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まんちこさんとリボン
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下着以外の買い物も終えたメルシャは、両肩から提げたいくつもの大きなショップバッグに少し当惑しているようにも見えた。
「こんなに買ってもらっていいのだろうか……」
「いいのいいの。前にわたしたちも買ってもらったから」
ユニカが軽く言った。
「椿さんは気前いいな」
さすが成功者。征矢は素直に感心する。
「あら、べつにタダでいただいたわけじゃありませんわ。将来的にお給料からちょっとずつお返しすることになってますのよ」
ポエニッサから夢のない横槍。
「そうなのか。やっぱりしっかりしてるな椿さん」
「では、次は征矢さんのお買い物なのです。どちらのお店に行きますか?」
アルルが楽しそうに尋ねる。
征矢は笑顔でかぶりを振った。
「おれはいいよ」
お金の入った封筒を、征矢はいちばんしっかりしてそうなポエニッサに手渡す。
「残りはみんなで分けて好きなもの買ってくるといいよ。おれは疲れた。ここで待ってる」
通路の端に置いてある休憩用のベンチに征矢は腰を下ろした。
アルルが征矢に詰め寄る。
「ダメなのです。あれは征矢さんの分なのです」
出かけるとき、椿は「あんたも足りないものがあったら買っときな」とお札を一枚余計に封筒に入れてくれていた。アルルはちゃんとそれを見ていたのだ。
征矢はいかにもめんどくさそーに、ぐでっと椅子にもたれた。
「椿さんにも言ったけど、おれ、とくに買うものないんだよ。必要なものは一通り持ってきたし。君たちこそ異世界からきてまたひと月足らずだろ? 女の子はいろいろ物入りだろうし、みんなで使っていいよ。椿さんにはうまく言っとくから」
「でもでも……」
「そういうわけにはいかないんだなも」
ミノンも加わる。
「あら、せっかくですから、遠慮なく使わせていただきましょ」
そう言ったのは、お金を渡されたポエニッサだ。
「ポーちゃん!」
驚く仲間たちに、ポエニッサはなにやら短く耳打ちする。
どんな呪文を使ったのか、それでミノンもアルルもあっさりと折れた。
アルルが一転にこにこして、征矢に言う。
「じゃあお言葉に甘えて、お買い物行ってくるのです」
「はい行ってらっしゃい。一時間後にここで集合な」
椅子にもたれたまま、征矢は手を振る。
幻獣娘たちが行ってしまうと、そこには征矢とメルシャが残った。
「お前は行かないのか、まんち子」
「うん。オレ、もうたくさん買ってもらったから」
メルシャは笑みを返して、征矢の横にちょこんと腰を下ろす。
「でも、よかったあ」
ぽつりと、メルシャはつぶやいた。
「よかったな。少しはおしゃれしろよ」
けだるく上を見たまま、征矢は応える。
「いや、そうじゃなくて。ほら、さっきの下着の店」
「うん。どうした」
メルシャはぽりぽりと頭を掻いた。
「はじめてあの試着室とやらに入ったとき、緊張してまたおもらしするところだったぞ。ははは」
「しなくてよかったな。もしやらかしてたら、お前当分メシ抜きだ」
ぎろっ。征矢の視線がメルシャに刺さる。
「ほんとによかった! ギリガマンできてよかった!」
ふいに、征矢はすくっと立ち上がった。
げんこつでも食らうのかと、ビクッとなるメルシャ。
征矢はすたすたと目の前にある女性向けの雑貨店へ近づき、自分の財布を出すと、ワゴンセールになっている安いプチスカーフを一枚買い求めた。
爽やかな青と白のストライプ柄。
戻ってきた征矢は、器用な手つきでそれをメルシャのしっぽの先へリボン結びしてやる。
「わあ……」
しっぽをくるんと顔の前に持ってきて、メルシャは驚きの眼差しでそのリボンを見つめた。
「これは……」
「おもらし止めのおまじないだ。またもれそうと思ったら、それをギュッと絞れ」
「あ、ありがとう……で、でも、こんなキレイなの、オレには似合わないな」
メルシャは照れ隠しのように笑ってみせる。
征矢は感情の読めない三白眼で、じっとメルシャを見つめる。
「いや、似合ってるぞ?」
「ふぇっ!?」
「お前は可愛いからな、まんち子」
メルシャは自分のしっぽを両手で握ったまま、癇癪を起こしたみたいに脚を激しくばたばたさせる。
「んもおおおおおお! 征矢どのは怒ったと思ったらすぐ優しくしたり、それでまたバカにしたりするー! そうやってオレの心をもてあそぶんだ! もうキライだー!」
征矢はそれを気にもとめず、ベンチから腰を上げる。
「喉乾いたな。なんか飲みに行くか」
二、三歩歩いて、メルシャを振り返る。
メルシャは、まだベンチでぶつぶつ言いながらむくれていた。
「だいたい征矢どのはいっつも意地が悪いのだほんとにもういつもいつも……」
「来ないのか?」
「……行く」
両手に荷物を抱えて、メルシャはいそいそと征矢を追いかけていく。
「こんなに買ってもらっていいのだろうか……」
「いいのいいの。前にわたしたちも買ってもらったから」
ユニカが軽く言った。
「椿さんは気前いいな」
さすが成功者。征矢は素直に感心する。
「あら、べつにタダでいただいたわけじゃありませんわ。将来的にお給料からちょっとずつお返しすることになってますのよ」
ポエニッサから夢のない横槍。
「そうなのか。やっぱりしっかりしてるな椿さん」
「では、次は征矢さんのお買い物なのです。どちらのお店に行きますか?」
アルルが楽しそうに尋ねる。
征矢は笑顔でかぶりを振った。
「おれはいいよ」
お金の入った封筒を、征矢はいちばんしっかりしてそうなポエニッサに手渡す。
「残りはみんなで分けて好きなもの買ってくるといいよ。おれは疲れた。ここで待ってる」
通路の端に置いてある休憩用のベンチに征矢は腰を下ろした。
アルルが征矢に詰め寄る。
「ダメなのです。あれは征矢さんの分なのです」
出かけるとき、椿は「あんたも足りないものがあったら買っときな」とお札を一枚余計に封筒に入れてくれていた。アルルはちゃんとそれを見ていたのだ。
征矢はいかにもめんどくさそーに、ぐでっと椅子にもたれた。
「椿さんにも言ったけど、おれ、とくに買うものないんだよ。必要なものは一通り持ってきたし。君たちこそ異世界からきてまたひと月足らずだろ? 女の子はいろいろ物入りだろうし、みんなで使っていいよ。椿さんにはうまく言っとくから」
「でもでも……」
「そういうわけにはいかないんだなも」
ミノンも加わる。
「あら、せっかくですから、遠慮なく使わせていただきましょ」
そう言ったのは、お金を渡されたポエニッサだ。
「ポーちゃん!」
驚く仲間たちに、ポエニッサはなにやら短く耳打ちする。
どんな呪文を使ったのか、それでミノンもアルルもあっさりと折れた。
アルルが一転にこにこして、征矢に言う。
「じゃあお言葉に甘えて、お買い物行ってくるのです」
「はい行ってらっしゃい。一時間後にここで集合な」
椅子にもたれたまま、征矢は手を振る。
幻獣娘たちが行ってしまうと、そこには征矢とメルシャが残った。
「お前は行かないのか、まんち子」
「うん。オレ、もうたくさん買ってもらったから」
メルシャは笑みを返して、征矢の横にちょこんと腰を下ろす。
「でも、よかったあ」
ぽつりと、メルシャはつぶやいた。
「よかったな。少しはおしゃれしろよ」
けだるく上を見たまま、征矢は応える。
「いや、そうじゃなくて。ほら、さっきの下着の店」
「うん。どうした」
メルシャはぽりぽりと頭を掻いた。
「はじめてあの試着室とやらに入ったとき、緊張してまたおもらしするところだったぞ。ははは」
「しなくてよかったな。もしやらかしてたら、お前当分メシ抜きだ」
ぎろっ。征矢の視線がメルシャに刺さる。
「ほんとによかった! ギリガマンできてよかった!」
ふいに、征矢はすくっと立ち上がった。
げんこつでも食らうのかと、ビクッとなるメルシャ。
征矢はすたすたと目の前にある女性向けの雑貨店へ近づき、自分の財布を出すと、ワゴンセールになっている安いプチスカーフを一枚買い求めた。
爽やかな青と白のストライプ柄。
戻ってきた征矢は、器用な手つきでそれをメルシャのしっぽの先へリボン結びしてやる。
「わあ……」
しっぽをくるんと顔の前に持ってきて、メルシャは驚きの眼差しでそのリボンを見つめた。
「これは……」
「おもらし止めのおまじないだ。またもれそうと思ったら、それをギュッと絞れ」
「あ、ありがとう……で、でも、こんなキレイなの、オレには似合わないな」
メルシャは照れ隠しのように笑ってみせる。
征矢は感情の読めない三白眼で、じっとメルシャを見つめる。
「いや、似合ってるぞ?」
「ふぇっ!?」
「お前は可愛いからな、まんち子」
メルシャは自分のしっぽを両手で握ったまま、癇癪を起こしたみたいに脚を激しくばたばたさせる。
「んもおおおおおお! 征矢どのは怒ったと思ったらすぐ優しくしたり、それでまたバカにしたりするー! そうやってオレの心をもてあそぶんだ! もうキライだー!」
征矢はそれを気にもとめず、ベンチから腰を上げる。
「喉乾いたな。なんか飲みに行くか」
二、三歩歩いて、メルシャを振り返る。
メルシャは、まだベンチでぶつぶつ言いながらむくれていた。
「だいたい征矢どのはいっつも意地が悪いのだほんとにもういつもいつも……」
「来ないのか?」
「……行く」
両手に荷物を抱えて、メルシャはいそいそと征矢を追いかけていく。
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