幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

文字の大きさ
45 / 55

囚われの征矢

しおりを挟む
 ンベエエエエエエエ!!
 巨大羊人間が胸を反らし、雄叫びをあげた。
 二本の巨大なツノから、幻獣娘たちに向かって猛烈な電撃が放たれた。
 高圧電流が空気を切り裂き、衝撃波が走った。


「う…………」
 意識を取り戻した征矢は、自分が硬い平らな台の上に拘束されていることに気がついた。
 手首足首に短い鎖の付いた革ベルトが巻かれ、仰向けで大の字に張りつけられた格好だ。
(ここは……?)
 全体的に薄暗い。でも相当に広い部屋なのはわかる。壁も天井も見えないくらいだ。
 まわりには背の高い西洋風の燭台がいくつか立っていて、ロウソクが灯っている。おかげで征矢の周囲だけほのかに明るいが、ほかは闇の帳の向こうだ。
「ふふ。おはようございます」
 光莉の声がした。
 だが縛られているので頭が自由に動かせない。光莉は、征矢の視界の外にいる。
「おれは……どうなったんだ?」
「手荒なことしてごめんなさい。ここは私の家の中です」
 家の中?
 さっき見た、あの異様な家の内部というわけか。
 征矢は手足を戒めている鎖を引っ張ってみる。びくともしない。むう。
「あの、これ、はずしてくれないか」
「それは無理。だって、はずしたら征矢くん逃げるでしょう?」
「これ、誘拐だぞ。監禁だぞ。犯罪だぞ」
「そうですね」
 くすくすと笑う声。
 ゆっくりと、光莉が視界に入ってきた。
 ただし、もうあの黒い下着姿ではなかった。
 派手な装飾が付いてはいるが、ほぼビキニ。胸の谷間もおへそも丸見え。首まわりや体のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリー。脚にはロングブーツ。その上から、灰色の長いマントを羽織っている。
 自分の状況も忘れて、征矢はつい訊いてしまう。
「……なんだ、その格好」
「どうかしら? パンタゲアで着てた装束です。〈殲雷の魔女ぴかりそ〉の。ご感想は?」
 光莉は大きく両腕を上げる腋見せポーズで、くるっと一回転してみせる。マントがひるがえり、Tバックのお尻もちらりん。
 しかし征矢は苦虫を噛み潰したような面持ちで、端的に表現する。
「変態だな」
 意に介すふうもなく、光莉は微笑んだ。
「まあ、失礼だわ。私、気に入ってるのに。まあしばらくいたら、征矢くんもすぐあっちの文化に慣れます。郷に入ってはなんとやらです」
 本格的に征矢の顔色が変わる。
「ちょっと待て。今、なんと……?」
「しばらくいたら、征矢くんもあっちの文化に慣れる」
「あっちってなんだ。おれをどこに連れていくつもりだ!?」
 光莉は人差し指を立てて、「ちっちっちっ」と振る。
「考え違いをしないで。『あなたが』『私を』連れていくのですよ、異世界パンタゲアに」
「意味がわからないが」
「予言です」
 光莉は、征矢が寝かされ縛られている台の上に、ちょこんとお尻を乗せた。
「予言?」
「そう。あのバカなマンティコアがあなたを殺しにくる理由になった、例の予言。あなたは間違いなく異世界へ転移する運命の勇者。でも私は、なぜかこの退屈な世界に強制的に呼び戻されてしまった女」
 征矢の頬を、光莉はそっと指先で撫でる。
「私は、どうしてもまたあの世界へ行きたいのです。でもそれは、通常の手段では不可能」
 仰向けにされた征矢の顔の上に、光莉はぐっと身を乗り出した。
「だから、転移が確実に予定されている人に『相乗り』させてもらおうと思って。いい考えでしょう? 〈クリプティアム〉にはじめてお邪魔したあの日から、ずっと進めてきた計画よ」
「はじめから計算ずくか。あんたみたいな美人さんがおれみたいなもんにやけにベタベタしてきて、なにか裏があるんだろうなとは思ってたよ」
 征矢は冷めた調子で吐き捨てる。
「あん、征矢さまを好きになったのは本当ですよ? 征矢さま、本当にかっこいいんですもの」
 甘ったるい声を出す光莉だが、征矢はあのおぞましいストーカー部屋を思い出してゾッとする。
「だ、だいたいおれが今夜その……ドリフトか? そうなるなんてわからないだろ?」
「もちろん。だからその点についてはプロの手助けを頼みました」
「プロ?」
 別の顔が、ぬっと征矢の顔を覗き込んだ。
 茶髪、ガングロ、ベースボールシャツというチャラい風体のおっさんだった。
「はーいお初です。おいらっちグノーメンダースト卿っていいますけどね、ま、気安くグノさんって呼んでもらっていいっすよ。この種の裏魔法に関する業務もろもろ承ってますんでハイ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...