幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

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パーティタイム

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 幻獣たちとみんな揃って家に帰ると、食卓にはなかなかのご馳走が用意されていた。
「なんですか?」
 いぶかる征矢に、椿が言う。
「なにって、メルシャとあんたの歓迎会じゃない」
「えっ。いいのに、そんなこと……」
「あたしがやりたいの! パーティが好きなの!」
 椿はテーブルに、とっておきのワインのボトルをどん、と置く。
「あ、要するに飲みたいんですね」
「それもある。むひひ」
 わいわいと騒がしい食事が終わると、幻獣娘たちはごそごそとリビングの隅から何かを持ってきて、征矢の前に並んだ。
 幻獣娘たちの思いがけない行動に、征矢は目をぱちくりする。
「なんだ。どうした」
 代表して、アルルが一歩進み出る。
「征矢さんとまんち子さんにプレゼントなのです」
「はあ?」
「お金、好きに使っていいって言ったから、みんなで歓迎の贈り物を買うことにしたのです。ポーちゃんの発案なのですよ」
「そうなのか?」
 征矢に問われ、ポエニッサはツンとそっぽを向く。頬が真っ赤になっているけれど。
「べっ、べつに深い意味はありませんのよ! 新入りさんへのちょっとした気遣いですわ」
「そっか……でも、そんなことしてもらう理由が……」
「いいからもらっときなさい。みんな助かってるし、喜んでんのよ、あんたが来て」
 ほろ酔いの椿がワイングラスを傾ける。
「なんか、悪いな、みんな」
 征矢は椅子から立つ。
 アルルから手渡されたのは、色とりどりの花を寄せ植えにした小さなポットだった。
「お部屋に飾ってくださいなのです」
「うん。ありがとな」
「まんち子さんにはかいわれ大根栽培キットなのです。育てておやつにどうぞ」
「え。あ、ありがと……」
 微妙なチョイスに、メルシャは複雑な表情。
 ミノンが持ってきたのは、しゃれたデザインのマグカップだった。
「征矢さん、コーヒーとかお好きそうと思っただなも」
「ありがとう。毎日使わせてもらうよ」
「まんち子さんにはホウキ。ちゃんとお部屋のお掃除するんだなも」
「え。ああ、うん……」
 ポエニッサからは、男性化粧品のセットだった。クシや爪切りも入っている。
「はい。身だしなみ、ちゃんとなさってね」
「うん。悪いな」
「まんち子さんにはヘアブラシ。身だしなみに関しては、あなたはうんと気をつけて」
「ええー……?」
 げんなりした顔で、メルシャは安っぽいブラシを見つめる。「ペット用」と書いてあった。
 最後はユニカ。平べったい包みだった。開けようとする征矢をそっと制して、ユニカは耳元にささやく。
「すっごくエロスな本、詰め合わせだよ。うふ。使ってね」
「なんてもの買ってくるんだ! でもありがとう! すごくありがとう!」
 今日イチテンションの上がる征矢である。
 ユニカはニヤニヤしながら、小さな封筒をメルシャに差し出す。
「なにこれ……」
「お金なくなっちゃったから、あんたにはわたしのエロエロ生写真あげる。使ってね」
「いらねー! 使わねー!」


 幻獣娘たちがそれぞれの部屋で寝入ってしまったあと、征矢は椿と並んで、パーティで使った食器を洗っていた。
「どう? やってけそう? あの子たちと」
 椿が尋ねる。
「はい。それぞれアクは強いですけど」
 征矢は苦笑する。
「みんないい子でしょ」
「そうですね」
「当然よ。あたしが厳選したんだから」
 征矢は、まだテーブルに置いてあるプレゼントの数々を振り返った。
「おれ、他人からプレゼントもらうなんて初めてかもなあ。そのうちお返しをしないと」
「気にしないでいいわよ。あんたはただ、優しくしてあげて。みんな口には出さないけど、知らない世界に来てまだちょっと心細いの」
「それはまあ……あ、ただしまんち子は別ですよ。アイツは甘やかすとつけあがるので常にビシビシやります」
 椿は声を上げて笑う。
「そっか。そだね。ちゃんと調教してね」
「もちろんです」
 征矢は水を止め。手を拭いた。
「さて、じゃあおれもそろそろ……」
 ふいに、背中が暖かくなった。
 ぎゅっと。
 椿が、背後から征矢の腰に手を回し、抱きしめている。
 メルシャにも負けないであろうたっぷりした乳房の弾力と暖かさが、なんだか妙に生々しい。
「あの、椿さん……?」
「この家、気に入った?」
 征矢の背に顔を埋めるようにして、椿が尋ねる。
 驚きが、ゆっくり溶けていく。くすっと征矢は微笑む。
「ええ。気に入ってます」
 嬉しそうに、椿はさらに腕に力を入れた。
「よし。よく来た。あんたは好きなだけ、この家にいていいんだからね。もうこの家の子だから」
 椿は誰より、ここへ来る前の、征矢の厄介な身の上のことを知っている。
 少しの間、その言葉を噛み締めるように、征矢は黙った。
「……ありがとうございます」
「お礼はいらない。家族でしょ」
「はい。じゃ、遠慮なく、あとひとつだけ」
「うん。なに?」
 可能な限り紳士的に、征矢は言った。
「椿さん、お酒臭いです」
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