翠緑の勇者は氷の魔女とお近づきになりたい

大鳳ヒナ子

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第三部

第02話 故郷

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「いや~。君らが護衛してくれて助かったよ! またよろしく頼むぜ!」

 無事に街までたどり着くと、馬車の御者から礼だと言われて、本来であれば馬車の運賃への割引だけなはずの報酬に追加が出た。
 他の乗客は既に降り、それぞれ目的の場所を目指して去っていている。時間もちょうど良いので、昼食でも済ませてしまおう。そう決めてからは、この街では慣れ親しんだ食堂へとベルトラムと二人で向かう。

 リリエンソール公爵領の最北端にあるシスル王国との国境の街――そこが俺の故郷だ。
 帝国との戦争では進軍経路からズレていたのもあり、殆んど被害が無かったようだが、それでも流通などが滞っていたせいもあって被害がないとも言い切れなかった。

 今回、俺がこの街に帰ってきたのは街の様子の確認だ。帝国との戦いが終わって一年以上が経過したローレッタ大陸各地での復興具合の調査である。
 役人が来ては大掛かりになるし、そもそも先代の聖王と共に処刑された貴族がそこそこおり、それに伴う当主の代変わりがあったばかりの家も多数ある。そのせいもあって人手が足りていない状況なので正式な視察などは難しい。
 そもそも公爵家が管理している地域なので聖王国の役人では権限など無いに等しいそうだ。この辺りはリリエンソール家の成せる技なのだろう。

 街の様子を軽く観察しながら移動して食堂に付くと、ちょうど昼時とあって非常に混雑していた。国境近くの街というのもあって、様々な場所から旅人や行商人が行き交うので、馬車の到着が集中するような時間はこうして込み合うのは慣れたものだ。
 カウンターが丁度空いたのでそこに座ると、よく見知った女主人が注文を取りに来る。

「いつもの煮込みってまだ残ってるか? あったらそれとミートパイ、腸詰肉とチーズも幾つか適当に頼むぜ」
「俺は川魚のフライと揚げポテト。あとはサラダに、今日のスープは何があるんだ?」
「ベルトラム、アンタ運が良いね。すね肉の煮込みはこれが最後の一杯だ! エリアスのほうは今日のスープは野菜と鳥のスープか、コーンとベーコンのスープだね。しっかし珍しい。あんた昔は野菜なんて自分から喰わなかったじゃないか」
「ははは。旅の仲間に栄養管理され続けたせいで、食べなきゃって植え付けられたんだ。スープは野菜と鳥ので頼むよ」

 俺の食事の仕方が変化したのはマーリンの仕業である。前世の記憶が戻るより前に二人で旅をしていた期間はおおよそ一年弱。今考えてみれば、なかなかの強行軍で悪竜退治をしていたものだが、当時の俺の体調管理の一環としてマーリンに栄養管理されていた。その時に野菜も食べろと矯正され現在に至る。

「ベルトラムも少しは見習ったらどうだい?」

 そのまま食事を済ませながら最近の街の様子を店の女主人や、近くに座っていた顔見知りなんかに確認する。特に変わった様子はないらしく、それどころか俺に恋人ができたという話が広まっているようで、結婚はいつなのかとか根掘り葉掘り聞かれる。

「そんじゃあ、俺はギルドのほうに顔出してくるわ」
「ああ。次の仕事が見つかるといいな」
「訓練所で新しい兵種の講習も始めたらしいから、お前も時間があったら見学しとけよ!」

 ベルトラム傭兵隊はスターチス伯爵家との契約期間が満了を迎えたのを機に、拠点を移動させたいらしい。
 それなりに名声のあるベルトラム傭兵隊であれば、この街の傭兵ギルドに拘る必要はない。他との兼ね合いや今まで世話になっているという義理堅さからこの街のギルドで新しい仕事を探すようだ。手をひらひらと振りながらベルトラムは街の雑踏へと去っていった。

 俺の目的は市場の様子を始めとした街の様子の確認だが、ベルトラムの言うように傭兵ギルドの訓練所は数年前まで世話になっていたので出来れば顔を見せておきたい場所だ。
 会計を済ませると食堂を後にする。

(まずは市場からだな。物品の流通量と価格のチェック。世間話がてら困っていることの聞き取りに……)

 俺が王都を出発する前に、この仕事を頼んできたのはリリエンソール公爵であるモンタギュー殿だ。
 まだ公務に不慣れなグレアム陛下を補佐するために長らく領地に戻れないでいることに困っていたそうで、一族の人間や部下以外が見聞きした領地内の様子を知りたいと頼まれて帰郷ついでだから丁度いいと引き受けた。

 露店で果物を幾つか購入して、それを齧りながら街の様子を確認して回る。これといって気になる点もなく、街のみんなも変わった様子はない。多少建物が立て直されたりもしているが、かつてと同じ賑わいに包まれていた。
 大通りを抜けて暫く進んだところで、子供のころから親父に連れられて何度か顔を出していた自警団の詰め所を軽く覗いてみる。どうやら今年は新人が増えたようで訓練や指導に忙しそうだ。

「お~! エリアスじゃねえか! 帰ってきてたんなら言えよな~!」
「うわっ! おい、引っ張るなって!」

 すぐに立ち去るつもりでいたが自警団に所属している知り合いに捕まり、そのまま暫く新人の訓練に付き合わされる。
 さすがに普段は親父が手解きしているだけあり、新人でも武器の振るい方がしっかりしていた。そのままみっちり数時間も訓練に付き合わされ、気が付けば日が傾きかけている。

 その後はベルトラムに教えて貰ったように傭兵ギルドの訓練場も覗いたのだが、新しい兵種の講習は時間外となってしまったようだ。今日のところは諦めるしかない。

 実家に向かう前に親父の職場である鍛冶屋を覗いてみると、ついさっき帰ったところだと教えて貰う。
 親父は過去の怪我が原因で足が悪い。全く歩けないという訳ではないが、片足を引き摺っているような状態だ。走ればすぐに追いつけるだろう。

 俺は真っすぐと実家を目指して走る。家の目の前まで着いたところで、扉に手を掛ける親父の後ろ姿が見えた。親父は足音で俺だと気が付いたのか、ゆっくりと振り返る。その表情は不機嫌そのものであった。

「エリアスお前……どのツラ下げて帰ってきやがった」
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