翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

文字の大きさ
9 / 140
第一部

第九話 草を生やすのはやめろ

しおりを挟む
 森での竜討伐から数週間たった今日、俺は街に繰り出していた。今までは記憶の整理で休暇を潰していたので、久々の自分の時間だ。
 とはいえ、王都には闘技場がないのでレベル上げをしに行くわけではない。傷薬は騎士団から支給されるもので足りるし、装備も騎士団に加入した際に、新しい鎧と銀の剣を貰ったから改めて購入するものがない。
 銀の剣は攻撃力は高いのだが、その代わり修理代が高いし使用回数も鉄の剣に比べると少ないので、貧乏性な俺には使う機会がないため現在も新品同様だ。

「今まで暇なときって何してたっけか……」

 要するに俺は今、目的もなく街に繰り出しているのだ。まだ日が高いから酒を飲みに行く気にもなれないし、なにしようかな。
 こういう日に限ってロビンは仕事だし、メレディスは友人の屋敷でお茶会だ。ミシェルは立場上まだ誘える相手じゃないし、そもそも今日の予定を知らない。
 うんうん唸りながら道を歩いていると後ろから肩を叩かれた。

「久しぶりだな」
「マーリン?」
「別れる前に話し忘れたことがあるので会いに来た。それと確認したいこともできたのでな」

 言いながら俺の腕をつかんだマーリンに連れられるがまま、近くの酒場に足を踏み入れた。こいつ、このあいだのことといい実は酒好きだな。
 適当な席に着くと軽く何品か注文する。地元の酒は無駄に強いからあんまり飲まないって言ってたけど、お前が今注文したのこの辺りじゃ最強クラスの酒だからな。
 それにしても、何か用があるときは弟弟子メテオライトを使いに出すとか言ってたくせに、本人が来るなんて暇なんだろうか?

「それで話したいことってなんだ?」
「わが師のことは、あと五年ほど伏せておいてほしい」
「特に話す相手もいないし、かまわないぞ」

 やっぱり言い忘れていたか。マーリンの師である古の魔女は、俺を女神に引き合わせた際に力を使い果たし亡くなっている。
 もともと高齢だったのもあるのだろうけど、大陸でその名を知らないものが居ないと言わしめるほどの大魔導士の死が公になれば混乱するだろうからな。

「それと師の遺品を一つ、君に渡しておきたい」
「そんなもの貰ってしまっていいのか?」

 マーリンが取り出したのは、何かの魔法陣が描かれた護符タリスマンだ。魔導に関してはからっきしな俺には、この護符がどのようなものなのかさっぱり解らない。

「護符に描かれている文様は、かの女神を示す陣だ。きみ以外で役立てられるものは居ないだろうな」
「使い方は?」
「わからぬ」
「はぁ?」

 翠緑の勇者専用アイテムらしいこの護符は、使い方不明という困ったものだった。
 ゲームにはこのようなアイテムは登場していないし、設定資料集の没アイテム一覧にも掲載されていなかったはずだ。

「それと確認したいことなんだが」
「マーリン様~、そろそろ僕もそっちに混ざっていいですか?」
「あぁ、エリアス。これは弟弟子のテオだ。君に確認したいことがあるというのは彼だ」

 このタイミングで彼が接触してくるだなんて、いったいどういう了見だろうか?
 テオことメテオライトの正体は、ローレッタ大陸の北方にあるシスル王国の王子だ。といっても父王との不仲などいろいろあって廃嫡され、国外追放された身である。
 ゲームでの登場時は旅の吟遊詩人を名乗る胡散臭い男で、軽い言動と薄っぺらい性格をしているという仮面をかぶっているが、実際はこのマーリンや権謀術数が得意なリリエンソール家と同じ食わせ者タイプだ。
 まてよ、吟遊詩人ということは、もしかしてこいつが俺の武勇伝を広めた張本人か?

「初めまして勇者さま。僕はマーリン様の弟分のテオ。よろしくね」
「よ、よろしく。それで俺に聞きたいことって何だ?」
「ドーピングアイテムは手に入った?」
「ぶふぁっ!」

 お前ステータス低いんだろ? と言いたげな表情で投下された爆弾に、俺は盛大にエールを吹いた。
 こいつと話をするときは、口に物を含んではいけない。予想外の攻撃を受けた時に対処できん。

「こら、テオ。流石にそれは失礼だろう」
「いやまさか、このステータスで悪竜倒せるとは思ってなくって」

 えっ、なに? マーリンはゲームでの兵種が軍師だったから、俺のステータスくらい見えてそうだけど、メテオライトも俺のステータス知ってるの?
 なにそれなんで? マーリンさん、もしかしてまた酒で口滑らせた?

「ふむ、別れた時からレベルが1増えただけか」
「流石に上級職だと、その辺の賊とか魔物相手じゃ上がりにくいですよ」
「成長率をどうにかしてやれれば一番なのだがな」
「こればっかりは僕達じゃどうしようもないですって」

 なんだこの二人。俺のこと罵倒しに来たのか?
 メテオライトの表情が殴りたいレベルでむかつくんだが。草生やしにきたんだったら帰ってくれないかな。
 森で竜を退治した時は殆どはミシェルがHPを削ったのだが、止めを刺したのが俺だったのもあって経験値が大量に入ったからレベルは1増えてるけど、それでも俺にしては良成長だったんだぞ。

「草を生やさないでくれるか?」

 なるべく判り易いように怒りを表しメテオライトを睨む。思わず前世で使用していた言い回しをしてしまったが、意味が通じなくても気にしない。
 しかし彼は動じないどころか、少し嬉しそうに笑った。そして、

「やっぱり君も転生者だったみたいだね。草が生えてるように聞こえたってことは日本人かな? 僕以外にも居てくれて嬉しいよ」
「もしかしなくても、お前が俺の武勇伝を爆発的に広めた張本人か。そして草を生やすな」

 何がおかしいのか、メテオライトは俺の顔を見て大笑いしながら酒を飲んでいる。こいつ酔うの早くないか?
 気分がよくなってきているらしくハープを取り出すと、酔っているとは思えないほど繊細な手つきで演奏を始める。

「そーだよ~。僕が王都で君の武勇伝広めたんだ。いや~、まさか転生者とはねぇ。草も生やしたくなるよ」
「悪竜退治の時点ならまだ生やす必要ないだろ。まさかマーリンも」
「いや、私は違うぞ。テオが師に弟子入りしてきた時に奇怪な発言をしているものだから、問いただして色々と聞いているだけだ」
「予定より早めに国を出てきたから、興味を持ってもらうのに必死だったんですよ」
「まぁ、そういうわけだから何かあったら相談にのってくれるそうだ」
「僕もあと半月くらいはこの辺でうろうろしてるから、用があるときは適当な酒場に顔出してね」

 何というふざけたやつだ。原作ではポロンポロンペペーンって感じだったくせに、生演奏だとハープ滅茶苦茶うまいぞ。
 というかこの世界で吟遊詩人バードの兵種スキル【奏でる】での味方の再行動ってどういう扱いなんだ? ゲームではやる気を奮い立たせる、みたいな説明文しか無かったからよくわからないぞ。
 しかし酒場に顔を出せば会えるのか。俺の持っている情報は、ほとんどが武器データやキャラクターの成長率といったゲーム本編でしか役に立たない情報が多い。かなりやりこんでいた自覚があったのだが、細かい話の流れ――ましてや情報に穴が多い本編前となると、考えてもどうしようもないことが多すぎる。記憶の整理なんかもかねて、時間があるときにでも話を聞いてもらうとしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

道化たちの末路

希臘楽園
ファンタジー
母亡き後、継承権もない父と愛人母娘が公爵家を狙い始めた。でも私には王太子という切り札がいる。半年間、道化たちが踊るのを、私たちは静かに楽しんで見ていた。AIに書かせてみた第3弾。今回も3000文字程度のお気楽な作品です。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ

猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。 当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。 それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。 そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。 美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。 「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」 『・・・・オメエの嫁だよ』 執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...