7 / 11
② 北国の春
渦
しおりを挟む大往生。
そんなワケないがな。
そりゃ、若くはないで。
ほやけど、今の人やったらもうちょっと長生きするやろ。
アタシ、ホンマはもっと、みんなの傍で生きたかった。
「なあ。泣きなや、お母さん」
ある時、お父さんは言うた。
「治らん。アタシの病気、治らんのや」
子供や孫らがおらん時、よう弱音を吐いた。あの頃はまだ腕も動いたし、美味しいもんも食べれた。
「どないなっても、俺が看たるさかい」
お父さんは、ホンマに言葉通りにしてくれた。
右脚に続いて左脚が効かんようになって、歩行器が車椅子に変わっても。腕も動かんようになって、ずっとベッドにいるようになっても。
一つずつ、できることが減った。
ホンマに些細な、何も考えずにでけたことが。
噛む力すら危うくなった頃、でけんこと数えるんをやめた。
最期は物を飲み込むことも、痰を吐き出すこともでけんかった。
“手術で取りきれない”
“稀な症例”
ってなに。
アタシ、難しい話わからんねん。ついてけへんねん。
なんで、アタシなん?
みんな元気やのに、なんでアタシだけ。
病気やなかったら、アタシはまだ、元気でみんなの傍におったのに。
あれ?
そうかな、アタシ。みんなの傍におって良かったんかな。
お父さん、何でも自分でしはるし。家のことも分かってる。
子供らは家庭を持ってる。
アタシ、要る?
アタシが病気でも元気でも。
アタシ抜きで、みんなの会話は回ってる。
アタシ、鈍臭いし、賢ない。
みんなの話、ついてけへん。気の利いたこと、よう言わん。
さっき見たやん。
お葬式の準備。みんな、しっかりしたはる。お父さんと菫と幹也。アタシの家族は立派や。ちょっとも寂しそうやなかった。孫らも、何ならアタシで遊んどるくらいやった。
そか。
おらんくても、良かったか……。
でも。
チョキン。
幹也一家が刈り取ってた庭の花が胸に蘇った時、アタシの周囲に風が巻き起こった。
アタシ、ただ普通に暮らしたかってん。
お父さんと早起きしてな。畑仕事してな。それから、孫らの好きなもん買うてな。
お父さんと並んで台所立ちたかってん。
お料理、いっぱい作りたかってん。
おいしい、おいしいて。みんなが笑うの見たかってん。
ヘタな鼻歌、歌いながら。
平たいやつ。
孫らに教えてもらうて約束しててん。
アタシも、ちょこっとでええからやってみたかってん。
まだ小さなゆずちゃん。もっと遊びたい、成長が見たい。
孫らも、いつか家庭を持つやろう。その時まで。
戻りたい。
みんなに会いたい。
もう叶わんの?
どうして。
みんなの輪の中におれたらそれで良かってん。
あの家にみんなの輪があって、庭に花があればそれで良かってん。
どうして。
どうして。
そう思たら、アタシの周りの風は、どす黒い渦を作った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる