魔法少年部のマネージャー!

ぽめ子/七転ぽめお

文字の大きさ
26 / 27

025、ひとりになって

しおりを挟む
 部屋に戻り、柔らかなベッドの中に身を埋めると、ようやく一日の疲れが押し寄せてきた。
 あれから、隠し部屋でのあの出来事の後――部室には目々澤部長と蓮華寺先輩がまだ残っていた。隠し部屋に行く前に部長が言っていたことを思い出し、どうしていいかわからずに戸惑ってしまったが、部長は「今日は早く帰れ」と、いつものぶっきらぼうの様子で私達を追い出した。
 そうして、白人先輩と累は、私を家の前まで送ってくれた。

「目々澤部長は強がってるだけだよ。あれは有理須ちゃんとしたがってるね」

 なんて、白人先輩の軽口に照れながら、私たちは日常――みたいな顔をしてそれぞれの家へと帰っていった。

 けれど、心の中にはまだ重たい何かが残っている。天井を見上げながら、今日の出来事を振り返っていた。

 ――あの天使。

 ベッドの中で一人になって、頭の中に蘇るのは、体育館で見たあの恐ろしいまでに美しい姿だ。背中の翼、透き通るような白い装束、虚ろな赤い瞳。そして私の名前を呼んだ、直接意識に刻み込まれるような声。

「はいざきありす」

 その声を思い返すたび、背筋が冷たくなる。まるで、私の全てを見透かされたような感覚。天使はなぜ私の名前を知っていたのだろう――

 胸の奥で小さなざわめきが起こる。あの時の感覚を、無理やり追い出そうとするかのように布団をぎゅっと握りしめるが、それでも消えない。何かが、私に問いかけている気がする。

 ――私、何か……特別なの?

 思わず口に出してしまった言葉。誰に答えを求めているわけでもない。ただ、自分の中にある漠然とした不安をどうにかしたかった。
 魔法少年部のマネージャー。マネージャーとして、魔法少年たちに力を与える。
 それ自体、確かにおかしなことだ。
 この力。
 そして、あの天使。
 そもそも、なんでこの学園に、街には怪物が現れているんだろう。
 考えれば考えるほど、わからないことが多い。どんどんと頭が冴えてしまい、眠りは全くやってくる気配がない。
 目を開けて見ると、カーテンの隙間からちょうど細い、糸のような三日月が覗いていた。

 その時、ベッドの上に小さな光の球が急に出現した。

「えっ?」

 魔法少年部の部員たちが力を得た時の温かな光と違う、冷たい――青白い光だ。
 その光は徐々に形を変え、人のような形になる。その形は――

「て、天使?」

 光が収まると、あの天使がベッドの上に浮かんでいた。
 しかし、体育館で感じたほどの、神々しい恐ろしさは感じなかった。いや、恐ろしいほどに美しくはあるのだが、それでも、なんといえばいいのだろう。少し人間のような瞳をしている、と言えばいいだろうか。
 中性的な顔は、まるで完璧に彫り上げられた大理石像のようで、目を逸らしたくなるほど美しかった。透き通るほどに白い肌は冷たささえ感じさせ、その髪は月光をそのまま編み込んだかのように淡く輝いている。真紅の瞳は静かな湖に血を垂らしたように深く、毒々しいほどに赤い唇は、触れるだけで命を奪われるような錯覚を覚える。
 背中の翼は、体育館で見た時よりも、わずかに力を失ったかのようなその姿は、かえって人間味を感じさせた。
 天使は、その瞳をゆっくりと動かし、私の方を見てくる。
 目が合った瞬間、全身に氷の刃が走ったような感覚が襲った。
 息を呑む間もなく、心臓が握り潰されるような痛みに襲われ、頭の中は白くなる。恐ろしくて逃げたいのに、体が動かない。視線をそらそうとしても、あの赤い瞳に釘付けにされてしまい、わずかな動きすら許されないように感じた。

 ――どうしよう。

 体育館での、あの惨状が頭をよぎる。
 力を得た魔法少年たちでも歯が立たなかった、あの天使。いや、これは同じ天使なのだろうか、わからない。同じ天使だろうが、違う天使だろうが、私には怪物と戦う能力がない。
 なんとかして、部員に連絡を取って助けてもらう……?
 スマホは、勉強机の上で充電をしている。
 そんなことを必死でぐるぐる考えている間も、天使は何もしてこなかった。
 
「はいざき、ありす」

 そのぷっくりした唇を開き、その天使は私の名前を呼んだ。その声は、体育館で聞いたのと同じ、きれいな声。何かを掴むように心臓が大きく脈打ち、血液が逆流していくような感覚に襲われる。
 透き通るほどに美しい声が恐怖を煽る。心の奥深くに直接届き、私を貫いてくる。逃げたいのに、体が重くて動かない。まるで見えない鎖で縛られているかのようだ。
 天使は、ゆっくりと私に手を伸ばした。指先が微かに触れるその瞬間、何か鋭いものが体を貫くような感覚が襲った。温かい――でも、それは決して優しい温かさではない。氷の中に閉じ込められた炎のような矛盾した感覚。血液が逆流するように、何かが体の中に流れ込んでくる。
 私は声を出すことさえできなかった。胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
 何かを確かめるように、微かに首を傾げていた。ずっと私から目を離さない、その赤い瞳が、私のなかにすううっと染み込んでくる。
 天使は、私に覆いかぶさるようにゆっくりと身を近づけてきた。圧倒的な存在感に飲み込まれそうになる。目の前にあるその顔は、美しさと同時に得体の知れない恐怖を放っている。
 息が詰まりそうだった。恐ろしいはずなのに、体は拒絶できない。その赤い瞳に見つめられるだけで、理性が崩れ落ちていくような感覚。
 天使の手が私の頬に触れると、そこから冷たさと温かさが混ざった奇妙な感覚が流れ込んできた。
 全身の感覚が麻痺していく――それなのに、なぜかその感触を拒みきれない自分がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...