幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

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進撃の幻獣娘 

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「そうは問屋がおろすかこのクソスベタがぁー!」
 ものすごい怒号が闇夜を貫いた。
 小さな女の子の声だった。
 メイド制服姿のアルラウネの幼女が、のっしのっしとこちらに向かってくる。ヘンなクスリでもやっているのか、目がバッキバキだ。
 その左右には、ミノタウロスとユニコーン。炎に包まれたフェニックスも着地する。
 ミノタウロスのうしろにこそこそ隠れるように、例のマンティコアもいる。
「あら、皆さんお揃いですね」
 光莉の顔に動揺はない。幻獣たちが追ってくるのも折り込み済みらしい。
「坂嶋征矢をどうなさるおつもり?」
 ポエニッサが全身の炎をいっそう燃え立たせる。
 光莉はぺろっと舌を出す。
「そうですね、いうなれば――――ハネムーンでしょうか」
「「「「「はあ!?」」」」」
 幻獣娘たちが声を揃えて叫ぶ。
「ハ、ハ、ハネムーンって、し、新婚旅行のことだなも!? どこへ行く気なんだなも!?」
 ミノンがおろおろと尋ねる。
「もちろん、あなた方のふるさと、パンタゲアです。征矢さまと私で手に手を取って軽く魔王討伐、そのあとは……余勢を駆ってパンタゲア全土を武力征服する予定です。ふふ」
「なに寝言ほざいとんじゃクソスベタ。そんなマネさせるかしばき殺すぞコラ」
 アルルがすごむが、光莉はどこ吹く風だ。
「あらあら、品のない。しょせん下賤の幻獣ね」
「せ、征矢さんは返してもらうんだなも!」
 ミノンが叫ぶ。
「そうはいきません。彼はもう私のだもの」
「ち、力ずくでも連れて帰るんだなも!」
「まあこわい。なら、こちらもそのつもりでお相手するわ」
 のん気な調子でそう言うと、光莉は右手を頭上に差し上げた。
「メゼドの永劫よ! モレクの風雲よ! 天使には贄を、我が手には雷霆を! 顕界せよアルギスアーヴ!」
 光莉の手にバリバリと放電が走り、虚空に描かれた魔法円から一本の杖が出現する。長さ七十センチほど。先端には金属のリングで囲まれた青白く発光する宝玉があり、リングからは電極のような突起がV字型に伸びている。
 光莉は杖を、バトントワラーのようにくるくる回す。
「いかが? 私の魔宝具、雷霆の杖アルギスアーヴ。かっこいいでしょ。パンタゲアでも屈指の強力アイテムよ。さあ電気羊ちゃんたち、パワーをあげる。こいつらを追い払って!」
 杖の先端から、八方へ激しい紫電が走る。
 電流は金色の羊たちへと流れ込んだ。
「メエエエエエーーーー!」
 それまでモコモコ、トコトコと四本足で歩いていた羊たちが全身から火花を散らしながら、むっくりと後脚で直立する。
 前脚のヒヅメは指に変形し、肩の構造も変化する。
 ぴかりその電気羊たちは、二足歩行の人間型兵士に変形した。
 身長はさほど高くはなく、体型もずんぐりむっくりのままだけれど、その顔つきは決して可愛くはない。
「あとはこの子たち、私の金羊毛騎士団がお相手するわ。ではみなさん、いい夜を」
 光莉は芝居がかったお辞儀をすると、すたすたと家へと入っていく。数体の羊人間が倒れている征矢を抱えて後に続く。
 残った羊人間たちは、メエメエと幻獣娘を取り囲んだ。
「ど、ど、どうする。敵は五十体はいるぞ」
 メルシャがだらしない声を出す。
 ぺっ、とツバを吐き捨て、アルルが即答する。
「全部潰してジンギスカン鍋にしたったらええじゃろがい。あんなちっこいの、何頭おっても同じじゃ」
「ですわね。彼女の行為はどう見ても拉致監禁。必要なら遠慮なく家ごと焼き払ってさしあげましょ」
 ポエニッサが燃える翼を開く。
「征矢さんを助けるんだなも」
 ミノンは拳と掌をバチーン! と力強く叩き合わせる。
「あーん、いくらぱっと見可愛くても、オスに触るのやだあー。あれオスでしょう?」
 ユニカはそう言いながら、ツノのとがり具合を指で確かめる。
「みんな……すごいな。オレは感動した!」
 メルシャは胸を押さえて叫ぶ。
「ならばオレは後方で戦況を見守ろう! 諸君、健闘を!」
 調子よく自分だけすすーっとその場から離れようとするメルシャのしっぽを、アルルがつかんだ。
「おんどれが先陣切らんかい! 腐っても魔王麾下の軍人じゃろがい! 征矢が心配にならんのか!?」
「そ、それは心配だけど……助けたいけど……あの魔女はコワイのだぞ! やつに立ち向かうなど自殺行為だ」
 メルシャは心のなかでせめぎ合う思いに、顔をゆがめる。
「グダグダぬかすな! 行けや!」
 アルルは乱暴にメルシャのお尻を蹴って押す。
「あわわわわわわ」
 つんのめり、ふらふらと前に出たメルシャの前に、一体の羊人間が立ちふさがる。
 羊人間はもこもこの両手でメルシャの体を固定し、おでこの真ん中に思いきり頭を叩きつける。
「ンメッッッッ!!」
 バリバリッ! 
 インパクトの瞬間、スパークが飛び散る。ヘッドバットに高圧電流がセットになった、恐ろしい一撃だった。
「あひっ」
 メルシャは白目を剥いてぶっ倒れ、ピクピクと痙攣する。
 さらに別の羊人間たちがよってたかって、気絶したメルシャの体に容赦なく殴る蹴る、さらにジャイアントスイングやキャメルクラッチをかけて痛めつける。
 それを見たポエニッサが、冷静につぶやく。
「あらやだ。あの子たち見た目によらず意外に凶悪ですわ。みんな、いったん離れて体勢を立て直しますわよ」
 ポエニッサは飛翔し、ユニカとミノンはそれぞれ別の方向に走り出す。
 残ったのは、アルルひとりだった。
 その小さな体に、電光を帯びた羊人間たちが殺到する。
「ふん、ボケが」
 アルルは静かに、頭に咲いている花の茎をつかみ、ぐいと引っ張った。
   アルルの唇が、大きく開く。
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