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囚われの征矢
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ンベエエエエエエエ!!
巨大羊人間が胸を反らし、雄叫びをあげた。
二本の巨大なツノから、幻獣娘たちに向かって猛烈な電撃が放たれた。
高圧電流が空気を切り裂き、衝撃波が走った。
「う…………」
意識を取り戻した征矢は、自分が硬い平らな台の上に拘束されていることに気がついた。
手首足首に短い鎖の付いた革ベルトが巻かれ、仰向けで大の字に張りつけられた格好だ。
(ここは……?)
全体的に薄暗い。でも相当に広い部屋なのはわかる。壁も天井も見えないくらいだ。
まわりには背の高い西洋風の燭台がいくつか立っていて、ロウソクが灯っている。おかげで征矢の周囲だけほのかに明るいが、ほかは闇の帳の向こうだ。
「ふふ。おはようございます」
光莉の声がした。
だが縛られているので頭が自由に動かせない。光莉は、征矢の視界の外にいる。
「おれは……どうなったんだ?」
「手荒なことしてごめんなさい。ここは私の家の中です」
家の中?
さっき見た、あの異様な家の内部というわけか。
征矢は手足を戒めている鎖を引っ張ってみる。びくともしない。むう。
「あの、これ、はずしてくれないか」
「それは無理。だって、はずしたら征矢くん逃げるでしょう?」
「これ、誘拐だぞ。監禁だぞ。犯罪だぞ」
「そうですね」
くすくすと笑う声。
ゆっくりと、光莉が視界に入ってきた。
ただし、もうあの黒い下着姿ではなかった。
派手な装飾が付いてはいるが、ほぼビキニ。胸の谷間もおへそも丸見え。首まわりや体のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリー。脚にはロングブーツ。その上から、灰色の長いマントを羽織っている。
自分の状況も忘れて、征矢はつい訊いてしまう。
「……なんだ、その格好」
「どうかしら? パンタゲアで着てた装束です。〈殲雷の魔女ぴかりそ〉の。ご感想は?」
光莉は大きく両腕を上げる腋見せポーズで、くるっと一回転してみせる。マントがひるがえり、Tバックのお尻もちらりん。
しかし征矢は苦虫を噛み潰したような面持ちで、端的に表現する。
「変態だな」
意に介すふうもなく、光莉は微笑んだ。
「まあ、失礼だわ。私、気に入ってるのに。まあしばらくいたら、征矢くんもすぐあっちの文化に慣れます。郷に入ってはなんとやらです」
本格的に征矢の顔色が変わる。
「ちょっと待て。今、なんと……?」
「しばらくいたら、征矢くんもあっちの文化に慣れる」
「あっちってなんだ。おれをどこに連れていくつもりだ!?」
光莉は人差し指を立てて、「ちっちっちっ」と振る。
「考え違いをしないで。『あなたが』『私を』連れていくのですよ、異世界パンタゲアに」
「意味がわからないが」
「予言です」
光莉は、征矢が寝かされ縛られている台の上に、ちょこんとお尻を乗せた。
「予言?」
「そう。あのバカなマンティコアがあなたを殺しにくる理由になった、例の予言。あなたは間違いなく異世界へ転移する運命の勇者。でも私は、なぜかこの退屈な世界に強制的に呼び戻されてしまった女」
征矢の頬を、光莉はそっと指先で撫でる。
「私は、どうしてもまたあの世界へ行きたいのです。でもそれは、通常の手段では不可能」
仰向けにされた征矢の顔の上に、光莉はぐっと身を乗り出した。
「だから、転移が確実に予定されている人に『相乗り』させてもらおうと思って。いい考えでしょう? 〈クリプティアム〉にはじめてお邪魔したあの日から、ずっと進めてきた計画よ」
「はじめから計算ずくか。あんたみたいな美人さんがおれみたいなもんにやけにベタベタしてきて、なにか裏があるんだろうなとは思ってたよ」
征矢は冷めた調子で吐き捨てる。
「あん、征矢さまを好きになったのは本当ですよ? 征矢さま、本当にかっこいいんですもの」
甘ったるい声を出す光莉だが、征矢はあのおぞましいストーカー部屋を思い出してゾッとする。
「だ、だいたいおれが今夜その……ドリフトか? そうなるなんてわからないだろ?」
「もちろん。だからその点についてはプロの手助けを頼みました」
「プロ?」
別の顔が、ぬっと征矢の顔を覗き込んだ。
茶髪、ガングロ、ベースボールシャツというチャラい風体のおっさんだった。
「はーいお初です。おいらっちグノーメンダースト卿っていいますけどね、ま、気安くグノさんって呼んでもらっていいっすよ。この種の裏魔法に関する業務もろもろ承ってますんでハイ」
巨大羊人間が胸を反らし、雄叫びをあげた。
二本の巨大なツノから、幻獣娘たちに向かって猛烈な電撃が放たれた。
高圧電流が空気を切り裂き、衝撃波が走った。
「う…………」
意識を取り戻した征矢は、自分が硬い平らな台の上に拘束されていることに気がついた。
手首足首に短い鎖の付いた革ベルトが巻かれ、仰向けで大の字に張りつけられた格好だ。
(ここは……?)
全体的に薄暗い。でも相当に広い部屋なのはわかる。壁も天井も見えないくらいだ。
まわりには背の高い西洋風の燭台がいくつか立っていて、ロウソクが灯っている。おかげで征矢の周囲だけほのかに明るいが、ほかは闇の帳の向こうだ。
「ふふ。おはようございます」
光莉の声がした。
だが縛られているので頭が自由に動かせない。光莉は、征矢の視界の外にいる。
「おれは……どうなったんだ?」
「手荒なことしてごめんなさい。ここは私の家の中です」
家の中?
さっき見た、あの異様な家の内部というわけか。
征矢は手足を戒めている鎖を引っ張ってみる。びくともしない。むう。
「あの、これ、はずしてくれないか」
「それは無理。だって、はずしたら征矢くん逃げるでしょう?」
「これ、誘拐だぞ。監禁だぞ。犯罪だぞ」
「そうですね」
くすくすと笑う声。
ゆっくりと、光莉が視界に入ってきた。
ただし、もうあの黒い下着姿ではなかった。
派手な装飾が付いてはいるが、ほぼビキニ。胸の谷間もおへそも丸見え。首まわりや体のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリー。脚にはロングブーツ。その上から、灰色の長いマントを羽織っている。
自分の状況も忘れて、征矢はつい訊いてしまう。
「……なんだ、その格好」
「どうかしら? パンタゲアで着てた装束です。〈殲雷の魔女ぴかりそ〉の。ご感想は?」
光莉は大きく両腕を上げる腋見せポーズで、くるっと一回転してみせる。マントがひるがえり、Tバックのお尻もちらりん。
しかし征矢は苦虫を噛み潰したような面持ちで、端的に表現する。
「変態だな」
意に介すふうもなく、光莉は微笑んだ。
「まあ、失礼だわ。私、気に入ってるのに。まあしばらくいたら、征矢くんもすぐあっちの文化に慣れます。郷に入ってはなんとやらです」
本格的に征矢の顔色が変わる。
「ちょっと待て。今、なんと……?」
「しばらくいたら、征矢くんもあっちの文化に慣れる」
「あっちってなんだ。おれをどこに連れていくつもりだ!?」
光莉は人差し指を立てて、「ちっちっちっ」と振る。
「考え違いをしないで。『あなたが』『私を』連れていくのですよ、異世界パンタゲアに」
「意味がわからないが」
「予言です」
光莉は、征矢が寝かされ縛られている台の上に、ちょこんとお尻を乗せた。
「予言?」
「そう。あのバカなマンティコアがあなたを殺しにくる理由になった、例の予言。あなたは間違いなく異世界へ転移する運命の勇者。でも私は、なぜかこの退屈な世界に強制的に呼び戻されてしまった女」
征矢の頬を、光莉はそっと指先で撫でる。
「私は、どうしてもまたあの世界へ行きたいのです。でもそれは、通常の手段では不可能」
仰向けにされた征矢の顔の上に、光莉はぐっと身を乗り出した。
「だから、転移が確実に予定されている人に『相乗り』させてもらおうと思って。いい考えでしょう? 〈クリプティアム〉にはじめてお邪魔したあの日から、ずっと進めてきた計画よ」
「はじめから計算ずくか。あんたみたいな美人さんがおれみたいなもんにやけにベタベタしてきて、なにか裏があるんだろうなとは思ってたよ」
征矢は冷めた調子で吐き捨てる。
「あん、征矢さまを好きになったのは本当ですよ? 征矢さま、本当にかっこいいんですもの」
甘ったるい声を出す光莉だが、征矢はあのおぞましいストーカー部屋を思い出してゾッとする。
「だ、だいたいおれが今夜その……ドリフトか? そうなるなんてわからないだろ?」
「もちろん。だからその点についてはプロの手助けを頼みました」
「プロ?」
別の顔が、ぬっと征矢の顔を覗き込んだ。
茶髪、ガングロ、ベースボールシャツというチャラい風体のおっさんだった。
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