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第五章 クリスマスの涙
すれ違い3
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「やっぱり重い女っぽくない?」
「だめよ! 待ってないでこっちから動かなきゃ!」
「そんなこと言って。
あんたはパパに会いたいだけじゃないの?」
「お。パパって認めたね」
「否定するのが面倒になっただけよ」
すれ違いざまに学生らしき女の子に変な目で見られたため、一旦黙った。
あれから一夜明けて、もう昼過ぎである。
私とルナは今、佐山の職場に向かっている。
駅へ近づくにつれ人や店舗が多くなってきた。
彼に、きちんと謝る。
帰宅が確認できた夜にでも隣の部屋を訪ねようと、自分なりに決めていたのだが。
ルナ曰く、
「決めたらすぐ動く!」
だそうで、普段とは全く違う散歩コースを歩いている。
初めは気が乗らなかったが、考えてみれば夜まで待つのも落ち着かない。
職場にも多少は興味があるし。
いや、でも。
やっぱり、職場に謝りに行くってヘンじゃない──!?
立ち止まると冬の寒さが刺してくる。
なぜ動かないのかと、ルナが乳母車を揺らす。
げしげしとカゴを蹴っているのだ。
「今さら迷うんじゃない!」
暴君め。
やればいいんでしょ、やれば。
シャッと呼んで、チャッと謝る。
儘よ──!
私は、意を決して重い身体を前へ進めた。
駅近くの古着屋やコンビニ、ハンドメイドの革製品を扱う店など雑多な建物が集まるエリアの一角。
ペットショップは一軒しかない。
店の正面はガラス張りで、戯れる仔犬や仔猫たちの様子が外からでも見えるようになっている。
いざ到着すると、“シャッと呼んでチャッと謝る”ことの難しさを痛感する。
ルナに目で急かされ、私は取り敢えず店に足を踏み入れた。
乳母車が超目立つ。
入り口の雰囲気に反して、中は意外に広々している。
出入り口近くに犬や猫。
奥へ行くに従い、ハムスターやウサギ、鳥類のコーナーや淡水魚などの水槽。
ペットフードやペット用玩具も販売している。
普段ならば珍しさもあってじっくりと見物するところだろうが、今はとてもじゃない。
赤いエプロンを着けたスタッフとは何度かすれ違ったが、佐山は見当たらなかった。
出入り口付近の犬猫エリアに戻った。
この辺りは特に客が集まっている。
混んでるし忙しい、よね。
やはり、こんな場所へ謝罪に来るなんて非常識なのだ。
私は諦めて帰ろうと思い始めていた。
「田中様、お待たせいたしました」
雑音だらけの店内でその声を聞いたのは、そんな矢先のことだった。
慌てて柱の陰に隠れる。
ずっと威勢の良かったルナも、カゴの中でぴたりと動きを止めている。
見慣れた長身に、見慣れないエプロン姿。
佐山は茶色っぽい仔犬を抱いて、壁際のベンチシートに座る親子へと近づいた。
足をプラプラさせながら待っていた幼児が満面の笑みを浮かべる。
「今日から家族ですよ」
ベンチシートの傍に屈んで幼児の膝に仔犬を乗せてやると、佐山は静かにそう言った。
ペットの引き渡しなのだろうか。
名残惜しそうに仔犬を撫でてやっている。
親子を出入り口で見送ると、彼は再び店内に戻ってきた。
よ、よし。まずは、シャッと呼ぶ……!
私は、柱の陰からそろりと顔を出した。
「さ──」
「佐山さぁん!」
決死の覚悟が遮られる。
佐山に声をかけたのは、赤いエプロンの女性スタッフだった。
「昨日のデータが……」
女性が声を落としているため詳細は聞き取れないが、何やら切羽詰まった様子である。
「まったく。仕様がないですねえ」
佐山は、女性スタッフと並んで店の奥へ向かう。
「慌ただしいね……帰ろっか、ルナ」
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