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第一部
第四十一話 王子二人
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ローレッタ本土に上陸後、いくつかの戦闘を乗り越えやっとのことでリリエンソール渓谷に辿り着いた解放軍は、偵察を繰り返しながら進軍を続けている。
俺たちは先行する騎兵部隊に続くようにして入り組んだ渓谷の細長い道を進んでいた。岩肌をなぞった強い風が音を立て鳴り響き、顔に吹きかける砂が鬱陶しく感じる。
「やっとここまで来たな」
「おう。アゲート殿やメレディスお嬢さんが居なくて寂しくねぇか?」
「なに。すぐ近くにいるだろ」
ベルトラムたち傭兵隊に混ざり俺は砂利だらけの道を歩いている。
歩兵で構成されるこの隊には、ベルトラムの傭兵隊とゲールノートたちハイドランジアから付いてきた傭兵たちがいる。
そのすぐ後ろには魔導士や弓兵が配置されており、万が一シスル軍から挟撃されたときのことを考えて一番後ろには重騎士隊が配置されている。
「何の問題もなく進めりゃいいけどなぁ」
「ここまで来てそれはないだろう」
「また合成獣とかいう化け物が出てきたりしてな」
「はははっ、冗談はよしてくれ」
そういえばそろそろ魔女キルケが本格的に解放軍の妨害を始めても可笑しくない時期だ。
合成獣がどの程度の頻度で作られているのかは分からないが、そろそろ敵軍の中に『竜』あるいは『竜族』が混ざり始めても不思議ではない。
「ん? 天馬騎士が血相変えて戻ってきたみてぇだな」
俺たちの頭の上を飛び越え戻ってきた天馬騎士は、少し後方にいたルイス王子になにやら報告をしているようだ。
前方の隊の指揮官たちにも報告が向かっているのか至る所に天馬が羽ばたく姿が見える。
その後まもなく、各隊の指揮官がルイス王子のもとに集められた。
「どうやら渓谷を越えた先に帝国軍が布陣しているらしいんだけど、その中に数体の『竜族』が混ざっているみたいだ」
竜族はその身を人の姿から竜に変えることができる理性を持った長命の種族だ。偵察が『竜族』と断言したという事は変身したところを目撃した可能性が高い。
今の解放軍がもつ竜族に対抗出来うる手段は、先日ハイドランジアで入手した【神炎フリスト】と俺が持つ【聖剣テミス】だけだ。
魔法もある程度はダメージを入れることができるのだが、撃破を目指そうと思うと氷の魔女くらい強い魔力を持っている魔導士が複数必要である。
「帝国は今まで奴隷兵を中心としていたから、敵に『竜族』がいるとは思ってもみなかった。我が軍にはまだ【神炎フリスト】を扱えるような魔導士は存在しない」
「数はどれくらい居るのですか?」
「偵察に出たものが見たのは一体だけみたいだけど、その竜族は特徴的なローブを身に纏っていて他にも同じローブを身に纏っている者が五人ほど確認できたそうだ。それに……何か獣を閉じ込めた檻が複数置かれているらしい」
竜に変身したものと同じローブを来た帝国兵が五人ということは、少なくとも六体の竜族が居るという事になる。
ルイス王子が表情を曇らせながら続けて話したのは、おそらく魔物が入った檻だろう。帝国軍が相手という事から合成獣《キメラ》とみてまず間違いない。
「檻の中身が合成獣だとしたら厄介ですね」
「ああ。こんなことなら父上に無理を言ってでも【神剣スクルド】を持ち出すべきだった」
ゲームではここまで落ち込むルイス王子は見たことがないが、確かに現状のアイリス王国であれば【神剣スクルド】を持ち出すのは容易かったかもしれない。
しかし無いものは仕方がないのだから別の策を考える必要がある。それに解放軍の指揮官であるルイス王子がこの様子なのは余りにもよろしくない。
「ルイスよ。指揮官を務めるお前がそのような姿を晒してどうする」
「グレアム殿下……」
「私には戦の経験は殆どない。だが、このリリエンソール渓谷の運用方法であれば幼いころよりモンタギューから嫌になる程に聞かされている」
黒い戦装束に白い鎧を纏ったグレアム王子はルイス王子に叱責を飛ばしたのち不敵に微笑んだ。
そうだ。このグレアム王子はリリエンソール家の知識を吸収している。そうであれば、あとは実戦経験のある者がその知識を利用し策を弄すればいい。
ゲームに登場したリリエンソール渓谷での戦いは、敵軍がオニキス旗下でないシスル軍だったので落石や伏兵といった基本的なものだっただけで、この地をよく知るリリエンソール家の者からすれば児戯に等しい使い方だったのかもしれない。
「周囲に居る敵軍は今のところ渓谷の向こうにいる帝国軍だけであったな。では悟られぬうちに下ごしらえを済ませるぞ」
下ごしらえという言い回しはグレアム王子が使うにはなかなかに面白いかもしれない。多分モンタギュー殿に聞かされた話がそのまま耳に残ってしまっているのだろう。
グレアム王子の知識とルイス王子に呼ばれ前方から戻ってきたバーナード将軍の助言もあり、俺たちは急ぎ周囲の工作を始めることとなった。
まず先日撤収していったシスル王国軍が放置していった落石計に用いる岩の確認。
次にグレアム王子に教えてもらった場所――ゲームで登場した際は画面外だった場所で俺も初めて存在を知った三方向を高い崖に囲まれた『天牢』という地形を周囲も含めて確認した。
さらに離れたとことには水場もあったのだが、水計は準備に時間がかかるという事で今は現実的ではないとの理由で却下され、変わりにもてる限りの弓矢が準備された。
少々危険はあるが機動力のある騎馬部隊が囮となり渓谷の向こうに布陣する帝国軍を少しずつおびき寄せ、いくつか脇道のある場所で敵を分断し更に落石によって退路を塞ぐというのが最初の段階だ。
これで釣り出す敵部隊は騎馬部隊を想定しているので、誘い込んだ場所には斬馬刀を持った傭兵たちが待ち構え居る。
騎兵を誘い込んだ後は残りの敵も突撃してきてくれるよう仕向けるため、ルイス王子とグレアム殿下にはあえて目立つ場所に立ってもらうこととなった。
竜族は変身の有無にかかわらず移動範囲が狭いという事を逆手に取り、先ほど挙げた『天牢』に誘い込んで各個撃破を目指すのだが、魔導士の数が総じて足りていないので弓兵にも火矢で戦いに加わってもらうこととなる。こちらの誘い出しは歩兵や騎兵では逃げ場が無くなるという観点から、天馬騎士団が担当してくれることとなる。
現状では唯一、竜族に安定したダメージを入れられる俺は状況に合わせて戦場を移動する必要があるとのことで、輸送役として竜騎士であるイレーヌ王女と共に行動することとなった。
「飛竜が触れられると嫌な場所は首の裏だけだから、そこには触れないようにしてやってくれ。ルシアは基本は従順だがこれだけは怒り狂って降り落されてしまう」
「わかった。それにしても変わった鞍だな?」
「シュゼットがたまに飛竜へ乗りたがるので相乗り用に拵えさせた鞍だ。これには取っ手があるからそこをしっかり掴み、足は乗馬と同じようにしていれば落ちることはない」
イレーヌ王女は俺と行動するために通常のものとは違う鞍を飛竜――ルシアに取り付けているところだ。
敵を誘い出すまでにまだ時間があることから飛竜での飛行になれるためにと、このあと少し偵察もかねて乗せてもらうことになっている。
末っ子であるシュゼット王女は二人の姉に比べると子供っぽさが目立つキャラクターで、イレーヌ王女が彼女を乗せて飛行している姿は容易に想像できた。きっと次女が隣で苦笑しながら三人で仲良く空中散歩をしたことがありそうだ。もしかしたら長兄であるウォルターが一緒だった時代もあるかもしれない。
準備が終わり休憩を交えつつ周囲を飛び回ったところで夕暮れとなり、俺たちはそれぞれの隊へと戻ることとなった。
俺たちは先行する騎兵部隊に続くようにして入り組んだ渓谷の細長い道を進んでいた。岩肌をなぞった強い風が音を立て鳴り響き、顔に吹きかける砂が鬱陶しく感じる。
「やっとここまで来たな」
「おう。アゲート殿やメレディスお嬢さんが居なくて寂しくねぇか?」
「なに。すぐ近くにいるだろ」
ベルトラムたち傭兵隊に混ざり俺は砂利だらけの道を歩いている。
歩兵で構成されるこの隊には、ベルトラムの傭兵隊とゲールノートたちハイドランジアから付いてきた傭兵たちがいる。
そのすぐ後ろには魔導士や弓兵が配置されており、万が一シスル軍から挟撃されたときのことを考えて一番後ろには重騎士隊が配置されている。
「何の問題もなく進めりゃいいけどなぁ」
「ここまで来てそれはないだろう」
「また合成獣とかいう化け物が出てきたりしてな」
「はははっ、冗談はよしてくれ」
そういえばそろそろ魔女キルケが本格的に解放軍の妨害を始めても可笑しくない時期だ。
合成獣がどの程度の頻度で作られているのかは分からないが、そろそろ敵軍の中に『竜』あるいは『竜族』が混ざり始めても不思議ではない。
「ん? 天馬騎士が血相変えて戻ってきたみてぇだな」
俺たちの頭の上を飛び越え戻ってきた天馬騎士は、少し後方にいたルイス王子になにやら報告をしているようだ。
前方の隊の指揮官たちにも報告が向かっているのか至る所に天馬が羽ばたく姿が見える。
その後まもなく、各隊の指揮官がルイス王子のもとに集められた。
「どうやら渓谷を越えた先に帝国軍が布陣しているらしいんだけど、その中に数体の『竜族』が混ざっているみたいだ」
竜族はその身を人の姿から竜に変えることができる理性を持った長命の種族だ。偵察が『竜族』と断言したという事は変身したところを目撃した可能性が高い。
今の解放軍がもつ竜族に対抗出来うる手段は、先日ハイドランジアで入手した【神炎フリスト】と俺が持つ【聖剣テミス】だけだ。
魔法もある程度はダメージを入れることができるのだが、撃破を目指そうと思うと氷の魔女くらい強い魔力を持っている魔導士が複数必要である。
「帝国は今まで奴隷兵を中心としていたから、敵に『竜族』がいるとは思ってもみなかった。我が軍にはまだ【神炎フリスト】を扱えるような魔導士は存在しない」
「数はどれくらい居るのですか?」
「偵察に出たものが見たのは一体だけみたいだけど、その竜族は特徴的なローブを身に纏っていて他にも同じローブを身に纏っている者が五人ほど確認できたそうだ。それに……何か獣を閉じ込めた檻が複数置かれているらしい」
竜に変身したものと同じローブを来た帝国兵が五人ということは、少なくとも六体の竜族が居るという事になる。
ルイス王子が表情を曇らせながら続けて話したのは、おそらく魔物が入った檻だろう。帝国軍が相手という事から合成獣《キメラ》とみてまず間違いない。
「檻の中身が合成獣だとしたら厄介ですね」
「ああ。こんなことなら父上に無理を言ってでも【神剣スクルド】を持ち出すべきだった」
ゲームではここまで落ち込むルイス王子は見たことがないが、確かに現状のアイリス王国であれば【神剣スクルド】を持ち出すのは容易かったかもしれない。
しかし無いものは仕方がないのだから別の策を考える必要がある。それに解放軍の指揮官であるルイス王子がこの様子なのは余りにもよろしくない。
「ルイスよ。指揮官を務めるお前がそのような姿を晒してどうする」
「グレアム殿下……」
「私には戦の経験は殆どない。だが、このリリエンソール渓谷の運用方法であれば幼いころよりモンタギューから嫌になる程に聞かされている」
黒い戦装束に白い鎧を纏ったグレアム王子はルイス王子に叱責を飛ばしたのち不敵に微笑んだ。
そうだ。このグレアム王子はリリエンソール家の知識を吸収している。そうであれば、あとは実戦経験のある者がその知識を利用し策を弄すればいい。
ゲームに登場したリリエンソール渓谷での戦いは、敵軍がオニキス旗下でないシスル軍だったので落石や伏兵といった基本的なものだっただけで、この地をよく知るリリエンソール家の者からすれば児戯に等しい使い方だったのかもしれない。
「周囲に居る敵軍は今のところ渓谷の向こうにいる帝国軍だけであったな。では悟られぬうちに下ごしらえを済ませるぞ」
下ごしらえという言い回しはグレアム王子が使うにはなかなかに面白いかもしれない。多分モンタギュー殿に聞かされた話がそのまま耳に残ってしまっているのだろう。
グレアム王子の知識とルイス王子に呼ばれ前方から戻ってきたバーナード将軍の助言もあり、俺たちは急ぎ周囲の工作を始めることとなった。
まず先日撤収していったシスル王国軍が放置していった落石計に用いる岩の確認。
次にグレアム王子に教えてもらった場所――ゲームで登場した際は画面外だった場所で俺も初めて存在を知った三方向を高い崖に囲まれた『天牢』という地形を周囲も含めて確認した。
さらに離れたとことには水場もあったのだが、水計は準備に時間がかかるという事で今は現実的ではないとの理由で却下され、変わりにもてる限りの弓矢が準備された。
少々危険はあるが機動力のある騎馬部隊が囮となり渓谷の向こうに布陣する帝国軍を少しずつおびき寄せ、いくつか脇道のある場所で敵を分断し更に落石によって退路を塞ぐというのが最初の段階だ。
これで釣り出す敵部隊は騎馬部隊を想定しているので、誘い込んだ場所には斬馬刀を持った傭兵たちが待ち構え居る。
騎兵を誘い込んだ後は残りの敵も突撃してきてくれるよう仕向けるため、ルイス王子とグレアム殿下にはあえて目立つ場所に立ってもらうこととなった。
竜族は変身の有無にかかわらず移動範囲が狭いという事を逆手に取り、先ほど挙げた『天牢』に誘い込んで各個撃破を目指すのだが、魔導士の数が総じて足りていないので弓兵にも火矢で戦いに加わってもらうこととなる。こちらの誘い出しは歩兵や騎兵では逃げ場が無くなるという観点から、天馬騎士団が担当してくれることとなる。
現状では唯一、竜族に安定したダメージを入れられる俺は状況に合わせて戦場を移動する必要があるとのことで、輸送役として竜騎士であるイレーヌ王女と共に行動することとなった。
「飛竜が触れられると嫌な場所は首の裏だけだから、そこには触れないようにしてやってくれ。ルシアは基本は従順だがこれだけは怒り狂って降り落されてしまう」
「わかった。それにしても変わった鞍だな?」
「シュゼットがたまに飛竜へ乗りたがるので相乗り用に拵えさせた鞍だ。これには取っ手があるからそこをしっかり掴み、足は乗馬と同じようにしていれば落ちることはない」
イレーヌ王女は俺と行動するために通常のものとは違う鞍を飛竜――ルシアに取り付けているところだ。
敵を誘い出すまでにまだ時間があることから飛竜での飛行になれるためにと、このあと少し偵察もかねて乗せてもらうことになっている。
末っ子であるシュゼット王女は二人の姉に比べると子供っぽさが目立つキャラクターで、イレーヌ王女が彼女を乗せて飛行している姿は容易に想像できた。きっと次女が隣で苦笑しながら三人で仲良く空中散歩をしたことがありそうだ。もしかしたら長兄であるウォルターが一緒だった時代もあるかもしれない。
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