【完結】改稿版 ベビー・アレルギー

キツナ月。

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第五章 クリスマスの涙

真実3

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 ルナが、ほっとしたような顔をした。


 『──秘密を持ちながら生きる辛さを、おまえは身をもって知ったではないか』


 何もかも、見通されている。

 ルナがルナであることの証明ができなければ、病院にも行けない。
 成長に伴って他の問題も出てくるだろう。


 『──たった、三月みつきの間でさえ、不都合はあっただろう』


 目の前の『声』に感情の揺らぎはない。
 それが却って私の神経を逆撫でした。


 そんなこと分かってる。それでもやるのだ。


 「何だってする!」


 嘘が真実に変わるなら。
 未来があるなら。
 あらゆる方法で。


 『──無駄だ。前に伝えた通り、この子はいずれ消える。
 兆候は出ていたはずだ』


 頭を強く殴られたようだった。

 忘れてた。
 ここ何日か、ずっと調子が良かったから。
 身体が冷たくなっていく症状。


 ルナは、私の傍にいたら消える──?


 嫌だ。
 ルナを抱える腕が震えた。


 『──この子の今の姿は虚像だ。育ったように感じるのも、この子の精一杯の偽りなのだよ』


 「嘘!!」


 どうしようもないことだと分かりかけている。
 でも認められない。

 駄々っ子のように叫ぶ。
 大人になってから、ついぞしたことのない行為であった。

 この得体の知れない存在は、何故こんなに酷いことを言うのだろう。
 佐山の姿で。



 抱っこの感触、ずっしりした重さ、もみじみたいな手、ふわふわのほっぺ。
 私にとって、この子はルナだ。


 「消えないもん。ずっとここにいるもん」


 めそめそと泣いていたルナが、突如として強い声を発した。


 「絵美のとこにいるもん!」


 赤い頬を膨らませて、薄い眉をぎゅっと寄せて。小さな指をぐっと握り込む。

 ルナは、けっこう頑固だ。
 この顔は、てこでも言うこと聞かない時の顔。

 ルナのことは知り尽くしている。

 マセてて生意気で。
 だけど結局ベビーで。
 サルがいちばんのともだちで、外は好きだけど買い物は退屈。

 もろい心が揺れる。
 もしかしたら消えないかもしれない。
 ずっと調子の良い日が続いていたから。

 
 『──ここで消えたら、それで終わりだ。
 生まれ変わることはないぞ』


 『声』が、私を奈落に突き落とす。
 心臓を鷲掴みにされたみたい。


 「そんな」


 「帰ったって、あたしの順番は来ない!
 イヤだ……もうイヤだよ!」


 私に被せるようにして、ルナの悲壮な声が響いた。
 佐山の形をしたものが、ぎこちなく首を動かしてこちらを向く。


 『──決めろ』


 初め、何を言われているのか分からなかった。
 ややあって『声』の意味するところを直感した時、確かに掴まれた心臓を潰される感覚があった。


 『──この子を残すか還すか。おまえが選べ』




 審判を下すのは、私──?
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