【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第五章 クリスマスの涙

真実1

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 頬にゾワリと怖気おぞけが走った。
 暖房を効かせているはずなのに、冷気がひたひたと忍び寄る。

 私たちの周りは依然として蝋燭の火のような、ぼんやりした光に包まれている。


 「どうして来たの……?」


 これまで無言だったルナがぼそっと呟いた。


 「ルナ。どういうこと?」


 ルナがバツの悪そうな顔をする。


 「ちょっと! 二人して変な冗談やめて! 本当に怒るわよ!」


 冗談であってくれ。
 一縷の望みを持って絞り出した声は震えた。


 『──この子はルナではない』


 佐山の口から声が出る。

 私は震える手を口元に当てた。
 とんでもないことに思い当たったのだ。

 霧の中のは、いつも幕で覆ったようにくぐもっていた。
 でも間違いない。


 『──この子は何者でもない』


 この声は、何度も聞いた夢の中の声──。
 幕を取り払った『声』の正体。


 『──この世のものではないのだ』


 ルナが顔を歪めた。


 「さっきから全然話が見えない! 佐山さん、あなた一体……」


 『──今は彼ではない。私は形を持たぬ故、この者の身体を一時的に借りている』


 あの夢は、やはりルナと無関係ではなかったのだ。

 頭で分かっても認められなかった。
 まだ日付けは変わっていないから。
 認められない。



 審判が始まったなんて。


 
 「この世のものじゃないとか、幽霊みたいに言わないでよ!」


 佐山の形をした何かから、ルナを奪い返す。

 
 「返して! ほら、すくすく育ってこんなに重くなってるのに!」


 『──無駄だ』


 ルナがしがみついてくる。


 『──そろそろ限界だろう。これは虚像なのだよ。誰の血も受け継いでいない』


 「いやだぁっ! あたし、ずっとここにいるもん!」


 ルナが泣き出した。
 私はルナを渡すまいと手に力を込め、その感触を確かめる。

 虚像? そんなワケない。
 今だって、ほわっとした感触に包まれてる。いつもみたいに。


 『──この子は……』

 ルナが俄かに暴れ始めた。


 「言わないで! ねえ、お願い。見逃してよ!」


 「ルナ?」


 腕から転がり落ちそうなほど暴れるルナを必死で抱き止める。
 『声』が、私を見透かすように言った。




 『──おまえは、真実を知りたくはないか』
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