翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第一話 ゲームの世界に転生したので推しとお近づきになりたい

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 女神の加護を受けた翠緑すいりょくの勇者エリアスは、人々を苦しませる悪竜を切り伏せた瞬間、前世の記憶を思い出した。
 この世界が前世で遊んでいたシミュレーションRPG【月虹げっこうのレギンレイヴ】の世界であることを。専用の兵種クラスでありながら、成長率とステータス限界がともに大したものではないことを。
 そしてなにより、ゲームのファンの間では『翠緑の勇者』のあとに大量の草を生やされる程度のサブキャラクターであったことを。

「そうだ。修行しよう」
「えっ?」

 この旅で唯一の同行者であるいにしえの魔女の弟子――マーリンが俺の発言に首を傾げる。その表情は旅の目的である悪竜を退治したのにそれ必要? とでも言いたげだ。
 そんなことは気にも留めず、俺が成長率やらドーピングやらぶつぶつ呟いているうちに、マーリンは持っていた杖の一つ――ワープを取り出し、その魔力を俺に向けて放つ。気が付いた時には一番近くの街に転移していた。そして集まる街の人々の視線の先には俺。数秒の間をおいてリワープで転移してきたマーリンに引きずられるがまま、俺は宿屋のベッドに放り込まれた。

「君は悪竜を退治して疲れているようだ。今日はゆっくり休むといい」

 パタンと小さな音を立て扉が閉まる。マーリンに言われた通り俺の頭は疲れていた。
 エリアスの記憶に前世わたしの記憶と知識が急に放り込まれてきたのだ。出来の悪い俺の頭では、とてもじゃないが一気に処理するなど不可能。
 ならば少しずつ重要な部分から整理して、これからの出来事に役立てればいいのではないか。

「まあ、本編に関してはゲームの主人公ルイス王子がどうにかしてくれるだろう」

 他力本願だと言われるかもしれないが実際問題、エリアスのスペックでは一軍入りはほぼ不可能である。
 どれくらい不可能かというとゲーム中盤で仲間になる俺と、序盤で仲間になる剣士ソードマン傭兵マーセナリーのスペックを比べれば一目瞭然。俺が仲間になったころには、力も素早さもステータスに大きな差が開いているなんてよくある話だ。
 そういえばこの成長率の悪さから『エリカス』とか『エリ……なんだっけ?』など散々な言われようでもあった。

 この世界でステータスは一部の兵種を除き、自分の物しか見えない仕様になっている。俺は今現在の自身のステータスを確認した。
 勇者ブレイブレベル7。勇者は固有職なのだが上級職扱いなのでレベルアップは残り十三回しかない。それなのに俺のステータスは余りにも悲惨だ。よくこれで悪竜なんて退治できたなと褒めてやりたいくらいに宜しくない数値が並んでいる。残りのレベルアップをすべて良成長で迎えたとしても、カンストするステータスはどう見ても存在しない。
 成長率に関してはドーピングアイテムで底上げできるのだが、これを入手するためには死の砂漠と恐れられる場所で発掘作業が必要になる。ちなみに幸運が低いと拾えない。そして俺の幸運は7。上限は30。うん、積んでる。ステータスを上昇させるアイテムも在るにはあるが、バカみたいな値段なうえに会員制の店でしか買えない。だから今は別の事を考えよう。

「前世での推しは――ミシェルだ! やった! 親友ポジじゃん!」

 気持ちを切り替えて別の事――人間関係や前世での嗜好を思い出す。ローレッタ聖王国の大貴族リリエンソール公爵家の公子ミシェル。氷の貴公子と呼ばれる美貌の持ち主で、原作では何故か性格が正反対に見えるエリアスと仲が良かったのだ。
 ちなみにこのミシェルも上級職で仲間になるのだが、彼の場合は序盤に仲間になるのと一部の兵種に有利、それでいて専用のイベントがサブキャラクターにしては多いのもあってか、エリアスと同レベルの成長率にも関わらず人気が凄まじかったのだ。主にお姉さまがたに。
 ひとまず最初の目標はミシェルとお近づきになることだ。何がきっかけで親友になったかはさっぱり見当がつかないが、原作ではミシェルの元婚約者がエリアスの恋人になっていることから、その辺が関係していると考えていいだろう。よし、そのあたりを攻めよう。

「え~っと、今って何年だっけ?」

 次に考えるべきはゲーム本編が始まるまでの期間の事だ。確かローレッタ歴624年から五年間くらいが戦争になるんだよな。ゲーム本編は後半の三年だけだから、最初の二年をうまいこと生き残らねば推しとの友情ライフもそこまでだ。
 確か俺が悪竜を退治したのは聖王国の騎士団に入隊――スカウトされる少し前だと小説版に書いてあったな。人気が微妙なキャラのスピンオフ小説が出るなんて吃驚した記憶があるが、前世ではミシェルが出てくるという理由だけで売れていた。エリアス的には解せないが、前世のわたし的には大歓迎で大喜びだった。
 それはまぁ置いておき、具体的な年表を思い出す。あれは設定資料集の十二ページ目から十六ページに亘って注釈とか地図付きで記載されていたはず。そうだ、あと一年後に帝国と近隣諸国が聖王国に攻め込んでくるんだ。

「うわ。一年でステータス大幅アップとか無理だな。ミシェルと仲良くなるの優先で行こう」

 そもそも聖王国軍は実戦経験が乏しい、という表記がゲーム内の随所に見られた記憶がある。エリアスの記憶を思い返しても傭兵時代に見かけた彼らはお荷物でしかなかった。
 実戦経験は上とはいえ傭兵あがり――しかも異教の女神の加護を持った勇者の手解きなど受けたがる者は、無駄にプライドが高い聖王国騎士には存在しないだろう。
 確か原作での恋人とも初対面で一悶着があったのだ。小説版では事細かに書いてある。
 そう。それだ。ミシェルと親しくなったきっかけは、この彼女――ロザリー公爵家の令嬢で聖騎士パラディンのメレディスとの事件がきっかけだ。
 確か彼女が突っかかってきた事――手合わせを申し込まれてエリアスが軽く返り討ちにしてしまったことに関して、迷惑をかけたとかそんな感じでミシェルが謝罪に来るんだ。そこで他の騎士とは心持が違うミシェルと友情が芽生えて、男勝りで負けず嫌いのメレディスとも手合わせを重ねながら親しくなって心惹かれていく。
 エリアスが彼女への思いに気が付いた時に婚約者の存在を知って――しかもそれが親友とも呼べるミシェルなのだが、メレディスの事は妹のようにしか思っていないとか、お互いに異性除け程度にしか思っていないとかそんな感じで身を引いてくれるんだ。ミシェルとメレディスは友情はあるけど愛情はない関係。要するに彼女が俺とミシェルをつなぐ架け橋!

「よし。聖王国からのスカウトが来れば騎士団には入れるし今日はもう寝よう」

 しかしこの時、俺はまだ気が付かなかった。
 聖王国の大貴族――ミシェルの家に男児が生まれていないことを。
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