、メルシャはギコギコとぎこちなく一礼する。
「イ、イラチャイマセ」
「あら? あらあら?」
ぴかりそ@帰還兵はメルシャを頭のてっぺんから足の爪先まで、やけにしげしげと観察した。
メルシャの緊張に、いっそう拍車がかかる。
「ナ、ナニカ……?」
「あなた、マンティコアね。珍しいわ。あっちでもほとんど見かけなかったもの」
「ソ、ソデスカ……」
ここでぴかりそはいともあっさりと、メルシャが最も恐れていた一言を放った。
「あなた、魔王軍にいたでしょう?」
「はい……なんでしょう……」
「異世界転移でしたっけ。あれって、どんな感じなんですか?」
インタビューなどで何度も聞かれている質問なのだろう。光莉はいかにも話し慣れている感じですらすらと答える。
「私の場合は、典型的な突発型時空破断ですね。夜、コンビニに向かって歩いていたら、突然あたりの景色が歪んで、気がついたらパンタゲアでした」
「へえー。不思議な話ですね。異世界って、どんなところなんですか」
「とっても楽しいところですよ。意外に気候もいいですしし、食べ物も美味しかったですし」
あの幻獣娘たちが生まれ育ったところだ。のどかな場所であろうことは容易に想像できた。
「冒険もずいぶんなさったんですよね」
「はい。私は幸い、わりとすぐにチートな魔宝具が手に入ったので、あまり苦労もなく」
「そうなんですか。すごいなあ」
いかにも興味津々の体で、征矢は心にもないリアクション。
しかしこれに気を良くしたのか、ぴかりそは興が乗ってきたようだ。
「魔王の軍勢とも戦ったのですよ。平原を埋め尽くす幾千幾万のモンスターを無双して……この快感、想像できますか?」
「いや……ちょっとわからないです……」
光莉の両眼はだんだん異様な輝きを帯び、言葉もまた早口になってくる。
「それはもうスゴいのですよ。フルパワーの雷撃を放出すると、一発で何百というアンデッド兵がカカシのように薙ぎ倒されるのです。あああの圧倒的な破壊の悦楽。絶対的な全能感。わかりますか? わかりますよね? あんなキモチいいこと、絶対ゲームなどでは味わえないですから。大げさでなく世界をひとつリアルに支配できるかもという高揚感。それがいきなり、また突発ドリフトでこちらの世界に戻されてしまった私の絶望、この飢餓感――――!」
ハッ。
光莉はここでようやく我に返った。
気まずそうに急に居住まいを正し、声のトーンを戻す。
「も、申し訳ありません。つい興奮してしまって。お恥ずかしいです。つまらない話をしてしまって……」
「い、いえ。すごいお話ですねえ」
つい引いてしまったのを押し隠すように、征矢はまたさも感心したという顔を作る。
メルシャがあれほど怯える理由も少しわかった気がする。
〈殲雷の魔女ぴかりそ〉の話は、どうやら本当のようだ。
征矢は自然な疑問を口にする。
「自分の意志で、もう一度異世界に行くことってできないんですか?」
沈んだ面持ちで、光莉はうなずく。
「ええ。できません。私たちがパンタゲアへ行けるのは、偶然に発生する時空の断裂にぶつかったときだけです。近年、突発的なヴァースドリフトが急増している理由もまだわかっていません」
「でも、うちの幻獣たちは自分の意志でこっちに移ってきたんですよ」
「パンタゲアの住人はエルフが構築した〈ポータル〉を使って好き勝手に行ったり来たりできるのです。不公平ですよね。それなりの魔術的コストと肉体的負担はあるみたいですけど」
征矢は首をかしげる。
「人間は使えないんですか、その〈ポータル〉って」
「こちらの人間には耐えられない肉体的負荷がかかるそうです。噂ですけど、以前、エルフたちの制止も振り切って強引にチャレンジした人がいたのですが、半分しか転移できなかったらしいです」
「半分しか……って、どういうことですか?」
征矢の問いに、光莉は自分の眉間からへそまで、指でまっすぐ線を描いてみせた。
「ですからこう、体がすっぱりと半分に」
「うっ。そ、それは怖いですね」
少々グロ方面に脱線してしまった雰囲気を切り換えるように、光莉はやわらかく微笑んだ。
「でも私、信じてます。いつか必ず、私たちも自由にパンタゲアへ行ける道は開けるって。それも、そう遠くない将来。そして私、必ずまた行きます」
「ほんとに好きなんですね、パンタゲアが」
「もちろん、なにしろ私、最強の魔法使いだったんですもの」
征矢に向かって、光莉はウインク。
それは控えめなウインクだったけれど、征矢をドキリとさせるには充分だった。
動揺をごまかすように、征矢はもうひとつ尋ねてみる。
「ところで、今でもその魔力は持ってるんですか? それとも、こっちに戻ったら消えてしまったんですか?」
光莉はいたずらっぽく、唇に指を当ててみせる。
「さあ、どうでしょう。ナ・イ・ショ・です」
内緒、か。
もし魔王軍をまとめて薙ぎ伏せるような力を持ったままこの世界に戻ったんだとすると、それはなかなかオソロシイ話だ。
征矢は営業スマイルのまま、ちらりとカウンターの方を振り返った。
やっとメルシャが、トイレから出てきた。
「ちょっと失礼します。準備ができたようです」
光莉に断って、そそくさと征矢はカウンターに戻る。
「あ……」
征矢との楽しい会話にすっかり夢中になっていた光莉は、水を差されたような表情になる。メルシャへのインタビューのことなど、ちょっとの間忘れていたようだ。
征矢はカウンターの物陰で、メルシャに小声で詰問する。
「遅い。全部出したのか?」
メルシャの顔色は冴えない。
「それが……あんまり出なくて」
「なんでだよ」
「だって自分で出そうとして出るもんじゃないから、あれは! 出物腫れ物所嫌わずだから! ああ、ますます緊張してきた!」
なにを思ったか、メルシャは近くにあったコップの水をきゅーっと飲み干す。
征矢はその体を激しく揺さぶる。
「お洩らしを心配してるときに水分補給してどうするこのバカ!」
「ああっ、すまないつい! だってあまりに喉がカラカラで!」
「チッ、まあいい。あちらさんをこれ以上待たせるわけにはいかない。さっさとやってしまおう」
征矢は有無を言わせず、メルシャを光莉のテーブルへ連れていく。
ことさら明るく、征矢は新人幻獣娘を紹介した。
「お待たせしました。メルシャです」
光莉は立ち上がり、丁寧に頭を下げた。
「初日で緊張してるところ、無理を言ってごめんなさいね。ちょっとだけ、お話聞かせていただけますか」
征矢に脇腹を突かれて、メルシャはギコギコとぎこちなく一礼する。
「イ、イラチャイマセ」
「あら? あらあら?」
ぴかりそ@帰還兵はメルシャを頭のてっぺんから足の爪先まで、やけにしげしげと観察した。
メルシャの緊張に、いっそう拍車がかかる。
「ナ、ナニカ……?」
「あなた、マンティコアね。珍しいわ。あっちでもほとんど見かけなかったもの」
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「あなた、魔王軍にいたでしょう?」
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