【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

文字の大きさ
106 / 130
第五章 クリスマスの涙

すれ違い5

しおりを挟む

 「うえぇぇん」


 ルナが泣き出した。

 ルナ。
 私にどんな審判を下すつもりでいるの?


 ルナは泣き続ける。
 ハッと正気に戻った。

 ルナは、不快を感じると普通の赤ちゃんに戻るのだ。
 お腹が空いたんだろう。

 ルナの場合。
 否、ベビー全てに当てはまるのか。

 泣く、という行為は、不快や空腹を伝えるものであるらしい。
 自力で動けない彼らにとって、「泣く」とは生存を賭けた行為だ。


 どうして泣くの?


 言葉が通じても、本当のところは分からない。
 ただ、せめてほんの少しでも私との別れを惜しんでくれたなら──。



 涙を拭ってキッチンへ向かう。
 当たり前のように、一日に何度も繰り返す作業。

 すっかり普通の赤ちゃんに戻っているルナは、小さな身体に懸命に栄養を取り込む。
 見慣れた、斜め上からの景色。



 夜は、ルナと並んで寝た。
 審判のことも佐山のことも、考えることを放棄した。
 ただ、今はひっついて眠っていたかった。




 ***


 静かだな。
 しんしんとした気配。
 スマホの光の中に浮かぶ時刻は午前二時だ。
 ルナと一緒に早く就寝したために、目が覚めてしまった。


 佐山は、やっぱり来なかった。


 目覚めた途端に思い出して胸が痛む。
 こうなると、もう一度眠ろうにも眠れない。

 少し開いたカーテンを直そうと窓辺に寄り、何気なく外に目をやった。

 「雪……」

 湿気を含んでいそうな大きな塊が斜めに降る様が、街灯に照らされている。
 この分だと朝には積もっているだろうか。
 雪だと思うと条件反射のように底冷えがしてくる。


 「ふええぇぇん」


 「……!」


 初めはいつもの夜泣きだと思っていた。
 でも。


 抱き上げたルナは冷え切っていた。


 寝る前に切っていたエアコンを慌ててつけ、毛布を引き寄せる。

 どうして?
 昼間は元気だったのに。



 ──消えるまでに残された時間は多くないだろう。



 夢の中の声がよみがえった。

 イヤだ。
 ギュッと目を閉じ、ルナを抱きしめる。




 脳裏に浮かぶのは、どうしてもだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ユニークアイテムな女子(絶対的替えの効かない、唯一無二の彼女)「ゆにかの」

masuta
キャラ文芸
恋と友情、そして命を懸けた決断。青春は止まらない。 世界を股にかける財閥の御曹司・嘉位は、U-15日本代表として世界一を経験した天才投手。 しかし、ある理由で野球を捨て、超エリート進学校・和井田学園へ進学する。 入学式の日、偶然ぶつかった少女・香織。 彼女は、嘉位にとって“絶対的替えの効かない、唯一無二の存在”だった。 香織は、八重の親友。 そして八重は、時に未来を暗示する不思議な夢を見る少女。 その夢が、やがて物語を大きく動かしていく。 ゴールデンウィーク、八重の見た夢は、未曾有の大災害を告げていた。 偶然か、必然か……命を守るために立ち上がる。 「誰も欠けさせない」という信念を胸に走り続ける。 やがて災害を未然に防ぎ、再びグラウンドへと導く。 その中で、恋もまた静かに進んでいく。 「ずっと、君が好きだった」告白の言葉が、災害と勝負を越えた心を震わせる。 それぞれの想いが交錯し、群像劇は加速する。 一人ひとりが主人公。人生に脇役はいない。 現代ファンタジーとリアルが交錯する青春群像劇。 本作は小説家になろう、オリジナル作品のフルリメイク版です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...