幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな

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1巻

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    第三章 シェリル王女


 昼食の時間になり、一人で食堂に向かう。貴族の子供たちが通う学園だけあって、学生食堂といってもとても豪華だ。
 もちろん出される料理も一級品。それでも学食なので、どれも値段が安い。貧乏子爵家の私としては大変助かっている。

「AセットとBセットを一つずつお願いします」

 実を言うと、私は大食いだ。二つのセットを頼んでも、全然足りない。これでも節約しているのだ。料理を受け取り、空いている席に座る。

「いただきます」

 食事の時間は、大好きな時間だ。色々あったけれど、料理は私を裏切らない。
 味わって食べていると、目の前の席に誰かが座った。
 顔を上げると……レイビス様……によく似た女の子がこちらをじっと見つめていた。
 なにも言わずに、じーっと私を見ている。

「あの……」

 視線に耐えきれず、声をかけてしまった。すると、女の子は目を輝かせて口を開いた。

「あなたが噂のセリーナ様でしょう? ここに来るまで散々噂されているのを聞いたわよ。本当にお美しいわ! そんなに細いのに、たくさん食べるのね。私たち、良いお友達になれると思うの!」
「えっと……」

 なにから突っ込んだらいいのか。彼女は一体、誰なのだろう? その答えは、すぐに出た。

「シェリル!? おまえ、大遅刻だぞ」
「お兄様こそ、遅いです。お腹が空きすぎて倒れてしまいそうですわ」

 現れたのはレイビス様。話を聞くに、二人は兄妹のようだ。

「セリーナ嬢が驚いているだろ……。セリーナ嬢、これは双子の妹のシェリル。妹も先日からこの学園の生徒なんだ」

 似ているとは思ったけれど、まさかレイビス様に双子の妹がいたなんて。双子なら、こんなにそっくりなのも頷ける。

「セリーナ様、よろしくお願いいたします」

 女性だからか、レイビス様よりも笑顔が柔らかい。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「授業はサボったのに、堂々と食事に来るなんていい度胸だろう? ちなみに、シェリルも同じクラスだ」

 どうしてまた、同じクラスなのか……

「セリーナ様、ごめんなさいね。お兄様は軽いように見えて、ものすごく軽いから。気をつけてくださいな」

 それは、ただの悪口なのでは……

「フォローになってない! 余計なことを言うな」
「フォローするつもりなんてありませんわ! だいたい、私がセリーナ様とお話ししていたのに、邪魔しないでくださる?」

 この二人は、仲が悪いのだろうか。

「あの……早く食べないと、お昼休みが終わってしまいますよ?」

 なぜか目の前で兄妹喧嘩を見せられているけれど、嫌な気分ではなかった。私にも弟がいるけど、五歳も離れているせいかこんな風に喧嘩したことはないから、ちょっとうらやましい。

「セリーナ様は、なんてお優しいのかしら! やっぱり、私たち良いお友達になれると思う!」

 双子でも、性格はあまり似ていないみたい。
 シェリル様の第一印象は、元気で明るい子だった。
 レイビス様とシェリル様は料理を頼み、改めて三人で昼食をとる。話してみると、シェリル様はとても楽しい方だった。

「私ね、王女としての知り合いや交流のある方はいるけれど、親友と呼べる相手はいないの。だからお兄様からセリーナ様のお話を聞いて、仲良くなれたらいいなって思っていたのよ。よかったら、お友達になってくださらない?」

 親友と呼べるような相手は、私にもいない。学園に入学してからは、特にだ。
 友達が欲しいと思ったこともあったけれど、誰も私と口をきいてくれなかった。

「私でよかったら、お友達になりましょう」

 友達になりたいと言ってくれた人も、初めてだった。だから、素直に嬉しい。

「俺には冷たいのにシェリルとは友達になるなんて、ひどくないか?」

 レイビス様はくちびるをとがらせてねている。

「お兄様がねても可愛くありませんわ。そろそろお昼休みも終わりますね。教室に戻りましょう」

 はっきりものを言うシェリル様とは、私も仲良くなれそうな気がした。


 教室に戻ると、皆がいっせいに振り向いた。

「レイビス殿下が……二人?」
「私の目がおかしくなってしまったの?」

 レイビス様は昨日の夜会に参加していたけれど、シェリル様は午前の授業にも来ていなかったのだから、驚く気持ちは私にもわかる。双子だけあって、二人は本当にそっくりだ。

「皆様、初めまして。私はグランディ王国第一王女、シェリル・グランディと申します。つい先ほどセリーナ様とお友達になりましたの。これから、よろしくお願いいたします」

 シェリル様は完璧な笑顔で生徒たちを魅了した。先ほどまで私と話していたシェリル様とは雰囲気が違う。これが大国の王女様なのだと感じた。

「まあ! シェリル様ではありませんか! お元気でしたか? まさかシェリル様まで我がグルダ王国にいらしてくださるとは思いもしませんでしたから、光栄ですわ」

 たった今シェリル様に気づいたように、クリスティ様はおおに驚きながら声をかけた。
 シェリル様に魅了された周りの反応が気に入らなかったのか、笑顔を装ってはいるけれど表情が強張っている。

「おかげさまで、とても元気ですわ。お兄様に変な虫がついては困りますから、私もついてきましたの。クリスティ様のほうは、以前とまったくお変わりないようで安心しました」

 笑顔で会話しているのに、バチバチと火花が散っているようだ。明らかに、お互い嫌い合っている。
 その様子を、レイビス様は欠伸しながら見ていた。クリスティ様の笑顔が引きつり、言い返すことができなくなったところで会話は終了した。
 かつては王太子だったシオン殿下の婚約者という立場で接していたのかもしれないけれど、今は違う。大国の王女様に喧嘩を売るわけにはいかないと、さすがにクリスティ様も我慢したのだろう。

「セリーナ様、私の席はどこかしら?」
「私の後ろの席が空いてます」

 私たちが席に座ると、すぐに先生が入ってきて授業が始まった。
 シェリル様が転入してきたことで、クリスティ様の態度が少し変わったような気がする。


 寮に戻ると、シェリル様が部屋を訪ねてきた。

「来ちゃった」

 舌を出して可愛く『来ちゃった』なんて、まるで彼氏彼女のようだ。まだ知り合ったばかりだけれど、教室でのクリスティ様との対決ぶりを見たからか、なんだかとても可愛らしく思える。
 本当のシェリル様は、人懐っこくて親しみやすいように感じた。

「こんな風に友達の部屋に来るのが夢だったの!」

 笑顔でそう言いながら、部屋の中を見渡す。
 私も、友達を部屋に入れたのは初めてだ。嬉しくて口元がゆるむ。

「珍しいものなんてないでしょう? 座って、お茶でもいただきましょう」

 メーガンにお茶を用意してもらい、ゆっくり話をすることにした。二人で並んでソファーに座りながら、他愛もない話をしてお茶を飲む。
 とても、居心地のいい時間だった。出会ったばかりなのに、心を許せる気がする。

「そろそろ敬語はやめない? それと、私のことはシェリルって呼んでほしい。ね? セリーナ」

 強引だけど、嫌じゃなかった。

「わかったわ、シェリル」

 他国の子爵令嬢にすぎない私を、彼女は同等に扱ってくれる。
 王女様なのに偉ぶっているところもない。こんな素敵な友達ができて、本当に嬉しい。

「それにしてもクリスティ様は相変わらずね……。セリーナ、婚約者のことはもういいの?」

 レイビス様から聞いたのか、シェリルは私がカイン様との婚約を解消したことを知っていた。
 婚約を解消しても、毎日顔を合わせなければならないのは正直気まずい。けれど、彼への愛は本当になくなっていた。

「運命の相手じゃなかっただけよ……なんて、格好つけちゃった。彼は変わってしまった。婚約したばかりの時は、私のことだけを見てくれていたし、私が落ち込んでいたらすぐに気づいてくれていたの」

 シェリルは、私の話を真剣に聞いてくれている。

「この学園に入学して、幼馴染だったクリスティ様と過ごすうちに、彼の心には私がいなくなっていたわ」

 カイン様は侯爵令息だ。そんな彼が子爵家の私と婚約してくれたことには感謝している。
 もしかしたらそれも、優しいカイン様が私に同情しただけなのではと思えてくるけれど。

「少し、うらやましいな……。あ、ごめん! セリーナが悲しい思いをしてるのに……。ただね、私はそんな顔をするほど、誰かを好きになったことがないから。うらやましいなって」

 そんな風に言われると、カイン様を好きになったことも無駄じゃなかったのだと思えた。
 誰かを好きになることは、悪いことじゃない。

「ありがとう、シェリル。なんだか元気が出た気がする」
「お礼を言われるようなことじゃないけど……。ねえ! もうカイン様への気持ちがないなら、次の婚約者にはお兄様なんてどうかな?」

 シェリルが目を輝かせて、とんでもないことを提案してくる。
 レイビス様には何度も助けてもらっているし、嫌いではないけれど……

「それはないよ。身分が違いすぎるし」

 そう、そもそも身分が違いすぎる。レイビス様が私を助けてくれたのも、クリスティ様の本性を知っているからというだけだろうし。

「なにを言っているの? 身分なら充分じゃない」

 シェリルの言っている意味がわからず、首をかしげる。
 一国の王太子妃だなんて、他国の王族か自国の高位貴族でなければ到底無理だろう。大国グランディ王国となれば、なおさらだ。
 それなのに、ただの子爵令嬢でしかない私の身分が充分だなんて訳がわからない。
 シェリルは、勘違いしているのだろうか?

「あれ? もしかして、知らないの?」
「なにを?」

 なんだか怖くなってきた。

「セリーナのお母様であるマリエル様は、スフィリル帝国の第一皇女様よ」

 そんなはずはない。お母様は、他国の男爵令嬢だったと聞いている。一代限りの男爵だったおじい様が亡くなり、他に親戚はいないと。
 スフィリル帝国は世界一の大帝国だ。そんな大帝国の皇女様が、他国の子爵であるお父様と結婚するなんてありえない。
 やっぱり、シェリルは勘違いしているのだ。

「勘違いよ。お母様は男爵令嬢だったもの」

 お母様の記憶はほとんどないけれど、笑顔だけは鮮明に思い出せる。陽だまりのような、あたたかい笑顔だった。

「やっぱり、セリーナには話していなかったのね……」
「どういうこと?」
「私もつい最近知ったことだけれど、情報は確かよ。それにスフィリル帝国の皇帝陛下自らが、ブランカ子爵邸にお忍びで訪問したことがあるとも聞いているわ。現皇帝は、マリエル様の弟君よ」

 にわかには信じられないけれど、その話が本当だとしたら、お母様は身分を超えてお父様を選んだことになる。それは、とても素敵だと思った。

「お母様が何者でも、私は私よ。その話は、他の人には言わないで」

 私は男爵令嬢だったお母様と、子爵のお父様の娘。
 それに、たとえシェリルの言葉が真実だとしても、お父様の口から聞きたい。

「誰にも話すつもりはないわ。お兄様でさえ知らないもの」
「レイビス様も?」
「ええ、だから安心して。お兄様がセリーナにちょっかいを出すのは、セリーナ自身のことが気になっているからよ」
「安心って……私は別に……」
「顔が赤くなっているけど?」

 レイビス様は知らないと聞いて、ホッとしている自分がいる。
 身分なんて関係なく、彼は何度も私を助けてくれた。レイビス様は、そういう方だ。それが嬉しかった。
 でも、シェリルには教えてあげない。だって、すぐからかうんだもの。

「レイビス様には気をつけて、って言ってなかった?」

 頬をふくらませながら、シェリルを見る。

「だって、お兄様ったら私より先にセリーナと仲良くなっているんだもの。ズルいわ!」

 まるで、おもちゃの取り合い……

「シェリルのこと、大切な友達だと思ってる。まだ出会ったばかりだけど、前から知っていたみたいに懐かしい感じがするの。だから、レイビス様にく必要なんてないわ」
「セリーナーー!!」

 子供みたいに私に抱きついてきたシェリル。よしよしと頭をでると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


 シェリルを部屋に送り届けた後、私は出かける準備をするようメーガンに言った。
 お母様のことが、やっぱり気になる。
 シェリルから聞いた話では、スフィリル帝国の皇帝陛下がお父様を訪ねたのは二年前だそうだ。私はその時学園寮にいたから、なにも知らなかった。
 それより、お母様が亡くなったのは十一年も前だというのに、なぜそんなに時間が経ってから?
 真実を知りたい。それにお父様が一人で悩んでいるなら、力になりたい。
 学園に明日の分の欠席届を出して、メーガンとともに馬車に乗り込む。ブランカ子爵家の屋敷までは馬車で三時間ほどだ。今は十九時だから、到着は二十二時頃だろう。
 お父様は、いつも遅くまでお仕事をしているから、寝る前には間に合うはず。


「セリーナ!? こんな夜更けにどうしたんだ!?」

 私を見たお父様は、なにがあったのかと慌てていた。

「お母様のことで、お聞きしたいことがあります」

 真剣な私の顔を見て、お父様はなにかを察したようだった。

「来なさい」

 そう言って、書斎へ向かって歩き出す。
 覚悟を決めたような表情。お父様のこんな真剣な顔を見たのは初めてで、少し戸惑う。家族のことはなんでもわかっているつもりだったけれど、まだまだ知らないことは多かったようだ。
 書斎に入り「座りなさい」と言ったきり、お父様は黙り込んだ。私は素直にイスに座り、お父様が話し出すのを待っていた。
 数分……いや、十分くらい経っただろうか。ようやくお父様が口を開く。

「スフィリル帝国に滞在している時に、おまえの母、マリエルと出会った。私の、一目惚れだった。明るくて、いつも笑顔を絶やさないマリエルを好きになり、結婚を申し込んだのだが……彼女はそれまで、自分は男爵令嬢だと言っていたんだ」

 お母様の気持ちが少しだけわかる。身分なんて関係なく、お父様と過ごしたかったのだろう。

「彼女は全てを話してくれたよ。その時マリエルは、スフィリル帝国の帝位継承順位第一位だった。他国の子爵との結婚など許されるはずもなかった。それなのにマリエルは継承権を弟君に譲り、国を出て私と結婚してくれた」

 お母様のお父様……当時の皇帝陛下は、国を捨ててお父様との結婚を選んだお母様を許せなかったそうだ。お母様が亡くなったと知らせても、葬儀に姿を現すことはなかった。
 しかし二年前、前皇帝陛下が亡くなり、新たに即位した現皇帝陛下がお父様を訪ねてきたということだった。

「陛下は、おまえをスフィリル帝国に迎えたいそうだ。おまえが学園を卒業したら全て話すつもりだったのだが、誰かから聞いたのだな」

 お父様は、私に話すのは学園を卒業するまで待ってほしいと陛下に頼んだ。
 もちろん、断るつもりではいたようだ。けれど、私の気持ちを尊重するために、選択肢を残そうとしてくれた。
 陛下が私をスフィリル帝国に連れ帰りたい理由はわからないけれど、帝国のために利用するつもりなのではないかとお父様はねんしているようだ。要するに、政略結婚の道具にされるのでは、と。
 カイン様という婚約者がいたからお父様は安心していたようだけれど、まさか私が婚約を解消するとは思っていなかったのだ。

「お話はわかりました。皇帝陛下のお考えは私にはわかりませんが、素直に利用されるつもりはありません。私はお父様とお母様の子ですよ? 結婚相手は、自分で決めます」

 私の返事を聞いたお父様は安心したのか、全身の力が抜けたようにソファーにもたれかかった。

「そうだな。おまえはマリエルにそっくりだ。容姿もそうだが、内面もよく似ている。おまえが思うようにしなさい。おまえが選んだ道なら、私は応援するよ」

 お父様は、いつだって私たちのしたいようにしなさいと言ってくれる。カイン様とのことで心配をかけてしまったけれど、これからは自分らしく生きていこうと改めて思った。




    第四章 お茶会への誘い


 その日は、そのまま実家に泊まった。翌朝には学園に戻るつもりだったのだけれど……

「姉上~! いつお戻りになったのですか?」

 サミュエルの顔を見たら、すぐに帰るなんてできなかった。

「昨日の夜よ。サミュエルは眠っていたから」
「起こしてくださいよ! 僕がどれだけ姉上に会いたかったか!」

 サミュエルは素直で、すごくいい子に育ってくれた。

「なんて可愛い弟なの~」

 わしゃわしゃと頭をでると、サミュエルは照れくさそうに「やめてよ~」と言いながら微笑む。

「僕、前よりずっと強くなったんです! 姉上を守れるように、もっともっと強くなります!」

 サミュエルは最近、剣術を習いはじめたらしい。私を守りたいなんて涙が出そうだ。私は本当に、家族に恵まれている。
 最高に可愛い弟の顔を見たら、辛かったことなんて一気に吹き飛んでしまった。

「剣術も大切だけれど、勉強もしっかりしなければダメよ」
「勉強は苦手ですが、頑張ります……」

 剣術の話をしていた時とは違い、声が小さくなる。学問は苦手なようだ。それでも、サミュエルには頑張ってほしい。
 ブランカ子爵家の領地はそれほど大きくはない。土もせていて、作物を育てるには向かない土地だ。お父様は、毎日を生きるのが精一杯な領民の税をできるかぎり免除している。ブランカ子爵家が貧乏なのは、それが理由だ。領民の幸せが一番だというのがお父様の口癖だった。
 この領地を治めるには、並大抵の努力では足りない。サミュエルには苦労しなくていい道を歩んでほしいけれど、現実はそうはいかない。
 なにがあっても動じないような、そんな領主になってほしいのだ。
 結局お昼までサミュエルと過ごしてから、寮に戻った。
 久しぶりに家族と会えて、とても楽しい時間を過ごすことができた。
 そういえば、学園を休んだのは初めてだ。皆勤賞を逃してしまった……なんて考えるほど、気持ちは落ち着いていた。お母様に秘密があったことは事実だけれど、私たち家族はなにも変わらない。
 お父様のことも、サミュエルのことも、心から愛している。


「どうぞ」

 学園の寮に戻ると、メーガンはまたなにも聞かずにお茶を出してくれた。話したい時は真剣に聞いてくれるし、話したくない時は静かに見守ってくれる。

「ありがとう」

 お茶を飲みながら、頭の中を整理する。これまで、スフィリル帝国の関係者が私に接触してきたことはない。お父様がお願いしたことを守ってくれているのだと思うと、皇帝陛下は悪い方ではないように感じるけれど……一度もお会いしたことがないうちにどんな方なのか考えても、答えなんて出るわけがない。
 考えるのは、やめやめ! ただ叔父様に会えると思えばいい。お母様の子供の頃の話を聞けるかもしれないし。
 カイン様との婚約解消もお父様に受け入れてもらえたことだし、これからは学園生活を楽しもうと思う。


 翌朝学園に行くと、教室の入り口でシェリルが抱きついてきた。

「セリーナ~! 寂しかった~!」

 一日離れていただけなのにおおだと思いながらも、こんな友達がいて幸せだなと感じた。
 見た目はクールなシェリルがそんなことをすると思っていなかったのか、クラスメイトたちが目を丸くして驚いている。

「私も、寂しかった」

 同じ歳だけれど、シェリルの事は妹のように思える。昨日、サミュエルに会ったからかもしれない。

「俺も寂しかったから抱きついてもいい?」

 抱き合う私たちを見て、レイビス様がいたずらっ子のような顔でからかってくる。

「お断りします」

 私がそう言うと、シェリルはレイビス様に向かって舌を出した。
 この前は私とレイビス様を婚約させたがっていたのに、素直じゃないな。

「レイビス様、シェリル様、セリーナ様。少しよろしいでしょうか? 次の休日に、皆様をお茶会へご招待いたしますわ」

 声をかけてきたのはクリスティ様だった。三人の名前を口にしながら、なぜかレイビス様しか見ていない。その後ろでは、カイン様が私を見ている。
 そんな状況がおかしいのか、シェリルは下を向いて笑いを堪えている。

「お父様が私のクラスメイト全員を招待したいそうですの。出席してくださいますよね?」

 上目遣いでレイビス様を誘うクリスティ様。あれほど冷たくされても、まだ粘っているところは素直にすごいと思う。

「国王陛下からのご招待なら断れないな。セリーナ、一緒に行こう」

 わざとやっているのか、これで私はまたクリスティ様の標的にされる。小さな抵抗として、レイビス様をにらみつけてみた。

「セリーナは、僕と一緒に行くよね? 今回は夜会ではないから、レイビス殿下とは約束していないだろう?」

 カイン様まで……これは、新手のいじめ? クリスティ様の顔が引きつっているじゃない!

「まあ、困ったわ。クリスティ様、私たち相手がいませんね?」

 クリスティ様の気持ちをさかでするシェリル。絶対に面白がっている。それなら私にだって考えがある。

「クリスティ様、お誘いありがとうございます。私は、シェリルと一緒に行くことにします」

 レイビス様もカイン様も顔を歪めたけれど、クリスティ様だけは私をにらみつけている。

「まあ! 嬉しいわ! お兄様と……カイン様? セリーナを奪ってしまって申し訳ありません。クリスティ様にはお相手がいないようですし、お誘いしてさしあげたらいかがですか?」

 さらにクリスティ様の気持ちをさかでするシェリルを見て、深い溜め息が出た。

「シェリル……わざとやっているわね?」

 小声でそう言うと、シェリルは可愛らしく笑った。可愛くて、憎めない……
 お茶会には特別なお客様が来るそうだ。そのお客様が、クリスティ様のクラスメイトを招待してほしいと頼んだのだという。
 陛下が頼みを聞くということは、どこかの国の要人なのだろう。私には、そう頼むような人物に心当たりがあった。


 その日の夕方、シェリルがまた「来ちゃった」と私の部屋を訪れた。

「シェリルのせいでクリスティ様ににらまれちゃったじゃない」

 怒ってはいないけれど、これ以上クリスティ様に敵意むき出しの視線を向けられたくはない。

「ごめんね。クリスティ様の悔しそうな顔を見たら、つい調子に乗ってしまったわ。でも、セリーナに嫌な思いをさせるつもりはなかった。反省してる」

 しゅんとしているシェリルを見ると、本当に悪いと思っているのが伝わってくる。

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