翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第一部

第二十二話 喪失

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 竜騎士ワイバーンナイトとの遭遇後は特に襲撃を受けることもなく進み、今はロザリー港を目前に控えた場所にいる。
 港町の様子を探るために偵察を出して確認したところ、まだ敵国の手は伸びていないようで、人々はいつも通りとはいかないが穏やかな生活をしており数は少なくなっているが、まだ船も出ているようだ。
 ここからの移動はロザリー家が懇意にしている商会の船に同乗させてもらうことになっている。大陸中で商売をしている商会なので荷物を運ぶことに特化した船なのだが、木箱などを大量に積み込むので人や物を隠すのに向いている構造をしている。なので万が一の際は、王族には不便かもしれないが荷物の中に隠れてもらうことになる。

「平和な時だったら、この町で獲れる魚介類を味わってもらいたいところなんだけど」
「なに、すぐに戻ってこれるよう頑張ればいいのさ」
「……そうね」

 商会のものたちが荷物を運びこむのに紛れ混ませるように王族と護衛の騎士たちを忍ばせるのを見守っていると、隣に立っていたメレディスが町並みを眺めながら寂しそうに話しだした。
 この港町は彼女の実家であるロザリー公爵家の領地なので、子供のころから馴染みのある場所なのだろう。内陸部では滅多にお目にかかれないような魚介類が店先に並んでいたりもして、前世の記憶も相まってか刺身が恋しくなったのはついさっきのことだ。

 荷物の積み込みが終わり、あとは俺たちが乗り込むだけというところで港に早馬に乗った男が駆け込んできた。俺には見覚えのない相手だがメレディスの知っている相手のようなので応対は彼女に任せることにする。
 転げ落ちるように下馬すると、余程急いできたのか乱れた息を整えようとしている。
 男の身なりからしておそらくはロザリー家の密偵か何かだろう。この慌てようからするともしかして……

「め、メレディス様……聖王国が、王都アヴァロンがシスル王国軍を中心とした帝国軍の連合によって陥落したとのことです」
「……陛下やお父様、モンタギュー様やミシェルはどうなったの?」
「レックス様は漆黒の聖騎士との一騎打ちに敗れたのち、他の有力諸侯と共に処刑されました。その後まもなく陛下の処刑が行われたようですが、リリエンソール家のお二人に関しては渓谷での戦いで行方知れずに……」
「そう……ここまで来るのに疲れたでしょう? ゆっくり休みなさい」

 わかってはいたが、王都に着いてから散々世話になったレックス殿の死は衝撃だった。だが彼の娘であるメレディスはもっと辛いだろう。
 親の死に目に一目会う事すらできなかったのだ。レックス殿の立場ならその首が晒されていても可笑しくはない。
 別れ際に男から渡された手紙を眺めているメレディスの瞳には涙が滲んでいた。ちらりと見えた文字はレックス殿のものだ。
 この手紙はレックス殿の遺書なのだろう。あらかじめ用意していたものなのか、戦地にて書き綴ったものなのかは内容を知らない俺には判別できない。
 でもメレディスが必死に涙を流すのを堪える姿を眺めるのは胸が痛くなった。

「今のうちに泣いとけ」

 手紙を握りしめたまま動かないメレディスを抱きしめて他の人から顔を隠す。
 恋人でもない男にこんなことされるのは彼女もいやだろうが、今この場で彼女に胸を貸してやれるのは俺しかいない。
 少し驚いたようではあるがメレディスはそのまま静かに泣き出した。

「ありがとう。少しすっきりしたわ」

 しばらく泣いた後メレディスはそっと俺から離れた。

「……無理はするなよ」
「えぇ。わかっているわ」

 泣きはらした目は少し腫れているが、いつまでも他のみんなを待たせるわけにもいかず船に乗り込んだ。
 先ほど受けた報告をグレアム王子たちにも知らせる必要がある。

「殿下たちには俺から伝えようか?」
「いえ。これは私の役目よ」

 布を水筒の水で濡らし、目元を冷やしながら歩いていく彼女に続き船室に入る。
 そこには、乗り込むときは荷物と共に隠れていた王子たちが待っていた。

「本国に潜ませていた我が家の密偵から知らせがありました。王都アヴァロンが陥落し、陛下と諸侯たちが処刑されたというものです」

 少し震えた声でメレディスが報告すると、皆が息をのむ音が聞こえた。
 グレアム王子は気丈に振舞おうとしているが、やはり動揺を隠せないようだ。アントン王子は顔を青ざめさせ震えあがり、フェイス王女は両手で顔を覆うと静かに涙を流した。

「レックスも戦死したとなると、聖王国の正規軍は瓦解したも同然か……リリエンソール家のほうで生き残っているものの情報はあるか?」
「モンタギュー殿とミシェルはリリエンソール渓谷での戦い以降は行方不明、本国にいたものたちは処刑されたようですが領地にいるものたちは生存しているようです」
「ふむ。ミシェルはワープとリワープが使えるのだったな。上手く落ち延びてくれていることを祈るしかない」

 武家の名門であるロザリー公爵家の当主が戦死したというだけで、聖王国軍の士気が下がるのは当然といえばそうなんだろう。
 リリエンソール家が全滅していないのが唯一の救いでもあるが、彼らもどれくらい持つかは判らない。
 しかしそうか、ワープとリワープを使えるミシェルが居れば、自分も味方も数人だけなら戦場から離脱できるんだ。
 彼女とは生きてまた会うと約束したんだ。きっとそのうち、初めて会った時のようにひょっこりと姿を見せてくれるのではないだろうか。

 俺たちはこの船旅のあいだ、敵の襲撃がないか見張るために交代で甲板で見張りをすることになっている。なので部屋から出ようと挨拶したところで、メレディスがフェイス王女に引き留められた。

「メレディス、辛かったらどうか私に話してくださいね」
「フェイス様……勿体ないお言葉でございます」

 そういえばこの二人は幼馴染でもあるんだったか。ゲーム中では他人が居ない状態での会話はこんなに畏まった言葉遣いをしていなかったと思うので、メレディスの心のケアは王女に任せるべきなのだろう。
 いち友人でしかない俺よりよっぽど適任だろうし、仲のいい同性の友人のほうが話しやすいだろう。傷の種類が同じなので心配なところもあるが、彼女たちに限って早まった真似はしないはずだ。

 さて、ここからの問題は幾つかある。一つはロザリー港からハイドランジアのコナハト港まで、天候にもよるが十日ほどかかることだ。もう一つは俺は乗り物酔いが激しいこと。
 俺は乗り物酔いと敵軍をまとめて相手にしたくないので、どうかこの船旅のあいだは平和でありますように!
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