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二章
ガレスタ王国
しおりを挟む私たちは今、大陸の北の国、ガレスタ王国へと向かっている。
一ヶ月半前に陛下に呼び出され、レイビス様と私に頼みがあるとおっしゃった。
「レイビス、そしてセリーナ。おまえたちには、ガレスタ王国へ向かってもらいたい」
頼みとは、ガレスタ王国との外交。
グランディ王国に来て七ヶ月、まだまだ王妃教育は続いている。けれど陛下は、その王妃教育を中断してまでガレスタ王国に向かって欲しいとおっしゃった。
ガレスタ王国はグランディ王国と友好関係にある国なのだけれど、先日ガレスタ国王がお亡くなりになられた。そして、新国王として即位したのは八歳の男の子。
新国王陛下には二人の兄がいるのだけれど、お二人とも側室の子だそうだ。
サミュエルよりも若いガレスタ国王。政権は、王太后となった前王妃様と側近が握っているようだ。友好関係を継続していくかを、レイビス様に判断して欲しいのだろう。
「わあ! 一面真っ白ですね。白銀の世界……なんて美しいのでしょう」
ガレスタ王国に入ると、辺り一面に雪が降り積もっていた。グルダでも雪が降ることはあったけれど、こんなに積もったことはなかった。
「雪にはしゃぐセリーナも可愛いな」
そう言われて、頬が赤く染まる。彼から可愛いと言われることに、いつまで経っても慣れることができそうにない。
「殿下、お顔がにやけ過ぎていて気持ちが悪いです」
馬車と並行して馬を走らせていたカタリーナが、外を見ようと開かれていた窓から覗き込む。
「おまえ……シェリルに似てきていないか? 馬車の中はセリーナとの大切な時間なんだ。邪魔をするな」
「そうはいきません。セリーナの安全を守ることが、私の使命なのです。殿下とご一緒の馬車の中は、危険がいっぱいですので」
馬を走らせながら、窓にさらに顔を近づけるカタリーナ。とても器用だと感心してしまう。
「俺がセリーナを危険にさらすとでも?」
「いいえ、殿下ご自身が危険なのです」
二人はずっとこの調子だ。飽きないのが不思議に思える。
二人が言い合っている声を聞くのにも慣れてきて、長旅の疲れからか眠気が襲ってきた。目を開けていられなくてゆっくりまぶたを閉じると、そのまま眠ってしまいそうだ。
「このままだとセリーナが風邪をひいてしまう。窓を閉めるぞ。カタリーナ、王宮に着くまで気を抜くな」
「承知しております。お任せください」
意識を手放す前に、二人のやり取りが聞こえた。そのまま私は、眠ってしまう。
目を覚ますと、いつの間にか宿のベッドの上で横になっていた。
「……眠ってしまいました。申し訳ありません」
「気にすることはないよ。長旅で疲れたんだね。食欲があるなら、食堂に行こうか。この宿は、鍋料理が美味しいらしいよ」
「行きます!」
鍋料理と聞いて、一気にお腹がすいてきた。寒い国ならではの、身体があたたまる料理に胸が高鳴る。
「セリーナはそう来なくちゃな。行こう」
差し出された手を取りベッドを降りて、宿の一階にある食堂へ向かう。
「何にいたしましょう?」
恰幅がいいおばさんが、注文を取りに来る。
「名物の鍋料理をいただこう。それと、おすすめを全部頼む」
「あの……鍋料理だけでも、結構な量がありますよ?」
「かまわない。じゃんじゃん持ってきてくれ」
おばさんは目を見開いて驚いている。護衛たちは他のテーブルに着いているから、このテーブルには私とレイビス様だけ。二人でその量を食べられるのか、という驚きなのだろう。
最初に、お肉料理が運ばれてきた。
「わあ! 美味しそう!」
一口、口に入れると濃厚なソースの味わいとさっぱりとしたお肉の味が口の中全体に広がる。
次に運ばれてきたのは、とろとろの卵料理。その次は野菜を溶けるまで煮込んだスープ。その次は焼きたてフルーツパン。そしていよいよ、メインの鍋料理が運ばれてきた。
たっぷりの野菜とお肉が、大きな鍋の中で美味しそうに煮えている。小皿に取り分け、口に運ぶ。
「幸せ~」
野菜の旨みとお肉の旨みが一気に口の中に広がる。身体の芯からあたたまって、あまりの美味しさに頬が落ちてしまいそうだ。
「俺がセリーナをそんな顔にできるのは、いつになるだろうな」
レイビス様はため息混じりにそう呟く。
「レイビス様と食事をしているから、さらに美味しく感じるのです。このお肉、美味しいですから食べてください」
レイビス様の小皿に、お肉をたっぷりとのせる。
一人で食事をしていた頃の気持ちが思い出せないくらい、彼との食事が当たり前になっていた。私がこんなにも幸せなのは、彼がそばにいてくれるからだ。
「セリーナには、一生勝てないんだろうな……」
「ふふっ」
残すことなく全部の料理を平らげた後、デザートまで食べた私たちを見ておばさんは大きな声で笑っていた。食べっぷりが良かったからと、宿を出る時にパンをたくさん持たせてくれた。
もうすぐ目的地であるガレスタ王国の王宮だ。友好国とはいえ、何があるかわからない。
まだ婚約の段階ではあるけれど、ガレスタ王国へはグランディ王国の代表として赴くことになる。王妃教育を受けてきたとはいえ、私は元々貧乏子爵令嬢。完璧に振る舞えるかは自信がない。
それでも、精一杯やり遂げてみせる。レイビス様と、グランディ王国のために。
二週間後、ようやくガレスタ王国の王都へと到着した。この国は、ガラス細工や宝石などの装飾品が有名らしい。
「お店がたくさん並んでいますね」
「あとで見にこよう。セリーナに似合いそうなものがたくさんあって、楽しみだ!」
私よりも嬉しそうにしているレイビス様が、とても可愛い。
王宮の門が見えてきて、楽しい気持ちが一気になくなる。初めての国で、初めて王太子であるレイビス様の婚約者としての仕事。
不安はあるけれど、彼と一緒なら大丈夫だと思える。
「セリーナ、行こう」
差し出されたレイビス様の手を取って馬車を降り、ガレスタ王国の王宮へと足を踏み入れる。
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