幻獣カフェのまんちこさん

高倉宝

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マンティコア覚醒

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(あのバカ……!)
 ユニカは疾走しながら舌打ちする。
 このままじゃ、いくら頑丈なメルシャでも本当に死んでしまう。
 自信はないが、ユニコーンのトップスピードで駆け抜けざまに助け出すしかない。
 待機しているミノンのところまで、メルシャの体重を抱えてあの電撃弾幕から逃げ切れるかどうかは、神様だけが知っている。
 ユニカは、めったに使わない一角獣の健脚に、さらにぐんと加速をかけた。
 だが、その直後。
(え!?)
 あと十メートルというところで、ユニカの脚が急制動をかける。
 メルシャが、ゆらりと立ち上がったのだ。
 その、後ろ姿が。
 違う。
(まんち子……じゃない)
 髪は金色の鬣のように逆立ち、全身の筋肉が堅く膨れ上がっている。
 長く伸びた指先の爪はまるで草刈り鎌だ。
 背中の翼が、大きく開いた。真っ黒なコウモリの肢翼は、さっきまでと同じ個体とは思えないほど禍々しく見えた。

「ゴアアアアアアアアアアッ!」

 有翼の女獅子が吼えた。
 もうメルシャの声ではなかった。
 本能的な恐怖に衝き動かされて、思わずユニカは後ずさった。
 マンティコアの尾が、サソリのように頭上へ掲げられる。先端の毛の房は、まるで金属の剣山だ。
 バババババッ!
 尾の先から、再び無数の毒針が高速で射出される。
 後退しながら、ユニカは思う。
(だから毒はあいつらには効かないって……)
 針が、プリクソスの腕に刺さる。

 大爆発が起こった。

 予想もしない爆風に煽られ、ユニカはバランスを崩して地面を転がる。
(なっ……!?)
 巨人プリクソスは片腕をそっくり失っていた。そのため平衡感覚をなくし、足下がぐらつく。
 爆煙を切り裂いてマンティコアが飛びかかり、鋭い爪をふるう。
 一閃。
 切断された羊巨人の頭が、どすん! と地面に落ちた。
 同時に、マンティコアも着地する。
 残ったモプソスの角に、スパークが走る。また電撃が来る。
 マンティコアはもうそちらを見ようともしない。
 まるで銃座のように尾だけがそちらを向き、針を発射する。
 放電と同時に、おびただしい針がモプソスの頭の近くで誘爆した。
 ブオム!
 煙が晴れる前に、モプソスも頭を半分吹き飛ばされて、朽木のように倒れた。
 あの手強い羊巨人二体を、ものの数秒で排除してしまった。
(すごい……!)
 尻餅をついたまま呆然とその有様を眺めていたユニカを、駆けつけたミノンが抱き起こす。
「い、いったい今のは……なにが起こったんだなも?」
「わかんない。どうもまんち子がキレたみたいね」
 頭を振りながら、ユニカが答える。
「あの爆発は……」
「多分、体内で生成する毒の成分を爆発性の化学物質に再合成したんだわ……そんなことができるんなら、だけど」
 グルル……。
 低い唸り声とともに、マンティコアがユニカたちのほうを振り返った。
 その眼はすでに、あのボンクラ少女のものではなかった。
 黄色い、破壊衝動だけをたたえた魔獣のそれだった。
「ひい!」
 ユニカとミノンは、抱き合って身を固くする。
 幸い魔獣は、二人には興味がないようだった。
 マンティコアは家の門扉を爪で切断し、固く閉ざされた玄関ドアもニードルボムで吹き飛ばした。
 そして迷うことなく、家の中へ踏み入っていった。
 ユニカとミノンは手を握りあったまま、しばらく顔を見合わせていた。
「ど、どうしよう。うちらも行くんだなも?」
「そ、そうね。征矢を助けないとね」
 ズズン……!
 家の中から爆発音。家全体がミシミシと揺れる。獣の咆哮。
 ユニカが言った。
「んー、ちょ、ちょっとだけ考えよっか。なんか今、タイミング悪そうだし。ね? ははは」


 ズズン……!
 出し抜けに、建物全体が揺れた。
「なっ、なに!?」
 光莉がふらつき、あたりを見回す。
 グノーメンダーストがひきつった顔で呟く。
「だから言わんこっちゃない。あいつだよ……あいつが帰ってきちまった」
「あいつって誰!?」
「魔王直営の最精鋭、幻獣兵団第八軍団長。〈爆毒暴牙のマンティコア〉メルシャ・マンティコーラ将軍さ」
「まさか! あのおもらしマンティコアが!?」
 グノーメンダーストは引かなかった。
「衰えたとはいえあの魔王が、予言の勇者暗殺の大役をただのヘタレに任せると思うか? いいか嬢ちゃん、おいらっちはな、お前さんより八百年ばかり長く生きてるもんでな、あいつの親世代のマンティコアが、全盛期の魔王軍でどんだけパンタゲアを震え上がらせたか、この目でしっかと見てるんだわ」
 ズズン! ……ズズン!
 爆発音と振動はどんどん間隔を狭め、どんどん近くなってくる。光莉の顔にも不安の影が差し始める。
「こうなったら、おいらっちからの助言はひとつだけだ」
「な、なんです?」
「怒り狂ったマンティコアとエンカウントしたなら、すぐさま逃げろ。おいらっちはそうしてきたし、これからもそうする……てことで、あばよ!」
 言うなり、グノーメンダーストは祭壇から駆け降りていく。
「あっ、どこ行くの!? 儀式はどうしてくれるんですか!」
「勝手にやんな! あと三分で臨界だ! そしたらポータルが開……」
 ドガァン!!
 グノーメンダーストが開けようとしていた扉が、いきなり外から吹き飛ばされた。
 扉の外は、火の海だった。
 炎を背に、怒り狂ったマンティコアが立っていた。
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