【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第五章 クリスマスの涙

クリスマス・イブ3

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 佐山が少し首を傾げた。
 彼は、日付が変わった後に訪れる運命を知らない。



 「あなたはそのままで良い。
 僕は好きですよ、あなたのような人」



 心臓が爆発した。
 爆発は免れたが、それに近いほど大きく鼓動したことは確かである。


 不意打ちだ。佐山はズルい。
 顔色ひとつ変えないで。


 ──僕は好きですよ、あなたの人。


 それは、例えば「和食系が好きなんだよね」っていうのと同じ種類の“好き”かもしれない。

 けど嬉しいじゃない。
 期待するじゃない。

 今度こそ上手くやれと拳を握る冴子さんが、左斜め上にチラついた。
 今、なのかも。
 
 外でゴオッと風が唸った。


 「あ、あのおぉっ!」


 勢いをつけるようにワインをあおる。
 こんなことしてる場合じゃないって分かってる。
 審判の結果が賭かってる今。でも。


 「あの。佐山さん」


 まだ捨て切れない。
 嘘が、真実に変わる可能性。
 で歩いていく未来。

 佐山がこちらを見ている。
 髪で顔の上半分がほぼ見えない様相は、本当に変人のようで初めは戸惑ったものだ。

 でも今なら分かる。
 彼は、きちんとこちらを見ている。


 「私……」


 その時だった。
 部屋の電気がチカチカ点滅したかと思うと、そのままフッと光が消えた。



 「停電か?」


 「やだ! 佐山さん、ルナ。どこ?」


 この大事な時に──!
 私は手探りで移動する。


 「宮原さん、落ち着いて」


 「だって怖いんだもの! 私、真っ暗なのダメなんです!」


 「まったく」


 「うっ、うええぇぇん」


 「ここですよ」


 パッと手を掴まれた。
 暗闇の中での人の気配にホッとする。


 「ごめん、ルナ。起こしちゃった」


 ルナはパニックになっているらしい。
 何か明かりになるもの……と言っても、こう暗くては探しに行くこともできない。

 と、周りがボウッと明るくなった。
 こちらを向いている佐山と、腕の中のルナが浮かび上がる。

 初め、佐山がスマホか何かで照らしてくれたのかと思った。
 でも違う。それよりも不安定な、蝋燭の火、みたいな。

 ルナが泣き止んできょろきょろし始める。

 佐山は「落ち着いて」と言った後、さらに言葉を継ごうとしたようだった。
 しかし、口を開いた状態で突如動きを止める。



 彼は、そのままガクンと首を垂れた。



 「佐山さん?」



 縁起でもないが、魂が抜けたかというくらいの脱力の仕方だった。
 胸がザワザワと騒ぎ出す。


 「佐山さん……佐山さん! どうしたの!?」


 何度か呼びかけると、彼は機械仕掛けのようにカクカクと顔を上げた。
 再び口が開かれる。しかし、いつもの佐山の語り口ではなかった。


 『──ようやく辿り着いた……まったく、勝手な真似をしてくれたな』


 「佐山さん? 何を言ってるのよ?」


 佐山は、こちらの呼びかけに何の反応も示さない。


 『──お前か。この子が求めていたのは』


 佐山は、目の前で確かに佐山の形をしているのに。まるで違う生き物みたい。


 『──私は』


 違う。
 見つけた異和感。


 『──私は、この子を連れ戻しに来た者だ』




 この声。
 佐山の声じゃない。
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